第880話 神の顕現は時間制限付き



「……神の弱点を簡単に教えちゃうんですねユノ様ー。まぁ、本当に弱点と言えるかは微妙なところですが……神を害する事ができる程の魔力を持つ人は、ほぼいないし操れない事が多いですけどー」


 アルセイス様が何やら言っているのを無視したユノの説明によると、なんとなくゴーストに似た感じでいいのかな?

 神様とゴーストを一緒するのは失礼だろうし、魔法も効きにくいらしいから、全く同じとは言えないけど。

 そうか……さっき俺が放出した力の塊は、奥底にあったなににも変換されていない、純粋な魔力だったって事か。

 魔法ではないので必要ないかもしれないけど、とりあえずマジカルミサイルとでも名付けておこう……この先使うかわからないけど。


「さっきのリクは、アルセイスの圧を吹き飛ばすために、純粋な魔力を放出をしていたの。その中で、強力な魔力の塊がアルセイスに直撃したの」

「はぁ……ユノ様が主張されてるので認めるしかないですねー。あの魔力の直撃で、私は久しぶりに痛みを感じたし、本体にもダメージが来たわ。あ、今のこの体は魔力を媒介する分身体と思ってくれて構わないわよー。ちなみに、物理的な攻撃だったら痛みも感じず仰け反る事すらないわー」

「神からの圧を退けて、ダメージを与えたの。しかも、それが原因でアルセイスは圧をかけ続けられなくなったの。あのままリクが追撃していたら、間違いなくアルセイスは消滅していたから、リクの勝ちなの」


 なにはともあれ、よくわからないけどとりあえず俺がアルセイス様の試練に打ち勝った、という事でいいのかな?

 敵対する気はまったくないから、追撃とかは一切考えてなかったし、そもそもに魔力の塊で攻撃する方法とかもかんがえていなかったわけだけども……。


「いや、勝つつもりも、消滅させるつもりもないんだけど……えっと、なんというか……すみません?」

「謝られるのは、それはそれで別のダメージがくるわねー。急に試したのは私の方だし、すっかりユノ様を味方に付けている様子だから、私の負けでいいわよー。それよりも、リク君?」

「なんでしょうか?」


 ちょっとおざなりかもしれないけど、なんとなくやり過ぎだと言われているような気もしたので、アルセイス様に謝っておく。

 とりあえず、許してくれたらしいアルセイス様は、改めて疑問に持った様子で、俺を呼んだ。


「あれだけ魔力を放出したのに、平気なのー?」

「えっと……平気かどうかと聞かれると、多分平気としか言えません。まぁ、疲れは感じますけど」

「……あれだけの魔力を放出して、疲れを感じるというだけで済んでいるのがおかしいわねー。これは本当に、私じゃかなわないわー」

「リクは頑張っているから、魔力も前より増えているの。でも、多分最初からアルセイスに勝てるくらいの魔力はあったのよ?」

「もはや、異常と言うしかありませんねー」


 神様にも異常と言われる俺の魔力って……それはともかく、確かにかなりの魔力を放出した感じはあるけど、疲れを感じるだけで済んでいる。

 なんとなくだけど、以前ルジナウムで魔物と戦った時に使った魔力と同等かそれ以上を、一気に放出した感じがあったんだけど……制御とか考えず、とにかく体や精神にかかる圧を退けるために必死だったからなぁ。

 結局、それでも倒れたり動けなくなったりする事がないから、異常と言われてしまっているんだろうけど。


「はぁ……このままこの話を続けていたら、私の神としての肩身が狭くなるだけだわ。それに、そろそろ限界が近いようだしねー」

「……う……く……」

「アルネ?」


 溜め息を吐いて、アルネの方を見るアルセイス様。

 俺もそちらを見ていると、ずっと静かにしていたと思っていたアルネが額に汗を滲ませて、苦しそうにしていた。


「だ、大丈夫……です。まだ余力はありますから……」

「限界まで魔力を使って、枯渇させてもいけないでしょー? 私の目的は、エルフの一人から魔力を吸いきる事じゃないからねー」

「アルセイスは、アルネの魔力を使って顕現しているから……」


 どうやら、アルセイス様がこの世界に顕現している状態のままだと、アルネの魔力を使い続けているという事らしい。

 体を形作るのもアルネの魔力だったわけだし、それもそうか。

 ともかく、このままだと時間切れになってしまうので、俺の事はさておいて本題の話をする事になった。


「私がユノ様に呼びかけた理由は、一つはリクを試すためだったのだけどねー。ユノ様の傍にいる人間が、取るに足らない人間だとうるさいのがいるからー。まぁ、私はエルフと親しいようだし気にしなかったんだけどねー」

「リクは私を助けてくれてたの。それに、リクと一緒にいると楽しい事がいっぱいなのー!」

「美味しい物を食べているばっかりな気がしないでもないけど、それも楽しみの一つか」

「ま、まぁ、ともかくもう一つの理由を話すわねー。神としてはリクの方が関心事だけど、この世界にとってはこっちの話の方が影響が大きいわー」

「世界に影響が大きい話、ですか?」


 さっきも、俺以外に話があるような事を言っていたから、その事だと思う。

 けど、世界そのものに影響のある話って、一体なんだろうか? 創造神らしいユノがここにいるのに、それ以上影響を及ぼすような事って、あるのかな?


「んんっ! ここからは真面目モードね。……ユノ様、あの方が本格的に動き始めました。おそらく、ユノ様がこの世界に受肉している事が原因かと思います。まぁ、本質があれなので、ユノ様が押さえていてもいずれは……と言うところでしたでしょう」


 咳払いを一つして、急に真剣な表情になったアルセイス様。

 話し方もがらりと変わってユノへと話す姿は、部下から上司への報告をしているように見えるし、周辺一帯の雰囲気まで変わったので、神様としての威厳というのも発揮しているようにも思える。

 最初からこの様子で出て来ていれば、アルネもショックを受けずに済んだだろうになぁ……と思うけど、今は冗談を言っている雰囲気じゃないね。

 アルセイス様が言っている、あの方って言うのは誰の事だろう?


「そう……いずれ動き出すのは避けられなかったと思うけど、私が抑えていない分早くに、という事だな」

「はい、そうなります」

「私は受肉しているから感じ取れなかったが、アルセイスはそれをどこで? 権能を考えれば、あやつの動向を探る事はできないはずだ」

「ここに来る前……時期を考えると、丁度前回ユノ様達がこの森付近に来た時より前から、しばらく別の場所へ行っていたのです。そこで、影響を与えるあの方の存在を感じ取りました」

「ふむ……」


 アルセイス様だけでなく、ユノも真面目な雰囲気でいつもの子供っぽい喋り方が鳴りを潜めて、何やら深刻な様子で話し始めた。

 多分、神様関係の話だから、聞いていても俺にはちんぷんかんぷんなんだけど……。


「あぁ、リク達にも説明せねばな……」

「よろしいのですか?」

「私と一緒にいるうえ、先程の魔力を考えれば、いずれ必ず接触する事になるだろう。それに、おそらくもう既に関わってしまっている」

「そうですか。ユノ様がそう判断したのなら、私からは何も……」

「うむ。……えっとだな、リク……んんっ! えっとね、リクにもわかりやすく話すの」



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