第528話 ソフィーのモフモフ好きはバレバレ
「はぁ……後で町に買いに行きますから、戻しておいてください」
「駄目じゃ。この剣でなくてはの。……ほれ」
「その剣にこだわる必要は……刃こぼれ、してますね?」
「そうじゃ。使い込まれてそうなっているのか、手入れが行き届いていないからなのか、兵士の訓練に必要だからなのかはわからぬが、この剣では簡単に斬る事はできぬよ」
溜め息を吐きつつ、エアラハールさんに剣を元の場所に戻すように言う。
確かにお願いしたら、剣の一つくらいくれるかもしれないけど……さすがにね。
お金に困っているわけでもなし、ショートソードが欲しいのなら町にある店に行けば、簡単に手に入るだろう。
そう思っていたんだけど、エアラハールさんが鞘から抜いた剣は、刃の部分が所々かけており、部分的に錆びている箇所もあった。
確かにこの剣なら、誰が相手でも簡単に斬る事はできないのは確かだね。
けど、これだけボロボロだったら逆に、折れてしまわないか心配だ。
以前、野盗と戦った時……剣の使い方をよく知らなかったせいで、マックスさんから借りた剣を折ってしまった時のように。
手加減するという意味で、切れ味の悪い剣を使うというのはいいのかもしれないけど……折れてしまっては本末転倒な気が……?
「ですが、その剣を使えば簡単に折れそうです」
俺の疑問はソフィー達も感じたようだ。
同じく剣を見ていたソフィーは、俺に代わってエアラハールさんに質問。
モニカさんも、首を傾げていた。
「それはもちろんじゃ。特にリクが力いっぱい振れば、何かに当たった瞬間折れるかもしれんの。じゃが、それでいい。リクはこの剣を折らないように使い、それでいて魔物を倒す。魔法が使えるようじゃが、そちらは使用禁止じゃ。魔物を倒すため以外ならば、使っても良いがの」
「魔法禁止で、剣を折らずに……んー……」
俺が力いっぱい振らなくとも、簡単に折れてしまいそうなんだけど……。
というか何故、こんな折れそうな剣が訓練場にあるんだ……という疑問はあるけど、とにかくボロボロの剣を使って魔物を倒す方法を考えるが、俺には思いつかない。
「剣というのは、別に相手を斬り裂くだけの物ではないぞ? もちろん、それが主目的であるのは当然じゃ。じゃが、相手の攻撃を受け流したりと他にも使う方法はあるじゃろう」
「受け流したりというのはわかりますが……折れないように使う方法というのが、いまいち……」
「例えばじゃ、この剣の柄。こちらは多少劣化はしておるが、まだ使えるじゃろう。例えば、この柄で殴る……とかじゃな。あとは鞘に入れたまま、鈍器として使うという方法もある。殺傷能力が下がる分、人間相手にはお勧めじゃぞ?」
「そりゃ、確かに人間相手には有効なんでしょうけど……」
剣を折らずに使う方法……一番は俺が力加減を覚える事なんだろうけど、ちゃんと手入れされた剣ならまだしも、ボロボロな剣を折らずに使う程加減をして、魔物が倒せるというのはあまり考えられない。
いやまぁ、ゴブリン程度ならそれでもなんとかなるかもしれないけど……強い魔物が出て来たら無理だろうし、魔法も禁止だ。
俺が考えてもわからないでいると、エアラハールさんが使い方の例を出してくれた。
剣の柄かぁ……斬ったりする用途としてはもちろん使えないけど、固い部分なのでそれで相手を撃つという事は確かにできる。
けど、当然柄は手に近い場所だし、もうそれなら殴った方が早い気もする。
剣を使って……という事での一例なんだろうけどね。
そう言えば、柄で相手の剣を弾いてとかいう技術もあったかなぁ……?
