第884話 睡眠時間の確保は難しい



「っと、ようやく見えてきたね。……他の皆には、どう伝えるかなぁ?」

「リク、灯りが付いていないか?」

「本当だ。誰か起きているのかな?」


 森を抜け、アルネを先頭に入り組んだ集落内を歩いて、石造りの家まで戻ってきた。

 入り口付近まで来たところで、窓から明かりが漏れている事に気付く。

 そろそろ空が明るみ始めるくらいなので、皆寝ていると思っていたんだけど……誰かトイレとかに起きたんだろうか?

 いや、各部屋の明りではなく、一階の居間の方から明かりが漏れているから、違うか。


「とにかく、入ってみよう。もうあまり寝られないだろうけど、少しでも寝て色々話したり動いたりしないといけないからね」

「……そうだな。そうなればいいが……」

「ただいまなのー」


 何かを感じ取ったのか、目を合わせようとしないアルネ……言外に、寝られない何かを予想しているようでもあった。

 ともあれ、ユノが入り口の扉をそっと開いて、小さな声を出しながら中へと入った。


「……リクさん、今までどこに行っていたのかしら?」

「……あ……モニカ、さん?」


 中に入った俺達……いや俺に声をかけた主は、モニカさん。

 何故か腕組みをして入り口横の、今へと通じる廊下に立っているが、何やら不穏な雰囲気を醸し出している。

 その後ろには、ソフィーとフィネさんが座っているのが見えた……皆起きてたんだー。


「こんな夜更け……いえ、夜明け前に私たちを置いて外へ出ているなんて」

「あー、いやその……起こしたら悪いかなーって。というか、起きてたんだ」

「そりゃ、あれだけ騒ぎながら外へ向かったら、起きるわよ。でも、追いかけようにも私達は多少慣れていても暗いし、道に迷うだけだと思って、帰りを待っていたのよ。……すぐ帰ってくると思っていたのに、こんなに遅いなんて」

「そ、そうだったんだね……」


 うん、まぁ……アルネを起こす時もそうだったけど、夜だとかは関係なく騒いでいたからね。

 部屋は別々で、個室になっているけど音を漏れ聞いて起きていてもおかしくない……もう少し静かに家を出れば良かったけど、今更だ。

 モニカさん達が起きて、外へ出られるようになった頃には既に俺達が出て行ってしばらく経った後らしく、追っても複雑な集落内をさまよう事になるだけだろうと、待っていてくれたんだろう。

 森の中に入ったり、アルセイス様と話したりもして、さらに帰りは話しながらゆっくりだったから、かなりの時間が経っているため、その間ずっと心配をかけてしまったというわけかぁ。


「えっと……心配かけてごめん」

「心配は……してないわよ。リクさんの事だから、変な事をしているとは思わないし、危険な事もほとんどないと思うから」

「何度も、リクはまだか、遅いのは何かに巻き込まれているからじゃないか、とか散々心配していたと思うがな? まぁ、確かにリクを力づくでどうこうできるわけはないが」

「ちょっとソフィー、その事はいいの!」


 やっぱり、結構心配をかけてしまっていたみたいだ。

 まぁ、危険な事だったり力づくでというのはともかく、夜中に出て行ってしばらく帰って来なかったら、誰だって心配するかな。


「やはり、そうなるな。とりあえずリク、誤魔化したり話の伝え方を考えている場合じゃなさそうだぞ」

「そ、そうみたいだね……」


 モニカさんは、腕組みをしながらこちらを睨んで不穏な雰囲気を出しながらも、俺達が無事に帰ってきた事でホッとしている様子もある。

 心配をかけてしまった事もあるし、ユノの事も含めてどこまで話そうかと考えていたけど、全てを話しておいた方が良さそうだ。

 アルネは、中へ入る前にこの事を予想していたのかもしれないな……わかっていたなら教えて欲しかったけど、知っていても避ける事はできなかっただろうし、心配をかけたのは変わりないか。

 ……それにモニカさん怖いし……ここで変に誤魔化そうとしてバレたら、余計に怒られそうだ――。



「成る程、それで呼ばれて行ったと……」

「うん、まぁそういう事」


 居間に落ち着いてモニカさん達に事情を説明……もちろん、ユノの事も含めてぼかす事はせず、全部説明した。

 ユノがこちらに来た時、妹として紹介した事に関しては謝っておいたけど、モニカさんもソフィーもあの時は仕方ないと言ってくれた。

 俺の事を信用しているとも言ってくれたけど、さすがにあの時に神様だって紹介されても、すぐに信じるのは難しかっただろうとも。

 子供っぽい行動はともかく、剣の腕とかも今は知っているから納得できるとの事だ。


「……しかし、やはりリクも?」

「そうとも考えられるわよね? フィネさんはどう思う?」

「いえ、私はそもそもにリク様が別の世界からというのを初めて聞きましたから……」

「そう言えばそうだったかしら」

「とにかく、今の話を聞くとむしろリクこそが破壊神なのではという気持ちもあるな」

「まぁ、リクさんは無差別に破壊して回るような人じゃないけど、これまでの魔法を見ているとねぇ」

「……なんだか、失礼な事を言われている気がする」

「日頃の行いのせいなのだわ……ふわぁ~だわぁ」

「……むにゃむにゃ」


 夜に抜け出した理由や、アルセイス様、ユノの事や破壊神がという話を聞いたモニカさんやソフィー、フィネさんは三人で顔を寄せ合って何やらボソボソと話している。

 なんとなく聞こえているけど、俺は決して破壊神ではないし、そもそも神様ですらないから。

 確かに、これまで魔法の失敗で予想以上に周囲に影響をさせてしまった事はあるけど、やりたくてやったわけじゃないし、不必要な破壊はしていない……多分。

 眠そうなエルサからは、あくびをしながら厳しい意見……ユノは椅子に座っているがテーブルに突っ伏して寝ている状態だ。


「夜が明けたか。俺は慣れているが、ユノには厳しかったんだろう」

「そうだね。もう外が明るいや……寝る時間はなさそうだ」


 アルネが持ってきた毛布をユノにかけながら、窓の外を見る。

 戻って来た時には既に薄っすらと明るくなり始めていた外も、モニカさん達に事情を話しているうちにすっかり明るくなって夜が明けてしまった。

 寝る時間の確保はできなかったようだ。

 それにしても、アルネが今までよりユノに対して優しい気がする……いや、寝ている子供に毛布を掛けただけだけど……もしかして、アルセイス様の事や元々が神様だってわかったのも関係しているのかもしれない。


「とにかく、事情を知ってしまったのだから、もうユノちゃんと呼べないわね……ユノ様かしら」

「いや、ユノは今まで通りに接してくれるのを望んでいるようだから、これまでと同じでいいと思うよ」

「そうだな。俺も、最初はモニカと同じように思ったが、ユノに強く言われてしまってな」

「そ、そうなのね。……わかったわ。しばらくはぎこちなくなるかもしれないけど、今まで通りに接するようにするわね」


 話が終わったのか、ユノを見ながら呟くモニカさん。

 確かに元神様で、俺は知らなかったけど創造神というこの世界における最高神とも言える存在らしいけど、ユノの反応を見るにこれまで通りが良さそうだ――。



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