第686話 オーガ爆発体験安全保障済み
「単純に弱いエクスブロジオンオーガならともかく、訓練された兵士でさえ安全を期すなら数人で対処するべきオーガ相手に、気楽だな」
「まぁ、リクさんとエルサちゃんはいつもの事よ。私やソフィーだって、今なら一人で一体のオーガを倒すくらいはできるでしょ? さすがに気楽にはできないけど」
「そうだな。オーガ自体はDランク指定の魔物だが、人間よりも大きな体からの腕力は油断していたら危険だしな」
頭にくっ付いているエルサに手を伸ばして、両手で持ち上げ、近付いてきているオーガに体を向けさせる。
後ろではソフィーとモニカさんが何やら話しているようだけど、オーガだしなぁ……。
キマイラやキュクロップスという、Aランクの魔物を相手にしていて、感覚がおかしくなってきているのかもしれない。
「もう少し近付くのだわ」
「えーと……このくらいか?」
「それでいいのだわ。やるのだわー……だわ~!」
「GU……」
向こうからも近付いてきているけど、まだ少し離れ過ぎていたためこちらからも数歩近付き、エルサのやりやすい距離まで移動。
俺が手で持って小さいままのエルサが、オーガに向かって口を開けたと思った瞬間、ブレスのように青い魔力の噴霧が扇状に広がった。
大きくなったエルサを見ていたためか、周囲を窺いながらこちらへと向かって来ていたオーガ達は、微かに声を漏らしたくらいで、悲鳴すら上げる事もできず、噴霧に包まれた瞬間に凍る。
俺が魔法を使った時とは違って、自分の魔力の扱いに慣れているため、足元の地面が少し凍り付いているだけで、周囲への影響はほとんどない……俺も、これくらい加減できるようにしないとなぁ。
「終わったのだわ。あまり強く凍らせていないから、すぐに溶けるはずなのだわ」
「ありがと、エルサ。それじゃ……どうしようか?」
「アメリとやらを助けた時は、土深くに埋めたと言っていたか?」
「うん。まぁ、地面に埋めておけば溶けて爆発しても、影響は少ないと考えたんだ」
「まぁ、埋めてしまえば後片付けも楽そうよね。でもリクさん、一体くらいは爆発するところを見てもいいかしら? 私は話に聞いてはいるけれど、爆発をする場面を見た事がないから」
「ふむ、そうだね。わかった。それじゃ、一体を除いて土に埋めよう。とりあえず、街道横に移動させるかな」
「わかった」
サクッと終わらせたエルサが、持ち上げている俺の手から浮かび上がり、再び頭へとドッキング。
お礼を伝えつつモフモフを撫でながら、凍ったオーガをどうしようかとソフィー達と話す。
モニカさんに爆発する場面を見せるため、オーガ一体を残して他は埋める事に決まった。
ヴェンツェルさんと合流した後に乗り込む研究施設には、同じようなオーガがいる事が予想されるから、対処を誤らないためにも見ておいた方がいいのは確かだから。
できればヴェンツェルさんや、同行しているはずのフィリーナを始めとした、王城から来る人達にも見せたいけど……放っておいたら溶けてしまうから、仕方ないね。
「それじゃ、結界を張って……っ! と……これで少し待てば爆発するかな? そろそろ表面は溶け始めているようだし」
「そうだな。少し待とう」
「爆発の影響がないって言うのは凄いわよね。母さんに教えられている時にも言われたのだけど、爆発系は無差別なところがあるから、威力が高ければ高い程味方を巻き込んだり、周囲の影響が大きいものなのよね」
「それで、鉱山内への影響を考慮して、鉱夫さん達はエクスブロジオンオーガに手出しができなくなっていたんだよね」
指向性を持たせた爆薬とかならまだしも、ただ単純に体を四散させて爆発させるだけだからね。
魔法としてなら、イメージをしっかりしたら味方への影響が少ない爆発、というのもできるかもしれないけど……以前失敗した花火とか、仕組みは関係なくイメージとしては近いかもしれない。
……思い付きでやってしまうと、考えていた範囲以上に影響を及ぼす爆発を起こしてしまいそうだから、試したりはできないけど。
「お、そろそろだと思うよ?」
「えぇ、よく見ておくわ」
「あまり気持ちのいいものではないが、まぁ、一度見ておくのは大事だな。私はもう見慣れてしまったが」
ソフィーは鉱山で、俺と散々見たからね……魔物とはいえ、体が爆発四散するというのは確かに気持ちい物じゃない。
魔力に変換されているのか、核から復元する時に爆発するよう仕組む影響なのかわからないけど、血しぶきがないだけマシか。
それでも、手や足ならまだしも、目玉や内臓が飛んで来るのは結構……これ以上考えるのは止めよう、できるだけ見ないようにしていた事だから。
なんて考えている間に表面が完全に溶け、少しして内部もそれなりに溶けたのか、オーガが結界内で爆発。
やっぱり、アメリさんを追いかけていたオーガと同じように、威力が高い爆発だね……これが体の大きさから来るのか、研究の成果なのかは小さい爆発がないからわからないけど、結界内じゃなかったら厄介そうだ。
「音も振動もないから体感したとは言い難いけど、確かに危険度の高い爆発のようね。ほら、立っていたはずの地面が結構えぐれているわ」
「そうだね。まぁ、結界で覆って密封している状態だから、音や振動は感じないけど、それでも十分威力の高さは見れたね」
爆発したオーガを見て、感想を呟くモニカさんに同意するように頷く。
音と振動は近い存在……というのは今どうでもいい事なので、突っ込まない。
空気や物体の振動で音を出すなんて、この世界にの考え方にないだろうからね。
「さて、合流地点に移動しようと思うんだけど……その前にちょっといいかな?」
「どうしたんだ、リク?」
「ここにオーガがいたという事は、他の場所にもいる可能性があるかなーと思うんだ。理由はわからないけど、周囲に散らばっているんじゃないかと」
「そうね……地図では少し離れているけど、街道にいるという事は、何か目的があってオーガを配置しているのかもしれないわ」
「うん。まぁ、他にいたら俺達とは別の場所で、誰かを襲うかもしれないし……それが何も知らない旅人や冒険者だったら、危険だからね」
「そうだな。通常のオーガなら対処可能でも、あの爆発だからな……数体いればそれだけでも厄介なのに、爆発するとなれば、危険だろう」
「だから、ちょっと探してみようかなと。まだ時間はありそうだし」
ここにオーガがいたという事は、他にもいる可能性があるという事だから。
俺達に襲い掛かって来るのなら……いいわけじゃないけど、爆発する事を知っているし対処のやり方もわかっているから、なんとかなる。
それでも、何も知らない人が遭遇した場合、大きな被害がでるだろうから、できるだけ可能性を低くしておきたい。
ヴェンツェルさんと合流して、研究施設を抑えたら新しくオーガが外へ出る事はなくなるのかもしれないけど、既に解き放たれたオーガは野放しになるから……鉱山に残ったエクスブロジオンオーガと同じだね――。
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