第448話 ルギネさん達が起こした騒ぎ



「騒ぎは、私達のパーティが、荒くれ者のように見える奴らから絡まれた事からだな」

「そうねぇ。装いを見る限り、冒険者だったみたいだけど……弱かったわねぇ」

「……まぁ、確かに弱かったが……」

「もしかして、その冒険者と喧嘩になったの? それで、ルギネさんが殴り飛ばされたとか?」

「いや、確かに喧嘩にはなったんだが、殴り飛ばされたりはしていない。低ランクの実力しか持っていない奴らが、私に振れる事はさせない」

「時折、絡まれるのよねぇ。冒険者になってぇ、多少依頼をこなしただけで調子に乗った男達にぃ。私達が見目麗しい女パーティだからってねぇ。……弱そうに見えるのかしらぁ?」


 冒険者には、ヤンさんも以前少し嘆いていたけど、マナーの悪いというか、素行の悪い人達もいる。

 王都でマティルデさんに聞いた、帝国側の事情とは違って、こっちの国では数そのものは少ないながらも、いなくならないのが現状らしい。

 元々冒険者は、身寄りがなかったり、他に働き口がない人が集まる割合も一定数存在するようだ。

 その中で、裏社会とまでは行かないまでも、チンピラのようにして過ごしていた人が、何を思ったか身一つで勝負しようと冒険者になる事もあるらしい。


 大抵は、最初の試験で落とされるらしいんだけど、それでも通ってしまう人はいる。

 犯罪歴があれば別だけど、上手く逃げてる人もいるみたいだし、そういう人に限って筆記試験はしっかり通ったりすると聞いた。

 多分だけど、ルギネさん達に絡んだ冒険者は、そんな風に試験を通った人達で、力自慢でもあったんだろう。

 低ランク……Eランクとかは、ほとんど魔物と戦わないし、試験を通るくらいなら誰でも達成できる依頼ばかりだ。

 もし戦っても、ゴブリン数匹とか、少し武器の扱いができれば倒せる魔物ばかり。

 Dランクまで行くと、多少は戦う事も増えるみたいだけどね。


 絡んで来た男達のランクがどうなのかは、わからないけど、Cランクのルギネさん達に低ランクと呼ばれるくらいだから、DランクかEランクと言ったところだろうと思う。

 それくらいのランクの依頼の中で、楽な依頼をある程度こなせたから、冒険者は楽だと侮ってしまったのかもしれない。

 そうして調子に乗っている時に、ルギネさん達女性だけのパーティを見かけて、つい居丈高にナンパしてしまったのか……。

 アンリさんの自画自賛じゃないけど、確かにリリーフラワーのメンバーは、それぞれ違う方向性ながらも、美女と言える人達ばかりだ……ミームさんだけ、醸し出してる雰囲気が不思議だけど。


 そして結果は言い争いから喧嘩に……ルギネさん達にやられたってわけか。

 確かに俺も、理由は違うけど何度か絡まれそうになった事はあるからなぁ……大体他の人が止めたりしてくれたけども。

 ランクは高くなる程、冒険者ギルド側での査定が厳しくなるので、当然人となりも見られる。

 マックスさんやマリーさんのような、元とはいえBランクの冒険者だったら、そんな事はしなかっただろうになぁ。


「あれ、でも……ルギネさんが飛ばされて、露店に突っ込んだって?」


 低ランク相手で、ルギネさんが触らせないと断言しているけど、それが事実なら、なんでルギネさんが飛ばされたんだろう?

