第828話 アルネが改良を完了



 戦争に関する知識は、姉さんも俺と似たような感じだろうけど、国を背負っている分俺以上に民の事を考えてくれているようで、ハウス栽培に関してちゃんと協力しようという思いが出る。

 俺にできるのは結界を張るくらいだけど……それでも強固な結界で、魔物や外敵な要因で作物に被害が出ないように務めたいね、できるかどうかは別として。

 ……クォンツァイタ次第なところはあるけど、魔力が強すぎてもいけないだろうから、張り切り過ぎは禁物だと自分に言い聞かせながら――。



 ――それから数日、訓練をしたり時折町を歩いてみたりして、のんびりとした時間を過ごした。

 その間、アルネはずっと研究で城にこもりっぱなしだったらしいけど、クォンツァイタの調整をしたり、本題である魔法の改良などにも取り組んでいたようだ。


「リク、そろそろこちらも準備が整ったぞ。あとは結界内の温度調整をどうするかだな」

「そうだね。クォンツァイタも、俺が魔力を込めても崩れたりしなくなったみたいだから……よくここまで短期間でできたなぁ」

「他の利用法はともかく、最初の使い方はリクの結界を維持するのが役目だからな。まぁ、俺や他の者達が魔力を込めるでもいいんだが、リクの魔法に魔力を供給する以上、リクの魔力を込められるようにした方がその後の処置も楽になる」


 研究に没頭ていたアルネは、俺が魔力を込めようとすると量が多過ぎて自壊してしまう部分の改良に成功していた。

 とは言っても、全力で込めるとそれでも自壊してしまうから、ある程度加減して魔力を込めないといけないんだけど……でも、俺が魔力を込められるようになったのは大きい。

 他の人だと魔力量の問題で、込めるのに時間がかかってしまうからね。

 自壊しないための措置として、過剰な魔力はできるだけすぐに発散するような仕組みを取り込んだらしいけど、自然に放出すると蓄積させる意味がないので……とか説明を受けた。


 仕組みなんかはなんとなくしか理解できなかったけど、一番の問題である蓄積される魔力量に関しては問題ないとフィリーナからお墨付きが出ている。

 なんでも、ヘルサルで俺が隠していたガラス程ではなくとも、それなりに魔力を蓄積できているから、結界の維持には問題ないらしい……ある程度日数が経ったら、魔力の少なくなったクォンツァイタを交換するか、魔力を補充する必要があるらしいけど。

 数年は確実に保つだろうらしいので、一度結界の維持へと組み込めば大丈夫だろうとの事だ……時間があれば、研究も進むし準備もできるからだろう。


「それじゃ、明日……はちょっと早いかな。明後日にエルフの集落へ出発しよう。途中ヘルサルに寄って、結界の様子とかを見るけど大丈夫かな?」

「それは問題ない。むしろ、フィリーナが施したガラスへの魔法具化や、リクの結界を維持している状態にも興味があるからな」


 明日は準備する日に充てて、明後日出発で良いかと確認を取る。

 部屋にはアルネとフィリーナ以外にも、モニカさん達がいるので皆に対しての確認だ……全員頷いてくれたから、予定は大丈夫そうだ。

 後で、ここにいないエアラハールさんにも伝えておかないと。


「あ、私は今回、王城に残っておくわ。ヘルサルでの様子を見て、アルネからの確認次第ではあるけど……もう少し魔力効率良く、魔法具化を施せるように思うの」

「本来、そういった研究も俺の領分だったのだが、リクが作った魔力ガラスへの処置や、クォンツァイタを見て研究を始めたようだ。城の書庫にある資料のおかげもあるが……今では、俺より知識が多いくらいだな。まぁ、俺がクォンツァイタを魔力タンクにする研究ばかりしていたのもあるが」

「成る程……わかった。それじゃ今回はアルネだけだね。まぁ、エルフの集落に行くのにどちらもいないのはいけないだろうけど、どちらかが来るのなら問題ないと思うよ」


 フィリーナは、前回ガラスに施した処置をまだ改良できると考えて、そちらの方面で研究を続けたいみたいだ。

 まぁ、ツヴァイのいた研究施設の帰り、意気消沈するほどの事を見てしまったのもあるから、のんびり王都で研究しながら過ごして欲しいと思う。

 エルフの集落にはエヴァルトさんがいるし、前に行った時にほとんどのエルフ達と顔を合わせているから、話をする分には問題ないだろうけど、温度調節に関する話をするにはアルネかフィリーナのどちらかがいた方がいい。

 今回はアルネが一緒に来てくれるようだから、それで大丈夫だろう。


 魔法関連の研究に関しても、アルネの方が詳しいだろうからね。

 あとは、持って行く物とかを確認して……ヘルサルには遅くとも数時間で到着するだろうから、多くの荷物はいらないだろうけど、そこからエルフの集落へと考えると、王都でちゃんと準備しておいた方が良さそうか。


「リク、早速出番なのだわ。これにいっぱいキューを詰め込むのだわー」

「多分キューがはみ出ると思うけど……いっぱいでいいのか?」


 エルサは、城から離れる話を聞いて、背中に背負っているがま口リュックを口先で示しながら、アピール。

 多分、リュックを活用したいのと、せっかくお小遣いをもらったから使ってみたいんだろう。

 けど、やっぱり小さいリュックだから、キューを入れるとはみ出すだろうなぁ……買い物袋から、ネギがはみ出すような感じで。

 買い物袋より、リュックの方が小さいけど。


「……少しだけ、他のお菓子も入れるのだわ」

「はは、わかった。それじゃ、エアラハールさんにも伝えなきゃいけないし、明日は皆で準備の日だ」


 キュー以外にも、エルサお気に入りのお菓子があるらしく、それも一緒に買う事が決まって、エルフの集落への出発が決まった。

 皆も頷いて、しばらくぶりに王都を離れるからか、少し意気込みが増している様子だね……様子を見るのが主目的で、何か大きな魔物と戦うわけじゃないんだけど。

 ともあれ、俺はエルサがお菓子とキューを買った時、どうやって分けてリュックに入れるかを考えないと……一緒にリュックへ突っ込むだけだったら、お菓子の方が駄目になってしまいそうだからね。

 ……というか、エルサお気に入りのお菓子って、まさかとは思うけど俺の顔を模した饅頭……とかじゃないよね?



「それじゃりっくん、よろしくね。アルネも、頼んだわ。あまり重圧をかけるわけじゃないけど、今回の話次第で、国内の作物生産効率が劇的に変わるかもしれないわ」

「うん。まぁ、なんとかなるように頑張るよ。と言っても、頑張るのはエルフ達だけど」

「はい、陛下。陛下のお言葉を胸に刻み、交渉に当たりたいと存じます」


 翌々日、出発の準備を終えた俺達は、城の中庭に集まって少しだけ話す。

 姉さんはハウス栽培への意気込みか、俺達の見送り……離れた場所でヒルダさんがこちらをジッと見ているから、仕事を抜け出して来たんだろうなぁ。

 ハウス栽培は、大袈裟ではなくこれからのアテトリア王国にとって、できるかできないかは重要な事らしいので、一応見逃されている気配も感じる。

 俺としては、これから先の国の事はわからない事が多いけど、農家の人達が楽になる方法があるのなら、精一杯協力したい……できる事は限られているけど。



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