第868話 長老達の現状
「外を見ず、内にこもっていて満足し、自分達が上にいるのだと勘違いしているからこそ、だろうな」
自分が最優先、という事を否定したりはしないけど、勝手に他人を下に見て慮る事もせず、実がないのに偉いのだと思い込んで勘違いする典型……という感じかな?
「それで結局、長老達はどうなっているんだ? 今の話を聞いていると、エヴァルトと話しているように聞こえるが」
「実際、ここしばらくで何度か話したぞ。……人間が集落にある程度来るようになってからだったか、それくらいに向こうから俺に話を持ち掛けてきた」
「まぁ、長老達にとって人間が集落に訪れるのは耐えがたい事のはずだから、何かを言いに出てくるのは不思議じゃないか。しかし、その言い方だと文句を言われたようには聞こえないな?」
「文句ではなく、懇願だったな。人間が増えた事でリクさんが本格的に動いたのではないか、と言ってきた。まぁ、勘違いなんだが……それで、自分達はどうしたらいいのかと、助けてくれ、せめて細々とでも森で生きられるようにリクさんの留飲を下げて欲しい、とな」
「俺、そんなに怖がられていたんですね……確かに腹は立ったけど、別に拘わらなければいいかくらいにしか考えていなかったのに……」
「凝り固まった考えで、勘違いしている者というのは、そういうものなんだろう。しかし、ようやく動き出しても、他人頼りな物言いに呆れるしかないな」
長老たちは、多くの人間が集落に訪れるようになった事を察知し、危機感を募らせてエヴァルトさんに助けを求めたんだろう。
けど、結局自分でどうにかしようとか、反省しているとかもなく、ただ頼むだけというのがなんとも……見れば、実際に長老達の事を知らないフィネさん以外、アルネと同じように呆れている様子だ。
エルサは寝ているだけだけど、ユノも呆れているから相当だね。
「実際、俺も話を聞いた時は呆れたさ。そして同時に、ここで安易にリクさんが何かするつもりではないと言ったところで、深く反省したり、凝り固まった考えを変える事はないんだろうと感じたな」
「それで、エヴァルトはどうしたんだ? リクとの間を取りなす、とは言っていないようだが」
「あぁ、とりあえず適当な事を言って追い返せば、また引きこもるかと思ってな……正直、同じ集落に住むエルフの同胞だが、リクさん同様あまり拘わりたくなかったからな。だが……俺が言った適当な事を、本当に実行し始めたんだ」
「適当な事って、どんな事を言ったんだ?」
「ひとまず、精神を鍛えるために体を先に鍛えるべきだから、毎日見回りも兼ねて集落を外から一周するように走る事。そして、集落内や外でもすれ違う人間には必ず、友好的に挨拶をする事。そして極めつけに、『リク様万歳! 人間、獣人大歓迎! エルフの集落へようこそ!』と広場で毎日数回叫ぶように、と言っておいた」
「……途中まで、いえ、途中も結構アレですけど……最後はどうなんでしょう?」
体を鍛えて精神も、というのはエルフでも珍しく大柄でガタイのいいエヴァルトさんだから、なんとなく納得できなくもないけど……体育会系の罰みたいなのは置いておいて。
すれ違う人に友好的に挨拶というのは、人間への友好を示すにはいいかもしれないけど、長老達の自尊心をボロボロにしそうだなぁ、今まで見下してきて排除する考えだったから、特に。
とはいえまぁ、そこまでは無理矢理納得できたとしても、最後のはどうなんだろう……。
いや、人間や獣人を歓迎するとか、ようこそって言うのはまぁ悪くないと思う……これまでの長老達の考えを全否定するようだけども。
でも、俺の名前を付けて万歳って言うのは……恥ずかしいとか以前に、変な方向に目覚めそうな文言だ。
俺、信者とか絶対君主とかになる気は、一切ないからね!?
「いや、自分でも言っていてどうなんだろうとは思ったんですけど……これなら長老達が怒ってさっさと帰ると思ったんですよ。実際、長老のうち何人かは今にも俺に襲い掛かろうとするような目で見ていましたから」
「引きこもっていただけの長老達が、エヴァルトに襲い掛かって勝てるわけはないだろうがな。まぁ、長老と言うだけあって長く生きているせいか、単純な魔法での戦闘になれば別だが……話をしているのだから距離も近かったのだろうし、魔法を使う猶予があればエヴァルトが動ける」
「まぁ、そうだな。だから俺も、あからさまに怒るだろうと思って言ったんだ。適当な事を言ったつもりだが、今更ながらに自分でも酷いな……」
「随分危ない橋を渡りますね……というか、酷いと思うなら言わないで下さいよ」
体の鍛え方で、確実に長老達はエヴァルトさんに勝てない。
距離を取って余裕を持っての魔法戦なら別だろうけど、俺があった時は結構、身体的な衰えが激しいんだろうなと思えるくらいの老人達だったから、束になっても直接戦闘ではエヴァルトさんに敵いそうにないね。
話ができる距離なら、手を伸ばせば届く距離でなくとも、一歩で詰めれるくらいだろうから、攻撃する魔法を使おうとした時点でエヴァルトさんにやられてしまいそうだ。
適当に言ったと言っているエヴァルトさんも、それくらいは警戒していただろうから。
「あの時は、とにかくさっさと追い返そうとばかり考えていましたので……ともあれ、様子を見る限りではすぐに怒って暴れるか、また引きこもるかのどちらかだと思っていたんですけど……」
「けど?」
「なんとなく嫌な予感というか、長老達の頭の中が疑わしくなりそうな答えが待っていそうだが……どうなったんだ?」
若干言いづらそうにするエヴァルトさんに、俺とアルネで先を促す。
黙って聞いているモニカさん達も、長老達がどうしたのか興味があるらしく、少しだけ前のめりだ。
うーん、あれだけ偉そうな事を言っていた長老達が、逆に無茶な事を言われたらどうするのか、っていう興味かな? エルサ以外の……長老達を直接知らないフィネさんすら、ちょっと楽しそうだ。
難しい表情をしているのは、話しづらそうなエヴァルトさんと、嫌な予感と言っているアルネくらいだね。
「まぁ、アルネが考えている通りだと思う。長老達のうち、一部が適当に言ったはずの俺の提案を受け入れてな。それで自分達が存続できるのなら、と反発しようとしていた他の長老も説得してしまった」
半ば予想していたけど、適当に言ったエヴァルトさんの提案を、長老達は受け入れてしまったらしい。
もう少し交渉というか、お互いが譲歩できる条件にするとか、話し合いの余地はあっただろうになぁ……いや、エヴァルトさんの言った事に譲歩できる部分や、交渉するべき部分があるかは微妙だけど。
お互いの歩み寄りとかさぁ……それができないから、どうかと思う提案でも受け入れてしまったのかもしれないけども。
「なんという……しかし、反発していた長老側は、すんなり納得しなかっただろう?」
「いや、それがそうでもない。既に人間達が多く集落に来ている事、以前リクさんを怒らせている事から、相当な危機感を募らせていたみたいでな。このままでは我々……長老達だけの事だろうが、それが危険だと。集落内での発言権もなくなり、いずれは排斥される側に回るだろうとな。一応、それくらいは考える事ができたみたいだ」
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