第612話 企みの露呈



「一つ教えておいてやろう。私は魔力の一部を、一本の線としてとある場所へと繋げている」

「とある場所?」

「そうだ。この鉱山や街から離れると、それが途切れるようになっているのだ」

「それが、ルジナウムの街となんの関係が……?」


 俺に折れた剣の先を向けたまま、語り始める黒装束の男。

 悪巧みをしている奴は、何からのきっかけで自分のしている事を語り始めなきゃいけない、なんていう決まりでもあるのだろうか?

 事情がわからない俺からすると、詳しく話してくれて嬉しいけどね。


「ルジナウムの街に、直接繋がっているわけではないがな。知っているか? 今あの街付近では魔物が集まっている事を。そして、その中にはAランクの冒険者でさえ苦労するような、強力な魔物もいるのだ」

「……それが?」


 もちろん、魔物達が集まっているのは知っている。

 けど、それを知っている事を男に悟られないよう、最低限の言葉で先を促した。

 この男やモリーツさんのように、自分の持っている情報をひけらかす意味もないしね。

 悪事を働いているわけでもないから、俺も語らなきゃいけないなんて決まりもないから。


「一定以上の魔物が集まれば、自然と制御できなくなり、近くの街へと襲い掛かるだろう。……だが! もし私が繋げている魔力が途切れた場合、数とは関係なく魔物達は暴走を始めるのだ!」

「っ!」


 ある程度集まれば、というのは予想していた事だ。

 それとは別に、この男が魔力で繋げている線を途切れさせれば、魔物達が暴走を始める……つまり、一番近い人間の住む街であるルジナウムへ襲い掛かるという事か。

 魔力を線にして繋げる、というのをどうやるのかとか、それでどうやって暴走をさせないようにしているのか……という方法に関してはわからない。

 まぁ、魔物の核だの、エクスブロジオンオーガに爆発条件を加えたり、自分達を襲わせないようにした利、爆発威力を増加させたりという研究をしていたのだから、俺の知らない方法を見つけて使っているという事もあるんだろう。


 それはともかく、男の話を信用していいのかどうか……もしかしたら、俺達から逃げるための方便、という事だってあり得る。

 だけど、もしそれが本当だったら……。


「信用していないようだな……? まぁ、それも無理からぬ事。だが、信用せず私を捕まえるのなら、私はすぐに魔力の繋がりを切る。そして、ルジナウムの街は壊滅するのだ。……もしかすると、周辺の村も壊滅するかもしれんな?」

「くっ……」

「モリーツは勘違いしていたようだが、我々はルジナウムの街の人間には興味がない。どうなろうと知った事ではない……という意味でな。本来は、ここを研究拠点の一つとし、この街で実験に使う人間の素体を集める予定だった……お前達の邪魔がなければな。ルジナウム壊滅と周辺で魔物が暴れる事で、この街にも少なからず影響が出るだろう。その混乱に乗じて、鉱夫達の丈夫な素体を手に入れようとしていたのだが、この際手段は選んでいられない……」

「ルジナウムを壊滅させて、この街も狙っていたのか……」

「この国の要衝でもあるからな。そんな事、我々研究部には関係のない事ではあるが……狙うにはちょうどいいという事だ」


 俺にルジナウムと繋がっていると信用させるためか、情報を提示する黒装束の男。

 我々だの、研究部だのと言っている時点で、組織だった計画なのはもちろん、ルジナウムとブハノギムノングの両方を同時に狙っていたという事だろう。

 二つの場所が違う理由で、脅威に晒されていると考えていたけど、同時に両方を狙われていたのか……。

 男の言う事が全て正しければ、このままだとルジナウムが危険になる。

 ブハギムノングは、ここの施設を破壊してエクスブロジオンオーガを駆除すれば、元通りになるだろうけど……ルジナウムは……。


「迷っているのか? それもそうだろう。私を捕まえるか、ルジナウムを危険に晒すか。……私を捕まえれば、お前の功績は上がるだろう。しかし、ルジナウムの街を壊滅させる直接の原因というのは、取り除く事はできないぞ? Aランクの冒険者、それも英雄と呼ばれる者が、街を壊滅させる引き金を引くのだからな! はぁっはっはっ!!」


 唇を噛みしめ、どうすればいいのか悩んでいる俺を見て、男は自分が優勢だと感じたらしく、浪々と話す。

 俺が英雄だとか、引き金を引いたとかは置いておいても、決断一つで街が……多くの人々が危険に晒される……。

 悪人は絶対に許さない……という正義に駆られた人間ではないから、見逃す方が正しいのかもしれないけど……でも、目の前で沢山の人間をただの実験材料にしか思っていないような、そんな奴がのさばっているのは、許せない。

 もしここでこの男を見逃して、ルジナウムから危機を取り除く事ができたとしても、こいつ……いや、こいつらはそのうちまた同じ事を繰り返す可能性が高い。


 それこそ、別の場所で街を壊滅させたり、多くの人を巻き込む危険だってある。

 自分がどうこうというより、野放しにしていたら、先々への影響を考えても捕まえた方がいいのは確かだ。

 けど、それでルジナウムの街にいる人達が……モニカさんやエアラハールさん、ノイッシュさんやフランクさん達が犠牲になってしまうというのも……。

 どうしたらいいんだ……っ!


「そら、この妙な見えない壁を解くんだ。さっさと私を逃がした方が、お前のためだぞ? ルジナウムの街が壊滅してもいいのか?」

「……」

「英雄が、街を壊滅させる引き金を引くか……それも楽しそうだな?」

「くっ!」


 俺が悩んでいる間にも、言い募って来る黒装束の男。

 ふとその時、男の焦っている様子に気付いた。

 さっきまでは……というより、モリーツさんを突き刺した時にはなかった焦りのように思える。

 どうしてだ……? いや、焦るのも当然か……男だって捕まりたくはないだろうから。


 先程よりも口数が多くなっているのはそのためで、どうしてもここから逃げ出したいようだ。

 まぁ、人を犠牲にするような事をしようとしているのだから、捕まりたくないのは当然だし、捕まった際にどういう扱いになってどういう処罰が下るかは、大体わかるからね。

 だからと言って、男の言葉に嘘があるかどうかわからない……もし本当だったら、ルジナウムの街は……。


「考える必要はないのだわー」

「エルサ!?」

「なんだ、その白い毛玉は!! 喋るのか!?」


 ソフィーの所にいたはずのエルサが、いつの間にか俺の顔の横でフワフワと飛んで、暢気な声を出す。

 驚いて声を上げる俺と、黒装束の男。

 モフモフのエルサを見て、毛玉と言っているけど……まぁ、他の人も似たような見方だったし、噂でも毛玉と言われてたから、喋っているのを聞けば驚くのも無理はないか。

 というか、さっき戦闘中にも喋ってたのに、聞いてなかったのか?

 まぁ、俺やソフィーが主に話してたし、エクスブロジオンオーガも声らしき音を発していたから、聞こえなくてもおかしくはないのか……。



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