第489話 モニカさん追加



「そうじゃ、金貨百枚じゃ。これ以上はまけられんぞ? ワシも、遠くからここに来ておるのじゃし、その移動費や滞在費……それに……おなご達と遊ぶお金も必要じゃからのう。ひょっひょっひょ!」

「移動費や滞在費はわかるけど……遊ぶお金って……納得がいかないけど、凄い人に教えてもらうと考えたら、妥当なのかしら?」


 驚くモニカさんに、笑いながら言うエアラハールさんだけど、その目はいやらしく歪んでる。

 きっと、女性と遊ぶ事を想像しているんだと思う。

 そりゃ、王都だし……そういったお店なんかもありそうだけどさ……俺は興味ないけど。

 モニカさんは、俺の後ろでぶつぶつ言って、納得しがたくとも、理解はしたようだ。


 エアラハールさんが、どれだけ離れた場所から来たかはわからないけど、移動には馬を調達したり、馬車移動なら馬車。

 徒歩……という事は年齢を考えたらありそうにないけど、ともかく移動する間の食料だなんだと、お金がかかってしまうものだ。

 商隊とかは、冒険者に護衛依頼をする事もあるようだし、数日かかる移動というのはそれなりに費用がかかるんだろう。

 先程の手合わせを考えると、エアラハールさんに護衛は必要ないだろうけども。


 俺はエルサに乗ってひとっ飛びという事が多くて節約できてるけど、それでも野宿するために多少なりともお金がかかってるしね。

 それに、訓練を受けるのだって、一日で終わるというわけでもない。

 一日教えを説いただけで強くなれるのなら、誰も苦労はしないから。

 その間王都に滞在する事を考えると、宿代も含めて滞在費が必要だろう。


 どれだけの期間かはわからないけど、数十日……一カ月や二カ月かかったっておかしくないしね。

 それらも合わせて考えると、確かに一人当たり五百万円……金貨五十枚というのは、特に高くはないのかもしれない。

 いやまぁ、エアラハールさんが言うように、女性と遊ぶお金というのも入ってるんだろうけどね……。


「金貨百枚……リクと折半したら、一人金貨五十枚か……それくらいなら払えるな。最近の実入りが良すぎて、普通のCランク冒険者なら絶対無理だが……」

「払えるのかの!?」

「どうしてエアラハールさんが驚くんですか……?」


 俺の隣で難しい顔をして考えてるソフィー。

 センテにいた頃、どれくらい稼いでいたかは知らないけど、パーティを組んでからは報酬を分けてる事もあって、金貨五十枚出せるだろうなというのはわかる。

 王都で戦った時の、姉さんからの褒賞もあるしね。

 まぁ、装備品を買ったり整備したりと、細々とした費用は掛かってるだろうから、モニカさんも含めて、個人でどれだけお金を持っているかまでは、さすがに把握していないけども。


 ソフィーが払えると呟くと、何故かエアラハールさんの方が驚いている。

 自分で提示した金額なのに、驚くところなんだろうか……?


「いや、ワシはてっきり……払えないから、この話は断ると言うかと思っての? ワシも年じゃし……一度に複数の人間を見るのは、さすがに堪えるからのう……触れないおなごに教えるのも面倒じゃし」

「最後、聞こえてますよ? ――それはともかく、払えないわけじゃないんですけど……ソフィーも一緒に教えてもらえるんですか?」

「むぅ……まぁ、金額を提示して、払えば見てやると言ったのはワシじゃからな。いいじゃろう。」


 ソフィーに訓練は付けるけど、変な目的で触る事は、エルサによって封じられているため、面倒に思っているらしい。

 ボソッと呟いても、距離が近いからしっかり聞こえてますよ、エアラハールさん。

 確かに、一度に複数人教えるというのは、確かに難しい事なのかもしれない。

 年齢を言い訳にしてるけど、何人かいたら、それぞれ成長速度も違うし、訓練仕方も違ってくるかもしれない。


 それでもエアラハールさんは、一度自分が頷いた事もあって、お金さえ払えばちゃんと見てくれるようだ。

 これで後は、冒険者ギルドにお金を引き出しに行くだけで良さそうだ。


「あのー……私も教えてもらうっていうのは、やっぱり駄目でしょうか?」

「モニカさん?」


 話が決まったと思った時、俺の後ろから少し控えめに声を出すのが聞こえた。

 声の主はもちろんモニカさんで、先程までエアラハールさんの教えを断っていたのに、考えを変えたようだ。

 はっきり断ってたのに、急にどうしたんだろう?


「お主がか? じゃが、先程は槍を使うからと言っておったじゃろ? ワシは、剣一筋じゃったから、槍の事はわからんぞ? まぁ、経験上の事くらいは言えるがな」

「それでも構いません。……リクさんやソフィーが、訓練して強くなるのに私だけ今のままというのは、ちょっと……。これ以上置いて行かれたくありませんから」

「モニカさんを置いて行ったりはしないんだけど……」

「留守番とか、そういうことを言ってるわけじゃないのよ? なんというか、私だけ足手まといになりそうで……特にリクさんには、追いつけないまでも、足を引っ張ったりしない程度にはなりたいの」


 モニカさんの申し出に、エアラハールさんは不思議そうにしている。

 俺も同じくで、モニカさんの考えを黙って聞く。

 俺やソフィーが、モニカさんを足手まといと考えたり、置いて行ったりする事はないけど……本人からすると、やっぱり悩んでいる部分もあるみたいだ。

 以前に、モニカさんとソフィーだけで戦おうとしたり……その時はフィリーナやアルネもいたけど……自分も役に立ってるという実感のようなものが欲しいのかもしれない。


 野営した時とか、料理を作ってくれるし、ユノやエルサの面倒も見てくれる。

 それだけでも俺は十分にありがたいと思ってるんだけど、モニカさん自身はそうは思ってないみたいだね。

 ……難しいなぁ。


「モニカを置いて行ったり、足手まといと思う事はないが……そうだな。私も似たような事を考える時がある。……主にリクが原因だが……」

「でしょ、ソフィー? ――だから、私も今よりも役に立てるようになりたいんです。参考程度でも構いませんので、一緒に教えを受ける事はできませんか?」

「ふむ……パーティという事で、一人が突出して起こる問題もある。それを解決するとまでは言わんが、多少なりとも助けになれるのかもしれんな。良かろう」


 ソフィーが俺の考えを代弁してくれるのかと思ったけど、途中からはモニカさんへの共感に変わった。

 そうかぁ……ソフィーも同じような事を考えてたんだね。

 うーん……俺が大丈夫と言っても、本人の考えの問題だし、やっぱり難しい……。


 俺が考えているのを余所に、モニカさんの話はエアラハールさんが許可した事でまとまった。

 これで、パーティ全員がエアラハールさんの教えを受ける事になるね。

 ……ユノは……むしろ教える側になれるくらいの強さだから、エルサとのんびりしてもらっておこう。


「あ、ありがとうご……!」

「じゃが!」


 モニカさんも教えてもらえる事になり、お礼を言っている途中で遮り、エアラハールさんが大きく声を上げる。

 その表情は、さっきまでの変質者的な顔ではなく、真剣なものに変わっていた。

 鋭い視線で、ソフィーとモニカさんを見据えている――。



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