第876話 森の神アルセイス顕現



 周囲を確認して、他の場所とは違うんだと理解して呟くと、ユノがこの場所について教えてくれた。

 アルネも納得しているようだし、やっぱり森の中であって森ではない場所……と言う事で考えて良さそうだ。

 そういえば俺がこの世界へ来る前、初めてユノと会話をした時も、神様がいる場所というか、神域だったっけ。

 確か……神の御所とか言っていたっけかな……まぁ、あそこは完全に神様達が住む場所らしいけど。


「って、神域って事は、俺達がいても大丈夫なのか? 前にユノと話したあの場所は、人間とか神様以外が長くはいられないんだろう?」

「んー、ここと神の御所は違うの。だから、何日もいたりしなければ問題ないの。神域と言っても、この世界と繋げた場所ってだけだから、リク達に影響はほとんどないし、追い出されたりもしないの」

「そうか。なら良かった」


 神の御所は、人間が長くはいられないとユノが言っていたはずだから、あそこと同じなら、ここにも長くいられない……制限時間のようなものがあると考えたんだけど、ユノが首を振って否定した。

 少ししかいられないなら、長話もできないし、あまりゆっくりはしていられないかなぁと思っていたんだけど、それなら安心だね。


「それでその……実際にアルセイス様はどこに? 全くお姿が見えないのだが……」

「まだ姿自体は現していないの。つまり、この世界とは直接繋がっていないって事なの。だから、アルネ……えっと? うん、わかった。――アルネ、ちょっと魔力を外に出すようにしてみて?」

「魔力を?……わかった」


 アルセイス様を見ようとしてだろう、アルネが忙しなく首を動かしながら、ユノへ訪ねる。

 すると、アルセイス様から言われたらしい事をアルネに伝え、魔力を放出するように言った。

 直接世界と繋がっていない、か……さっきもユノはそう言っていたけど、つまり神様がこの世界に直接干渉するためには、何かしらの繋がりが必要だって事だろう。

 ユノは特別というか異例だけど、無理矢理とか力任せとかでなければ、媒介が必要と考えれば良さそうだ。

 まぁ、生贄とかではないようだし、安心してユノとアルネに任せるとしよう……神様と生贄って、付き物だからね、あれは日本の自然信仰とか物語での場合で、この世界とは関係ないんだろうけど。


「む……変換していないはずの魔力が、何かに変わっていく感覚があるな」

「アルセイスが繋がって来ている証拠なの。その感覚を大事にして……目から多めに出すの」

「え、目から?」

「……こう、か?」


 魔力を放出する中で、本来魔法へと変換される操作をしていないはずなのに、アルネは何かに変換されるのを感じているようだ。

 ユノが言うには、それがアルセイス様と繋がっているという事らしい。

 それはともかく、目から魔力を放出って……? と首を傾げて呟く俺を余所に、ユノに言われた通り魔力を操るアルネ。

 段々とアルネの目が緑色にほのかに光り始めた……多分、魔力が集まって視認できるようになったんだろう、緑なのは変換されている証拠だね。


「むお!?」

「アルセイス、出てくるのー!」

「はーあーいー」


 突然、アルネが驚きの声を発すると同時、ユノがアルセイス様に語り掛ける……というより呼び出すように叫んだ。

 すると、アルネの目からほんのり淡く光っていた魔力の塊が、放射状に放出され、霧のように広がった後一つの塊のように集合して行った。

 酒豪下霧の中からは、間延びしたような女性の声が、はっきりと聞こえる……おそらく、ユノの呼びかけに答えたアルセイス様の声なんだろう。

 そしてその切りはそのまま、女性の体を形作り、少しずつ収まって行った。


 というか、傍から見ていた現象を冷静に考えると、アルネの目から光る霧が出たようにも見えるし、男性のアルネから女性が出て来る、という光景にも見えるね。

 シュールというかなんというか……神様の登場シーンとして、これでいいのだろうかと思わなくもない。

 肝心のユノが、なぜか満足そうに胸を張っているので、これでいいんだと思う事にするけど。



「はぁ~やっと顕現できたわー。やっぱり、繋がりのあるエルフの魔力がないと、干渉するのも難しいわねー。あら? あらあらあらあら!」

「アルセイス、さっきまで声だけで話はしていたけど、久しぶりなの!」

「あらあらまぁまぁ! ユノ様でしょ? ユノ様よね? 話をしていて姿はお互い見えていなかったけど、随分とかわいらしいお姿になりましたのねー!」


 現れたアルセイス様は緑色の肌をした女性だが、色はともかく透明感のようなものが感じられる……いや、魔力が元になっているからなのか、体が透けていたりするんだけど。

 体が透けているって幽霊かな? と失礼だったり不敬だったりする事を考えながら、アルセイス様の言葉を聞いていると、こちらに目を向けた瞬間、突然驚いたような声を出し始めた。

 驚いたというか、何やら嬉しそう、かな?

 お互い姿を見るのは久しぶりらしく、ユノがアルセイス様に手を上げて挨拶をすると、興奮した様子だ。


「むー! 苦しいの、アルセイス!」

「あらあらー、これもユノ様がかわいらしいから、仕方がないわねー。よっと……」

「はふぅ……アルセイスはもう少し衝動で動かないように、気を付けるの!」


 スレンダーな女性の形になったアルセイス様が、ユノに詰め寄る……というか興奮したまま、ガシッ! と突然抱き締めた。

 さすがに急な事で息が苦しかったらしく、タップするユノに気付いてすぐに離して、注意もされているけど、特に気にした様子は見えない。

 ユノが喋り方を真似した時から感じていたけど、やっぱりちょっと軽い感じの性格をしているんだなぁ。


「……くっ!……ぜぇっ、はぁ……はぁ……」

「大丈夫、アルネ?」

「な、なんとかな……はぁ……はぁ……」

「あらぁ? エルフ一人で私を顕現させるのは、ちょっと厳しかったかしら? でもまぁ、なんとかなったからオッケーかなー。体は半透明だけど」

「せめてもう一人エルフがいれば良かったの。けど、他にいなかったから仕方ないの」

「そうよねー。エルフはそれなりにいても、私の姿を誰にでも見せるわけにはいかないしー……私は、皆の前に出てもいいんだけどー」


 アルセイス様とユノとのやり取りを見ていたら、魔力を放出したアルネが膝をついて荒い息を漏らしていた。

 声をかけるとちゃんと答えてくれたので、大丈夫そうではあるけど、かなりの魔力を一気に消費した事からの疲労っぽい。

 どういう仕組みかは俺にはわからないけど、神様の姿を形作るのだからそういうものなのかもね。

 他のエルフさん達に、ユノやアルセイス様の事を話す時間もなかったし、アルネ一人が負担するのは仕方なかったんだろう……多分、フィリーナがいたら一緒に来る事になっていたんだろうけど。


「というか、半透明でも触れるんだ……ユノだからかな?」

「エルフの魔力を媒体として顕現しているけど、アルセイスは今ここに存在しているの。だから私以外も触れるの」

「あら、そっちがユノ様を攫ったリクって人間ね?……んー、触ってみたい?」

「攫ったって、そんな覚えはありませんけど……遠慮しておきます」



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