第659話 調査の相談



「そうですね……例えば、この部屋の真ん中で爆発した場合、壁にヒビくらいは入るかもしれませんね。当然、この場にいる人達は壁まで余波で飛ばされますし、物が多ければ多い程、怪我をする可能性も上がると思います。それこそ、吹き飛んだ衝撃とか、何かに当たって致命傷……という事もあるかもしれません」

「中規模以上の、熟練が使う魔法に近い威力……でしょうか。一体なら対処の仕方も難しくないでしょうが、それが複数……大量に作りだされてしまうと……」

「脅威以外の何物でもないわね。リクがいれば対処ができるみたいだけど、例えば前回王都が魔物の襲撃に会った時と同じくらいの規模だったら、さすがのリクでも一人で全てを対処はできないでしょう。最悪を考えれば、王城が更地になるかもね?」

「しかし、そこまでの威力を発揮するとして……それはどれくらいで作りだされるのだ?」

「……どれくらいかは、わからないね。ガラスを用意して、中に魔力を注いで……とやっていたようだから、数日はかかると思うんだけど……」

「その辺りも、調べる必要があるわね。つまり、アメリさんが見たその場所を調べれば、何かわかるかもしれないのよね?」


 姉さんがアメリさんにさんを付けて呼ぶたびに、体をビクッとさせているけど、慣れてもらうしかないかな……女王様モードになったら、呼び捨てになるだろうし。

 それはともかく、問題はアメリさんが見たというオーガが出てきた家と、爆発するようにするために要する時間だ。

 さすがに核から復元するのを、一日で……とかはできないとは思うけど、例えば十日だとして、複数を同時に復元できれば大量の兵器となるオーガが作り出せるからね。


「これは恐ろしいですね……私達は味方の事を考えて戦いますが、リク殿に聞いている限りでは、オーガは味方の事を考えない。しかも、襲う相手も識別しているという事です。なので、作っている者達に危険が少なく、離れた場所からオーガを向かわせれば、それだけで街を壊滅させられるかと」

「そうね……数にもよるとは思うけど、失敗しても向こうは人為的に被害はなし。こちらは多少なりとも被害が出る、か……。すぐにアメリさんが見たという家を調べる必要があるわね」

「はい。アメリ、その家というのはどういった特徴かわかるか?」

「えっと……家自体はこれと言った特徴はないと思うわ。村では少ないけど、王都であれば不思議ではないくらいの大きさかな? ちょっと入り口が大きかったと思うくらいね……」

「なんの変哲もない家か……その場所ははっきりとわかるか? 例えば、地図を見てすぐにここだとわかるとか……」

「旅慣れていないから、地図を見てもはっきりとした位置までは……でも、近くに行けばわかると思うわ。川が流れていたから」

「川か……村から王都までの道のりを考えると、大体の位置がわかるな。――陛下」

「えぇ、ただちに部隊を向かわせないさい。そうね……暇そうにしているヴェンツェルを向かわせればいいんじゃないかしら?」

「ヴェンツェル様は決して暇なわけではなく、サボって兵士の訓練に混ざっているだけなのですが……そうですね、戦闘も予想されるでしょうし、外へ向かわせた方が喜んで動いてくれるでしょう」


 ヴェンツェルさん、まだ書類仕事をサボっているのか……数日程度でなおるとは思わないけど、ハーロルトさんも大変だ。

 まぁ、ヴェンツェルさんなら戦闘になっても大丈夫だろうし、体を動かしていた方が喜ぶというのはわかる。


「すぐに軍のトップを動かすのですか……良いのですか? 王都内でならまだしも、王都を離れる事になると思いますが……」

「人手不足なのよねぇ……まぁ、それはともかく、放っておいたら王都だけでなく国中に被害をもたらす可能性が大きい事よ、惜しまず全力で取り組む事で、問題を早期に解決するのは必要な事だわ」

「成る程……」

「もちろん、リクにも協力してもらうつもりだから、ヴェンツェルがどうにかなる事はないだろうし、確実に抑えられるはずよ。こういうのはスピード感が大事だけど……ヴェンツェルの移動に合わせてもらわないといけないから、数日後になるけどね」

「え……俺も?」

「何を他人事のような顔をしているの、リク? 当然でしょ? アメリさんを連れて来たのはリクで、この話の元はリクなの。それに、リクがいないと爆発するオーガがいた時に危険でしょ?」

「まぁ……確かに……」


 ヴェンツェルさんに任せていれば十分だろうなぁ、と思っていたら、俺も手伝わないといけないようだ。

 鉱山と違って、もしその場所でオーガが爆発しても、そこまで悪い影響はなさそうと考えていたから、少し驚いた。

 けど確かに、被害を少なくすると考えると俺に話が来るのは当然かぁ……アメリさんを連れてきた責任もあるからね。


「必ずオーガがいるとは限らないけど、研究をしていたりするのであれば、いると見るのが当然よね」

「そう、だね。鉱山での事を考えると、外に出るのを待つだけのオーガ、というのもいるだろうし……」


 イオスが試験管の中にいたエクスブロジオンオーガを、俺達にけしかけたように、ヴェンツェルさんを含め軍が踏み込んだ事で、破れかぶれでオーガを解き放つ可能性だってある。

 どれだけの数がいるかはわからなくとも、爆発するようにされたオーガがいる事は間違いない、と思っていていいだろう。


「ですが陛下、ヴェンツェル様が動く事になれば、軍が動く事。それ自体に問題はないのですが、そこにリク様が一緒に……というのは、冒険者ギルドがうるさそうです」

「……そうだったわ……つい昔の感じで、リクにお願いをと考えていたけれど、冒険者ギルドとの兼ね合いがあったわね。そうねぇ……」


 冒険者ギルドは国に寄らない組織なので、冒険者が国の要請で動く事を嫌う。

 これは冒険者国同士の争いに参加したりする事で、国家とギルドの関係が悪くなる可能性を考えての事だ。

 今回は国家間の争い……と言えない事ながらも、国が動く事態であるため、冒険者ギルドからすると国から直接請われて冒険者が使われる、と考えてしまうのかも。

 ヒルダさんの指摘で悩む姉さんは、結局冒険者ギルドに正式に依頼を出すと決めた。


 報酬はともかく、依頼の内容は軍の高官を護衛する事となっている。

 確かにヴェンツェルさんは高官だけど、あの武闘派な人に護衛が必要なのかは疑問だけど……軍と一緒に行動するのなら、これくらいしか口実を付けられないらしい。

 軍の調査に協力、とすると国の思惑とかが混ざっているように思われるし、だからと言って俺という冒険者が主体として活動するように仕向けても、そこに軍が追従しているのが問題になるとかなんとか……色々とややこしいらしい。

 ともあれ、依頼の事やヴェンツェルさんの移動も考えて、数日後に俺がアメリさんを助けた辺りで合流する事にして、話しが終わった。


 ……ルジナウムとブハギムノングが落ち着いたら、のんびりしようと思っていたのになぁ……ソフィーが言っていた、すぐに首を突っ込んで云々という事になてしまった。

 これが終わったら、きっとのんびり過ごせるようにするんだ、うん……頑張ろう――。


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