第526話 訓練と反省会
「まだまだぁ!」
「っ……せいやぁ!」
「うぉ! とぁ!」
モニカさんとソフィーに挟まれる形になった俺。
袈裟斬りが避けられたソフィーが、体勢を立て直してしゃがんでいる俺に下段切り払いをするのに対し、全身に力を入れて飛び上がるようにして避ける。
足が地面から離れている俺に対し、モニカさんが先程俺が避けた払いの勢いを殺す事なく一回転し、遠心力を加えてもう一度空中にいる俺に対して槍を振った。
さすがに、腕や足は動かせても、空中にいる時に大きく避ける事はできないし、体を捻って器用に避けるなんて事はできない。
仕方なく木剣を縦にして、モニカさんの槍を受け止めると、ガキッ! という音と共にそれなりに重い衝撃……これ、当たったら結構痛かっただろうなぁ。
「それは織り込み済みっ! はぁぁぁっ!」
「うぉ!?」
槍を受け止められた格好のまま、さらに力を込めて体を回転させようとするモニカさん。
遠心力も加わっていたから、そのまま力任せに飛ばされる俺。
さすがに、地面に足が付いていない状態だから踏ん張る事なんてできないなぁ。
「……くっ!」
「せいやぁ!」
「っ!」
飛ばされたと言っても、あまり遠くまで飛んだわけでも、体勢が崩されているわけでもないので、なんとか着地。
その隙にソフィーが俺に向かって走り込み、上段からの振り下ろし。
さらに、俺を飛ばしたモニカさんは槍をすぐに引いて踏み込み、俺を狙っての突きを放つ。
……ここに来て、息の合った同時攻撃か!
「くぅ……!」
「……どうだ?」
「私達も、リクさんに届くようになったかしら?」
「そこまでじゃ!」
慌てて木剣を持ってない方の左手で、ソフィーの振り降ろしを受け止める。
さらに右手の木剣で床を突き、その反動で身を捩る事で、モニカさんの突きを躱した。
模造槍とはいえ、モニカさんの鋭い突きは俺の服の端を少しだけ破っている。
というか、木剣を受け止めた左手が痛い!
完全にお互いの動きが止まったところで、口の端を上げて笑うソフィーとモニカさん。
さっきまでは、俺が避けるか木剣で受け止めるかだけだったのに、遂には素手で受けたり服を本当に端の方を少しだけとはいえ破られてしまった。
俺から攻撃はしないという条件があるとはいえ、今回は負けだね……悔しいけど。
左手の痛みと、悔しさに耐えていると、俺達を見ていたエアラハールさんから静止の声。
それを聞いて、お互い離れて一息ついた。
「ふー、ふー……いててて……もう少し手加減してよソフィー……」
「手加減をしたら訓練にならないだろう? というか、かなり全力で振ったのだが……あれで痛いだけで済む方がおかしい。木剣とは言えな。手加減なんてしていられないだろう」
「それはそうだけどね……」
「リクさん、服は大丈夫?」
「んー、大丈夫。端の方が少し破れただけみたいだからね」
手合わせを終えて、ソフィーの木剣を受け止めた左手に行きを吹きかける。
ほんのり赤くなっているだけだけど、ヒリヒリした痛みが少しあった。
野盗の斧だったかを受け止めた時は、痛みなんてなかったのに……木剣とはいえ、それだけソフィーの攻撃が鋭いという事か。
もう少し手加減をしてくれたら、痛みもなかったかもしれないけど……確かにそれじゃ訓練にならないから、ソフィーの言う事が正しい。
モニカさんの方は、槍を地面に置いて俺の服を破いた事を気にしていた。
まぁ、端の方がほんの少し……よく見ないと破れているとわからないくらいだから、大丈夫だね。
縫ってもらうような必要もなさそうで、それを見てモニカさんも安心したようだ。
「木剣ではあるが、あれを素手で受け止めるとはの。真剣じゃったら痛いではすまぬとは思うが……木剣でもそこらの人間なら骨が折れてもおかしくないくらいじゃったぞ?」
少し離れた場所で俺達を見ていたエアラハールさんが、話しかけながらこちらへ来た。
確かに痛かったし、多分あれ、他の人が受けていたら手の骨が折れててもおかしくない衝撃だったと思う。
受け損ねたら、指とかも危なかっただろうしね。
だけど、幸い俺には魔力での防御という、エルサから聞かされたよくわからないものがあるから、痛いだけで済んでいた。
野盗の持っていた、ちゃんと刃の付いている斧を受け止めても痛みがなかったのに、木剣で痛みを感じるソフィーの斬り降ろしが真剣だったとしたら、手の皮が斬れたりはしてたのかもしれないね。
「まぁ、俺はなぜか頑丈らしいですからね……」
近づいて来るエアラハールさんに、苦笑しながら返す。
細かい説明をしてもいいんだけど、今は訓練の時間だし、その辺りは明日以降でいいだろう。
「頑丈とはかけ離れている気もするがの。まぁ良い。ともかく、この手合わせはモニカ嬢ちゃんとソフィーちゃんの勝ちじゃ」
「……そうですね」
「簡単に受け止められたので、勝ちという感覚は薄いですが……」
「そうよね……私なんて、一応服を破ったとはいえ、リクさん自身には当たってもいないわ」
手合わせの勝敗が告げられ、再び悔しさが沸き出てくるのに耐えながら、頷く。
ソフィーとモニカさんは、はっきりと俺を打ち倒したわけではないので、実感としてはあまり感じていないようだけど、笑みが漏れていて、嬉しそうだ。
うぅむ……二人がかりだったとはいえ、やっぱり負けるっていうのは悔しいものだなぁ……。
「モニカ嬢ちゃんの方は、ソフィーの攻撃を当てさせる布石として十分じゃ。それに、本来なら受け止めた左手は剣で斬られているじゃろうし、それに躊躇えば体が斬られていた。実戦で考えるとリクの負けじゃな」
俺の防御……という事を考えなければ、ソフィーの剣で俺の左手は斬られていたのは間違いない。
ソフィーの剣を避けようとしていたら、モニカさんの突きを受けていただろうし……どちらにせよ、あの場面を実戦に置き換えると俺の負けになるのは当然だね。
「リクはどうやら、攻撃する事には慣れておるが、受ける側はそこまで慣れておらぬようだからの。これは仕方ない事じゃろう。ワシとの手合わせでもそうじゃったからのう……まぁ、これからじっくりと教え込んでいけば良いかの」
「……確かに、そうですね」
魔物と戦う時は、基本的に先制攻撃をする事が多かったように思う。
ほとんどの場合は、俺が魔法探査で発見して用心してから近づくからなんだけどね。
受け止める、避けるという事を全くしなかったわけじゃないけど……攻撃して相手を打ち倒す事ばかり考えていたのは確かだ。
攻撃は最大の防御とは言うけど、エアラハールさんの指摘はもっともで、今までそれを意識して上達させようとしていなかったからこその、弱点なのかもしれない。
というより、魔力による防御に頼り過ぎなんだろうね。
野盗の時もそうだけど、避けられなくても大丈夫という意識があるせいかなとも思う。
けど、防御を疎かにして剣の技術を……と考えているのが浅はかなのかなと、今なら感じる。
今まで、ユノが剣で相手を斬り裂く技術とかしか見て来なかったから……。
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