第770話 荷物の量は見合った量を持ちましょう



 フォルガットさんから詰所にいた理由を聞けば、これから先のクォンツァイタ運搬に関して話していたらしい。

 今回だけは兵士を使っての安心安全な運び出しだけど、この先ずっとというわけにはいかない。

 だから、運び出す時や運んでいる最中の監視で兵士を使う事はあっても、全てを兵士がやるわけにはいかないため、話し合う必要があったんだろう。


「まぁ、基本は今まで通り他の鉱石と同じようなやり方で運ぶ事になった。一応、兵士からも人を出して監視体制を築くようだ。とはいえ、今のところ陛下直々の王都くらいしか買い手がないがな」

「クォンツァイタ自体が、まだ広く知られていませんからね」


 アルネによる研究だってこれからだ。

 姉さんが大量に欲しがって買うくらいで、今まで見向きもされなかった鉱石が、他に売れるようになるわけもない。

 そのあたりは追々ってところだろうと思う……アルネの研究や、魔法具への応用などが確立されたら、飛ぶように売れるんじゃないかと考えたりもするけど、そのあたりは値段次第かな?


「とはいえ、現時点でもこれまでの鉱石を掘り出すより、いい稼ぎになるのは間違いない。これも、リクがクォンツァイタの話を持って来てくれたおかげだな、ありがとよ!」

「いえ、俺が見つけたわけじゃありませんし……」


 クォンツァイタが魔力を蓄えるというのは、アルネが調べて情報を手に入れただけだし、それを使って結界維持のための魔力蓄積用に……というのは姉さんがやりたがっている事だしなぁ。


「クォンツァイタの事は、この街に十分な利益をもたらすとしていいのだが……」

「十分どころか、二十分も三十分も利益になる事だな」

「それはともかく……フォルガットさん、エクスブロジオンオーガの方はどうなっている? また確認されたりは?」


 ソフィーがクォンツァイタから話を変え、エクスブロジオンオーガの話題を振る。

 鉱石関連は大事な事ではあるけど、俺達が様子を見に来たのは、またエクスブロジオンオーガが出たりしていないかの確認のためだからね、忘れちゃいけない。

 ……忘れてないよ、うん。


「エクスブロジオンオーガか、そちらはあれから確認はされていないな。まぁ、クォンツァイタだけでなく再開した採掘にかかりっきりで、鉱山全体を見られていないというのもあるがな」

「そうですか。やはりもうエクスブロジオンオーガは残っていない可能性が高いですね」

「あぁ、リク達のおかげだ。クォンツァイタに限らず、また採掘ができるようになって、街も以前の明るさを取り戻したからな」

「そういえば、今日は以前いた時よりも人の往来が多いような気がしますね……?」

「前にワシ達が来た時は、チラホラとしか住民を見なんだが……今は違うのう」

「それに、なんとなく表情も明るく見える。まぁ、まだ街の外から来ているような人間は、私達以外いないようだが……」

「それも、いずれ解消されるさ。鉱石が採掘されれば、それを買いに来る商人が街を訪れる。そして、その商人を護衛する冒険者もな。また、以前の賑わいに戻るのはそんなに時間がかからないだろう」



 フォルガットさんが言うには、この数日でエクスブロジオンオーガが出たりはしていないようで、少し安心。

 完全に全てを見回ったわけでもないし、また隠し通路やら地図にない場所に潜んでいる可能性もなくはないけど、全面的に再開された採掘をしている鉱夫さん達が見つけていないのなら、いない可能性の方が高そうだ。

 安心している俺達に、フォルガットさんが街を示すように言って、立ち止まっている場所から見える範囲を見渡してみると、以前よりも人出が多いように見える。

 それぞれ何かしらの道具を持っているのを見ると、鉱山内で働く人達がほとんどなんだろうけど、なんとなく暗い雰囲気で歩いていた以前とは違い、行き交う人の表情は明るく見える。


 離れた場所からは、笑い声が聞こえたりするくらいだ……初めてここに来た時は、酒場ですらほとんど笑い声とか聞こえなかったのになぁ、と少し感慨深い。

 それはエアラハールさんやソフィーも同じだったようで、俺と同じように街を見渡して少し嬉しそう……初めてきたモニカさんやユノ、フィネさんはキョトンとしていたけど。

 さらに、いずれまた再開された事を聞きつけた商人が来たりして、賑わいを取り戻すんだろう……最初は調査をするだけの依頼だったのに、自分が頑張った事の結果が街の人達の笑顔に繋がっているように思えて、なんだかニヤついてしまう。


「おっと、このまま長話しちゃいられねぇ。詰所で話した事を組合に戻って話さなきゃ、怒られちまう」

「ははは、組合の人達、話しがどうなったか気になっているでしょうね」

「クォンツァイタ関連は、今や街の皆の関心事だからな。リクも来るか?」

「んー、また後で行く事になりますけど、今は先に宿にでも荷物を置いて来ます」

「……そうか、わかった。それじゃ、先に組合に言っておく事にする。また後でな」

「はい、また後で」


 安定した利益にも繋がる話だし、組合にいる人達は首を長くして待っているだろう、多分。

 一緒に組合へとフォルガットさんから誘われたけど、ちらりとフィネさんを見て先に宿へ荷物を置く事を決める。

 フォルガットさんも俺の視線の先を見て納得したのか、頷いて組合の建物の方へと去って行った。


「……大丈夫ですか、フィネさん?」

「だ、大丈夫です。問題……ありません……!」

「無理はしなくていいんですけど、ともかく、宿へ言って荷物を降ろしましょう」

「……すみません」

「いえ、ちょっと立ち話をし過ぎた俺が悪いですから」


 フォルガットさんも納得したフィネさんの様子……立ち話をしている間、ずっと重い大きな荷物を背負ったままで、少しだけ姿勢が崩れてしまっている。

 横からモニカさんやユノが支えているけど、それがなかったら倒れてしまっていたかもしれない。

 無理せず荷物を置けばいいのにと思うけど、大事な武器が入っているから地面に放り出したりしたくなかったんだろう。

 ともかく、さっさと宿に行ってフィネさんを楽にしてあげよう。



「すみませーん!」

「はーい! あ、リク様!」


 荷物を置いて一息入れた後は、組合へ……と思ったけどまずはブハギムノングの冒険者ギルドへ。

 以前お願いしていた魔力の線を追う依頼に関して、ベルンタさんと話しておかないといけないからね。

 ルジナウムで話した通り、ここの冒険者はちゃんと依頼をこなしてくれたみたいだし。


 王都やルジナウムなど、大きな街にある冒険者ギルドに見慣れている、モニカさんやフィネさんがブハギムノングのボロい……おっと、質素な建物に驚いているのを見て苦笑しながら、中に入って奥へ声をかける。

 返事をしてくれたのは、パタパタと騒がしい音を立てて奥から出てきたアルテさん……相変わらず触り心地の良さそうな耳と尻尾だなぁ……あ、いや、エルサが一番いいモフモフだから。

 俺の考えを感知したのか、頭にくっ付いているエルサからの締め付けが、一瞬だけ強くなった気がしたので、脳内で褒めておいた――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る