確か、漫画か何かだったと思うけど、実際に可能なのかはわからない。
さらに教えられたのは、鞘に納めたままで鈍器として使うという事。
確かにそれなら、折れる事もないのは確かだけども……結局剣を使う必要性と考えると首を傾げてしまう。
まぁ、剣を使って……という事にこだわった場合の、苦肉の策のような物だろうけどね。
それと、確かにそれなら殺傷能力は低いし、誤って相手を斬るなんて事にならないから、覚えておこうと思う。
……骨や内臓には痛手を負うから、力加減によっては死にたくなる程の痛みを与える事になるかもしれないけども。
「まぁ、剣の使い方については様々じゃな。折れない方法を考え、それを実行するのみじゃ。今までのように力任せに剣を振っていたら、あっさり折れてしまうぞ? 折れた場合はどうするかのう……厳しい訓練を課しても、喜びそうじゃし……」
エアラハールさんが腕を組んで、剣が折れた時のペナルティを考えている。
いやその、訓練はしたいと思うけど……俺は厳しければ喜ぶなんていう、おかしな趣味は持っていないんだけど……。
ヴェンツェルさんあたりなら、頭脳労働ではなく体を動かす事なら喜んでやりそうだし、過去に指導をして見ている影響もあるのかもしれない。
「そうじゃの……よし、モフモフ禁止とするかの」
「モフモフ禁止!?」
「気持ちはわからないでもないけど、すごい驚きようねリクさん」
「そうだな。まぁ……それが辛いのは、私もよくわかる」
ちらりと、ユノが抱いている腕の中で、暢気に寝ているエルサに視線をやり、ペナルティを決めたエアラハールさん。
モフモフ禁止……モフモフ禁止だって!?
それは俺にとって、他のどんなペナルティよりも厳しい事だ。
エルサに、あの極上なモフモフに触れないだなんて……いや、エアラハールさんはモフモフを禁止すると言った。
それはつまり、エルサだけでなく他のモフモフも禁止という事だ。
パレードの時、騎乗の練習をしたあの馬のたてがみも……時折見かける、獣人の耳や尻尾をモフモフしたりもできないと……。
いやまぁ、見知らぬ人の尻尾を無断でモフモフしたら、エアラハールさんの痴漢と同じだからしないけども。
くっ……モフモフ禁止……それはまさに、俺がこの世界で初めて味わう厳しい試練となりえてしまう!
「……リクさん、苦悩しているわね」
「そうだな。モフモフは活力を与えてくれるからな。それが禁止されるのだ、気持ちはわかる」
「前から思っていたけど、隠しているつもりでも、隠せていないわよ? ソフィーのモフモフ好き」
「なんだと!? そんな……」
俺が脳内でモフモフを禁止されたら想像し、絶望しかけている横で、ソフィーがモニカさんに指摘されて、ガクリと膝を付いていたけど、今それに構っていられる余裕はない。
あと、ソフィーがモフモフ好きなの、俺もよくしっているからね。
俺からエルサが離れて、俺が視線を外している時とかに、コッソリモフモフしているのを知っていたりする。
まぁ、そこは今どうでもいいか。
「思ったよりも効果があったようじゃの。……言った自分でも驚きじゃが、ともかく、モフモフを禁止にされたくなければ、剣を折らぬよう頑張る事じゃの」
「……わかり……ました……!」
「苦虫を噛み潰したような返事ね、リクさん」
ソフィーを落ち込ませたモニカさんは、俺が苦しみながらエアラハールさんに返答しているのを、冷静に突っ込む。
けど仕方ないじゃないかっ! モフモフが禁止されてしまう可能性があるんだから!
嫌なら、断る事もできるんだろうけど、それはエアラハールさんの訓練を断る事にも繋がるからね。
まだ会って数日なのに、俺の癖のようなものを見抜いたり、的確……のような気がする指摘をしてくれているから、これは本当に俺がこの先冒険者を続けていくうえで大事なんだろうと思える。
……思えるからこそ、断れない。
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