 相手から殴り飛ばされたとかではないんだろうし……。


「いや、それがな……アンリに飛ばされたんだ」

「ルギネ、急に間に割って入ったらだめよぉ?」

「アンリさんに?」

「あぁ。男達のアンリを見る目が、特にいやらしくてな……まぁ、それでプッツンしたアンリが、斧をぶん回し始めたんだ」

「私だって、見られて嫌な視線ってのも、あるのよぉ」

「はぁ……」


 確かにアンリさんは、エルサが魅了されるほどの巨大なお胸様を持っているし、異様とも言える色気を醸し出してる。

 マティルデさんも相当なものだったと思うけど、それ以上だ。

 さっき、店のおっちゃん達が集まった時も、視線を集めてたしね。

 女性はそんな視線に敏感というから、アンリさん自身自覚しているんだろう。


 それで、絡んで来た男達の視線に怒ったアンリさんが、斧を使った……と。

 お胸様は立派だけど、ヴェンツェルさんやマックスさんのように、筋骨隆々というわけではなく、どちらかというと華奢に見えるアンリさんの背中には、二メートルはあるだろう斧が背負われている。

 アンリさんがそれをぶん回すという姿は、あまり想像できないけど……ソフィーも言っていたし、ルギネさんも言っていたんだから、できるんだと思う。

 斧をぶん回すアンリさんに、絡んで来た男達……間に入ったルギネさんと来たら……つまり。


「ルギネさん、アンリさんに飛ばされた……って事?」

「……あぁ、そうだ。まったく……こいつはパーティ内でも一番の怪力だからな。そこらの男どもより、よっぽど力がある」

「いやねぇ、ルギネ。そんな事ないわよぉ? 確かに、ちょっと力持ちな事は自覚してるけどぉ……」


 俺の言葉に、目を閉じて頷くルギネさん。

 確かに、背中にある斧を振り回す事ができるなら、そこらの男より力がある事は間違いないね。

 ルギネさんに怪力と言われたアンリさんの方は、しなを作って照れたように謙遜するけど……ちょっと嬉しそう。

 怪力と言われて照れるって、女性としての反応は合ってるんだろうか?

 うーん、女性としての意識がよくわからない……俺に女心を理解するのは、無理そうだ。

 ……こんなこと言ったら、姉さんあたりに怒られるかもしれないけどね。


 というか、さっきエルサを抱き締めた時、もがいていても抜け出せなかったのは、その怪力があったからなのか?

 エルサも怪我をさせたりしないよう、加減してもがいてはいたと思うけど……ドラゴンを押さえつける程の怪力を持つ女性。

 あまり逆らわないようにしよう……。


「あの時は一瞬、死を覚悟したな。幸い、斧の刃には当たらなかったが……アンリの振り回す力にぶち当たってな。そのまま露店に体ごと飛び込んでしまったんだ」

「成る程……それで、もしかしたら怪我が原因で、お婆さんがいないかもしれないんだね?」

「まぁ、憶測だがな。普通に立っていたし、言葉も交わした。笑顔で私が出したお金を受け取って、許してもくれた。だから大丈夫だと思ってたんだが……」

「時折、顔を歪めてたような気がするのよねぇ。あの時は、内心怒ってたのかもと思ってたんだけどぉ、今思うと、怪我を隠してたのかもしれないわぁ」


 ルギネさんとアンリさんの説明で、お婆さんが怪我をしている可能性が高い事を推測する。

 どれだけの勢いがあったのか、見てないからわからないけど、人一人が店に突っ込んでるのに巻き込まれたんだし、怪我をしていてもおかしくないだろうね。

 何故隠したのかは……騒ぎを大きくしたくなかったとか、そんなところかな?


「もちろん、修理費だけでなく、迷惑料を込めて多めにお金は渡した。おかげで、少々金欠だがな」

「絡んできた男達には、土下座させたうえで、私達よりも多く払わせたわよぉ。多分、今頃食べるのにも困ってるんじゃないかしらぁ? まぁ、私達に絡んできていやらしい目を向けてぇ、いやらしい想像をしたんだろうし……当然よねぇ?」


 もしかして、その時男達に謝らせるアンリさんに恐怖して、さっさと話しを終わらせようと、怪我を隠したんじゃなかろうか……?

 さらりと男達へ酷い事を言っているアンリさんを見て、そう思った。

 まぁ、男達は女性を下に見て絡んで来たんだろうし、かわいそうとは思わないけど……やっぱりアンリさんは怒らせない方がいいようだ。

 お婆さんじゃなくても、早く話を終わらせたがるよね……。



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