第719話 魔法失敗の理由



 フィリーナの話を聞いて口元を手で覆って考え始めると、モニカさんが俺の様子に気付いて疑問顔。

 これだけあからさまに試行しています! という格好をしていたら、気になって当然か。


「うーん……フィリーナの話を信じるなら、オーガと地下に広がっていた魔力は、ほぼ同室のものということになるんだよね?」

「そうね。私の目から見たら、ほとんど同じに見えたわ。薄っすらと幕が張られているように見えて……もちろん、視界を妨げる程じゃないんだけど」

「多分、俺が探知魔法を使った時、詳しく地下の反応がわからなかった理由にもなるんだろうね。フィリーナの言うように、地下全体に魔力が充満しているように感じたから」

「つまり、リクさんとフィリーナの両方が、その魔力について確認しているわけね。でも、それがフィリーナの魔法がリクさんに向かって行ったのと、関係があるのかしら?」


 フィリーナ以外には見えない、可視化しない程で薄い魔力が充満していたというのは間違いないと思う。

 一瞬だけ、オーガが多くいたからその魔力が放たれて溶け込み、空気の流れが少ない地下だからそのままになっていた……なんて考えたけど、多分違う。

 空気中の魔力に関しては、探知魔法でも反応はあるけど、その魔力が自然なものに感じられて、他の魔力反応を阻害する事はないからね。

 なんというか……生き物とか植物にある魔力と違って、探知魔法用の魔力を俺が広げたらふわりと避けられる感覚というか……はっきりとは言えないんだけど、誰の意思も介さず誰のものでもない魔力は、異として集めない限り掴みとれないような、説明しづらい感覚なんだ。


 けど、地下に充満していた魔力はそれとは違い、はっきりと他の魔力反応を阻害していた。

 だから、探知魔法を使っても地下の様子がよくわからなかったんだよね。

 だったら、その魔力は誰かの魔力という事になるけど……オーガとほぼ同じというのも違和感がある。

 種族ごとにある程度魔力反応の傾向の違いはあるけど、同種族でも細かい部分でやっぱり違いがあるんだ……これは、探知魔法を使える俺やエルサ、目で見るフィリーナくらいしかわからない事なのかもしれないけど。


「フィリーナ、オーガの魔力だけど……他のオーガも同じような感じだった?」

「そうねぇ……えぇ、確かにほとんど似た魔力だったと思うわ。私はリクのように探知魔法は使えないし、目で見ているだけだけど……今回は全体を見る必要があったから、ちゃんと見ていたわよ?」

「多分、フィリーナならわかると思うんだけど、種族で似たような魔力になるのは当然として、それでもほとんど同じ魔力って、ちょっとおかしいと思わない?」

「……言われてみれば確かに。人間には人間、エルフにはエルフの……魔物には魔物によっての魔力があるわ。種族が同じであれば似たような魔力に見えるんだけど、それでもやっぱり個体差があるわね。……リクは特殊だけど。でも、地下にいたオーガは、個体差と言えるほどの魔力に差はなかったように思えるわね」


 俺の魔力が特殊というのは、同じ人間でも異世界からとか、魔力量が異常に多いからとかなのかもしれない。

 それはともかく、同じ種族内でも個体差があるはずなのに、それを感じられなかったとフィリーナも気付いたようだ。

 もしかしてこれって……?


「フィリーナ……オーガの魔力って、人間かエルフとかに近い魔力とも感じられなかった?」


 なんとなく、答えに近付いている気がして、より確実に確証を得るためさらにフィリーナへと質問する。


「オーガの魔力が?……確かに、人間に近かったような……? でもそれは、部屋を覆っていた魔力のせいで、そう錯覚して見えたのかと考えていたわ」

「うん、俺も人間の魔力のように感じていたから、地下にいる誰かの魔力なんだろうなと思うんだけど、それだとオーガとその魔力がほとんど同じなのはおかしい。オーガと人間なんだからね」

「リクさん、つまりはどういう事なの?」

「えーっと、まだはっきり考えがまとまっていないんだけど……そもそもに爆発するという性質を追加したオーガは、核に魔力を注いで復元する事から始まるらしいんだ……」


 魔力に関しては、俺とフィリーナしかわからない感覚があるから、他の皆には理解できない様子。

 唯一、エルサだけは我関せずでキューを頬張って嬉しそうだけど、それは置いておこう。

 モニカさん達にもわかるように、そして自分の考えを整理するために、モリーツさんから聞き出したエクスブロジオンオーガを始めとする、魔力を注いで復元したり、爆発する性質を与える研究について最初から説明する。

 一応、核に魔力を……という説明は以前していたんだけど、それと照らし合わせるように、今フィリーナと確認した事を考えれば……。


「つまり、地下を覆っていた魔力は、オーガへ実験の際に注ぎ込まれた魔力じゃないかと思うんだ。その魔力を使って復元されたから、オーガは種族に関係なく人間に似ている魔力になったんじゃないかなと」


 例として正しいかわからないけど、切り花を水に行ける時に色の付いた水を使う事で、花の色を通常とは違う色にするようなものなんじゃないかなと思う。

 つまり、注がれた魔力を吸収して復元する過程で、オーガがその魔力に染まったから、人間に近い魔力になっていたんじゃないかという事。

 オーガ自体にも魔力はあるんだけど、核の状態というのは人間でいう心臓のみのような状態と考えると、注がれた魔力で復元されたらもとになった魔力で全身が染まるのかもしれない。

 日本だと、小学校とかの理科の実験で習ったりする事もあるから、なんとなくその考えに至ったんだけど、この世界の人達がその現象を知っているかはわからないし、魔力の違いなんてフィリーナくらいしかわからないからね。


「だったら、もしかして私が見ていた魔力っていうのは?」

「多分、オーガを復元する魔力を使っていた人なんだと思う。フィリーナの使った魔法の誘導が、その魔力を持っていた人へ向かったと考えると、急に方向を変えた事にも説明がつくんじゃないかな?」

「私の失敗じゃなかったって事なのね?」

「まぁ、オーガに向かって放った魔法が結局目標に当たらなかったんだから、失敗なのかもしれないけど……使い方を間違えただけで、魔法そのものは失敗していなかったのかもしれないね」

「……ほっ」


 アルネと苦労して研究した成果の一つだったからだろう、魔法そのものが失敗じゃなかったと言われて、息を漏らすフィリーナ。

 使い方が悪かった方は気にしていない様子だけど、まぁ、状況が特殊だったからと言えるから、それでもいいのかもしれない。

 今度からは、使っても大丈夫な状況かを見極めればいいんだから。


「でもリク様? なぜ魔力に似ている例として、エルフも出したのですか? あの場には人間しかいなかったと思うのですが……」


 これまで黙って話を聞くだけだったフィネさんが、俺がエルフと言った事が気になったようだ。

 そうか……運び出す時に、フィリーナには確認してもらっていたんだけど、フィネさんやモニカさん、ソフィーは拘束した人たちを運ぶ時に休んでいたから、ツヴァイの事を知らないんだった――。


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