第682話 ルジナウムとブハギムノングの繋がり



 ノイッシュさんだけじゃなく、フランクさんやモニカさんにも昨日の事を詳しく説明する。

 地面に細い線があり、魔物を集める魔法具に繋がっていたうえに、魔力が微かに通っていた……そしてモリーツさんやイオスの発言を考えると、これら全てが繋がる。

 魔物が集まっているのに、誰かの意思が介在している予想はしていた。

 そしてイオスの発言……取り調べができずに、俺が聞いただけだから確証を得るまではいかなかったけど、これでようやくブハギムノングと、ルジナウムでの事が完全に繋がったね。


 という事は、イオスやモリーツさんがいた組織は帝国と何か関係が……?

 もしかすると、明日調べる研究施設らしきものも……帝国がアテトリア王国を使って、大きな実験をしていたとか、国力を削ぐためにとか、色々考えられるけど……それらはあくまで想像で、まだ確証はない。

 いまはひとまず線の繋がりだ、明日ヴェンツェルさんと合流して研究施設を調べてみれば、何かわかるかもしれないし、考えるのはそれからでも遅くないと思う。


「成る程な……ブハギムノングにそんな仕掛けが」

「はい。さすがに俺が地面の線を追って調べるのは時間がなかったので、あちらの冒険者ギルド……ベルンタさんに頼んで依頼にしてもらいました」

「ベルンタ……あの爺さんか。とぼけた爺さんだし、冒険者が少ないブハギムノングで隠居している……なんて言っている爺さんだが、あちらに任せておけば良さそうだな」


 ベルンタさん、隠居なんて言っているんだ。

 確かにブハギムノングには、冒険者は少ない……というより、俺はまだ向こうで同業者を見た事がない。

 これは鉱山に入ったり、鉱夫さん達とばかり関わっていたからだろうね、あと、向こうでは依頼がほとんどないのもあって、街を離れない冒険者は他のバイトのような事をしている……というのはソフィーから聞いたんだったか。


「ブハギムノングの方で動くのなら、こちらでは追わなくても良さそうか。まぁ、周辺を調べておくくらいはしておくが」

「はい。まぁ、向こうの冒険者がしっかり調べてくれるかどうかですけど……」

「あの爺さんなら、そこらも考えていそうだが……そうだな、向こうにいる冒険者だと、人数も少ないから魔物と遭遇して調べきれないというのも考えられるか。一応、こちらでも考えてく事にする」

「お願いします」


 近い街にある、冒険者ギルドのマスタ―だけあって、ブハギムノングの事もある程度は把握していらしい。

 周辺の村や街の事は、知っておかないといけないだろうから、ギルドマスターとしては当然の事なのかもね――。



「それでリクさん、フランクさんから聞いたのだけど……?」


 フランクさん達との会議が終わり、少し遅くなってしまった事をエルサに謝りながら、昼食を頂くためにお店へ入って落ち着いた途端、モニカさんに問いかけられた。

 話すのは、明日のヴェンツェルさんと合流する事や、研究施設と思われる建物について……フランクさんだけならまだしも、さっきはノイッシュさんもいたから離せなかった事だ。

 フランクさんから間接的に聞いているとはいえ、細かい日程や俺がアメリさんを助けた状況は知らなかったので、一応教えておく。

 さすがに、エルサから飛び降りて乱入したと言ったら、呆れた溜め息を吐かれた……もうやらないと心に誓っておこう。


「じゃあ、私も参加していいのね?」

「もちろん。人が増えて駄目とは言われていないからね」

「リクさんと行動するのは、久しぶりな気がするわね……」

「そういえばそうだね」


 ここ最近、ずっとルジナウムとブハギムノングを行ったり来たりだったし、鉱山を調べるのはソフィーとだった。

 魔物が襲撃された時も、俺は単独行動だったからね……エルサは一緒だったけど。

 改めて考えると、俺一人であちこち手を出し過ぎじゃない?


「……つまり、少し休みたい……という事?」

「いや、そこまでじゃくて……でもそうとも取れるか。とにかく、最近忙しい事が多かったから、もう少しのんびりしたいなぁ……とね?」


 明日はモニカさんとも合流する事に決まり、昼食にと頼んだ料理をつつきながらの話題は、ソフィーとも話したのんびりする事。

 元々、ブハギムノングとルジナウムの件が片付いたらと思っていたんだけど、アメリさんを助けた事で追加のやらないといけない事ができたけど……とにかくそれが終わったら、少しゆっくりできる時間を作ろうと思う。


「確かに、最近はゆっくり過ごす事も減ったわね。冒険者としては、それが正しいとも言えるのだけど。大きな依頼をこなす事ばかりだから、たまにはいいかもしれないわね」

「うん。それに、まだ俺だけ王都をゆっくり見て回れていないからね。ハーロルトさんから聞いたけど、そろそろ俺の噂も風化しつつあるみたいだし、ある程度は歩いて回れる頃だと思うんだ」

「そうね。父さん達がいた頃に少し回ったくらいだものね。前みたいに人が集まり過ぎて身動きが取れない状態が解消されたなら、ゆっくり見て回れそうね」


 王都は広いから、まだ全部を回れたわけじゃないからね。

 さすがに、隅々まで……とは言わないけど、大まかに全体を見て回るくらいはしておきたい。

 マックスさん達と一緒に回った時は、地理を把握するくらいだったから。


「モニカさんも、一緒に王都を見て回りたいよね?」

「えっ!? そ、そうね。私も一緒にいてもいいのよね……そう、よね……」

「……」


 どうしたんだろう? 急にモニカさんが料理を食べている手を止めて、驚いているけど……。

 エルサも、テーブルの上でキューを両手に掴んで食べていたはずなのに、それを止めて口を開けたままこっちを見ている……驚いている、のかな?


「えっと……どうかした?」

「う、ううん! なんでもないの! そう、なんでもないのよ……やった!」

「驚きなのだわ。リクがついに……なのだわ。キューを初めて食べた時に近い驚きなのだわ……」


 首を傾げて聞くと、慌てて首を振るモニカさん。

 頬が赤くなっているから、本当に何もないというわけじゃないんだろうけど……なぜか小さく喜んでいるような声が聞こえたのは不思議だね。

 というか、エルサがキューに近い驚きって相当な気もするけど、何に驚いているのかよくわからない。


「まぁ、皆で王都とか、他の町を見て回るのも面白そうだよね。ユノも喜びそうだし、ソフィーは……武具店を探しそうだけど」

「え……あ、あぁ……そうね。皆で……ね。それも楽しそうよねぇ……はぁ……いつものリクさんだったわ」

「……はぁ……驚いて損したのだわ。……モキュモキュ……キューが美味しいのだわ~」


 ユノとかは、特に街を見て回るのが好きさそうだから……と思いながら話すと、揃って溜め息を吐くモニカさんとエルサ。

 一体なんなんだろう? エルサはまたキューを食べるのを再開したし……うーん。

 ともあれ、のんびりできる日を目指して、今は目の前にある問題に取り組むよう改めて気を引き締めた。

 面倒な仕事はさっさと終わらせた方がいいからね――。


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