第766話 フランクさんからのお願い



「しばらくの間、フィネを同行とまでは言いませんが、コルネリウスから距離を取らせるのに協力して頂けませんか? いったんコルネリウスと離しておき、様子を窺いたいのです。カルステンも同様にとは思いましたが、そちらは今内部の調査をさせています。それに、コルネリウスはフィネの姿が見えていたら、そちらに意識が向いてしまいそうですから」

「子爵様!?」

「先程、リク様達が来られる前のフィネは、コルネリウスといる時よりも、生き生きとした様子で報告をしていました。まぁ、模擬戦を申し込んだりと、迷惑をかけてもいたようですが……」

「……すみません」

「いえ、迷惑なんて事は。フィネさんとの模擬戦は得る事が多かったので、ありがたかったくらいですから」

「それでしたら……」


 フィネさんからの模擬戦は本当に参考になったから、迷惑なんて事はないと伝えて、フィネさんを俺に同行させる考えを、フランクさんから聞く。

 フランクさんは、コルネリウスさんとフィネさんの二人を、物理的に距離を取らせてどうなるか……というより、その吹き込んだ使用人を炙り出したいらしい。

 本人に直接聞けば……とも思うが、あのコルネリウスさんが素直に話しそうになく、吹き込んだ時に喋らないよう言っている可能性もあるうえ、直接接触した人物以外にも、協力者というか要は他にも企んでいる不届き者がいるかもしれない。

 そういった人物達を炙り出し、この機会に子爵家に仕えている人達の中で不穏な者を排除したいとの考えとの事だ。


 姉さんも言っていたが、バルテルが起こした事件の影響もあって、貴族位で空位が多く、近いうちに伯爵に陞爵する内示も出ているので、今のうちにやれる事やって内側を盤石にしたいという考えもあるらしい。

 フィネさんが近くにいると、コルネリウスさんがそちらを頼ってしまうので、炙り出しも不十分になるかのせいもあるとして、俺と同行……つまり王都へ向かわせておきたい、と言われた。


「同行と言っても、常に連れ歩く必要も、ましてやフィネをリク様と同じ冒険者のパーティに入れて欲しい……とまでは言いません。王都へ行けばフィネには自由に過ごして構わないと。今まで、子爵家に尽くそうと頑張っておりましたからな……休暇のようなものです。もちろん、逆にリク様達がフィネをパーティーにと考えたり、フィネ自信が頷くのであれば、自由に使ってくれて構いません」

「子爵様がそう仰られるのであれば、私はそれに従うまでです。いえ、リク様と同行するのは、私にも利点が大きい事だと思います。リク様がよろしければ、是非ともご一緒したいと……コルネリウス様は、少々心配ですが……」

「カルステンもいるからな。これまでは甘やかしすぎた……今回の事で、正確を捻じ曲げた使用人を追放し、改めさせるいい機会だろう」

「うーん、フランクさんのお願いで、フィネさんも了承してる。でも……どうしよう、モニカさん?」


 つまりは、フィネさんを王都へ連れて行くだけで、あとは別々になっても構わない、という事だろう。

 まぁ、女性を一人で放り出すのは気が引けるから、フィネさんが嫌でなければ一緒に行動するのは構わないかな……Bランクの冒険者だから、心配する必要はないんだろうけど。

 ともあれ、どうするかを俺一人では決めきれず、隣にいるモニカさんに聞いてみた。


「リクさんがパーティリーダーなのだから、リクさんが決めてもいいと思うのだけど……私は、フィネさんから得られる事も多いから、構わないわよ。ソフィーも同意見だと思うわ」

「モニカさんとソフィーも問題ないなら、大丈夫そうかな。まぁ、今回一緒に行動して何も問題らしい問題は……テントがあったっけ……」

「あれは、フィネさんよりも私達が原因だから……ごめんなさい」

「あはは……一応補修してくれたから、大丈夫だよ。それじゃ、フィネさんも同行して……」

「あ、リクさん。一つ気を付けないといけない事があるわ!」


 パーティリーダーだからって、なんでも勝手に決めていいわけじゃないからね。

 でも、モニカさんやソフィーも大丈夫そうなら、何も問題はないか……テントを穴だらけにしたのは置いておいて。

 それならと、フィネさんの同行に頷こうとしたら、モニカさんが遮って声を上げた……気を付けないといけない事?


「ユノちゃんも大丈夫だろうけど、問題はエアラハールさんよ、リクさん!」

「あー……確かにそうですね。フィネさんを見たら……」

「え、なんでしょう?」

「んんっ! リクさん……?」

「おっと……えっと、フィネさん……その、一緒に行動している人の中で一人お爺さんがいるんですけど……」

「えぇ、エアラハールさんと言いましたか。何度か、モニカさん達と一緒にいるのを見かけました」

「その人の事で……」


 ユノが止めてくれるだろう、と思いつつも注意喚起はしておいた方がいい。

 いつでも女性に触る機会を窺っているので、ユノが油断したり、離れている時にやってしまうかもしれないからね……。

 モニカさんの指摘にエアラハールさんの、ある意味手癖の悪さを思い出し、フィネさんに伝えた。


「そのような事をする方だったのですか……只者ではないとは感じていましたが、元Aランクとは」

「まぁ、今はその実力を変な方向に生かしていますが……」

「わかりました、リク様のご心配ありがたいですが、それなりに対処する事を許可して頂けるなら、問題はないかと。防いだり避けたりできるようになるのも、修行と考えます」

「……そこまで真剣に考えなくてもいいと思うんですけどね。一応、いつもはユノが見張っていますから。それじゃ、フィネさんができる範囲で対処するという事で、とりあえず王都まで同行しましょう。その後は、相談次第とこれから次第という事で」

「はい。よろしくお願い致します。足を引っ張り、迷惑をおかけする事がないよう、気を付けます」

「よろしくね、フィネさん」


 フィネさんに手を差し出し、同行の許可とこれからよろしくという意味を込めて握手。

 モニカさんもフィネさんと握手をする。

 女性陣は仲良さそうにしていたから、問題はなさそうだね……でも、また女性が増えたなぁ……できれば男性の、それこそカルステンさんとかも一緒にいてくれたら、心休まるのになぁ。

 そう思っても、フランクさんがカルステンさんには別の事を任せているので、無理に連れて行く事もできない……王城に戻ったら、エフライムやアルネを捕まえて、愚痴らせてもらおう。

 アルネは研究に夢中になると、話を聞いてもらえるかわからないけど……。



 フランクさんとの話を終え、フィネさんの同行が決まった後、ソフィー達と合流して冒険者ギルドを出る。

 ちなみにフィネさんは、数日の同行ではなく拠点移動とか引っ越しに近いので、準備があるからとギルドの建物を出てすぐ別行動になった。

 合流した際、改めて皆にフィネさんを紹介すると、手を伸ばしそうだったエアラハールさんの前でユノがにっこり笑って、引き下がらせていた……その際に、また剣の柄に手を添えていたのが効いたんだろう。

 フィネさんは、苦笑というか若干引き気味ではあったけど……まぁ、すぐに慣れてくれると思う――。



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