第433話 魔力を練るという事



「えっと、魔力を練る事で一つの魔法に込める魔力を増やす感覚……かな? 俺がやってるのは、魔力を魔法に変換する前に、魔力を練って圧縮するようにして……例えば、両手で水をすくうくらいの量の魔力を使うとすると、魔力はそれだけしか使えないでしょ? それを練って圧縮させる事で、同じ両手で水をすくうくらいの大きさでも、大量の魔力を使う事ができるんだ……と思う」

「……」


 少し自信がないけど、俺のイメージとしてはそんな感じだ。

 泥団子じゃないけど、魔力で団子を作るようなイメージかな。

 練って固める事で、圧縮して、同じ大きさでも重く、多い魔力を込める……という。

 俺の説明を聞いたフィリーナは、目を見開いて絶句してるけど、そこまで驚く事だったんだろうか?

 というか、これくらいの事は、魔法の扱いに慣れた人ならやってると思ってた。


「……リク……」

「どうしたの? というか、大丈夫、フィリーナ?」


 目を見開いたままの状態で、熱に浮かされたように俺を呼ぶフィリーナ。

 えっと……大丈夫かな?


「その理論、とんでもない発見よ! 今まで魔力を練って一度の使う魔法の威力を上げるなんて事、考えられてなかったの! それが可能なら、人間もエルフも、もっと強い魔法が使えるようになるわ! リクと違って、限界はあるでしょうけど……魔法事情がとんでもない革命を起こすわよ!?」

「え? そ、そうなの……かな?」

「リクさん……私はフィリーナ程魔法に詳しくないけれど、それでも凄い事になるとも思うわよ? それこそ、私でも広範囲の破壊魔法が使えるかもしれないわ」

「そうなんだ……」

「相変わらず、リクは自分がどれだけ凄い事をしているのか、理解していないんだな……」

「そういうソフィーは、理解してるの?」

「いや? 私は魔法が使えないからな。羨ましいと思う事はあるが……魔法の事はさっぱりだ」


 フィリーナが叫び、モニカさんも驚きの表情で魔力を練るという事がどういう事かを、説明される。

 革命だとか、凄い事だとか言われても、俺としては今まで自然にやってた事だから、あまり実感が沸かない。

 呆れた顔をしているソフィーの方に、どうなのか聞いてみると、あっけらかんと答えられた。

 まぁ、魔法が使えなければ、直接関係しないから仕方ないか……。


「まだ、自分がどれだけ凄いのか自覚していないようね……簡単に言うと……簡単な火の魔法があるでしょ? モニカが使うような」

「うん」


 仕方ない奴を見るような目で、俺を見て、フィリーナが説明をし始める。

 モニカさんが使う火の魔法は、以前にも見た事がある。

 手の平くらいの大きさの火の玉を相手に飛ばして、火傷を負わせたり牽制していたものだ。

 あれ単体では、人間くらいの大きさの生き物を燃やし尽くすとかはできないだろうけど、当たったら十分に痛そうだった。


「リクの言ったように、魔力を練る事ができた場合、あの魔法でマギアプソプションくらいなら、焼き尽くす事ができるようになるかもしれないわ。もちろん、使う人の魔力量にもよるでしょうけどね」

「マギアプソプションを……」


 マギアプソプションは、さっき戦ったから大きさはよくわかる。

 大体一メートルくらいの体だけど、それを焼き尽くすくらいか……。

 元々の火の魔法だったら、マギアプソプションの体を四分の一程度に火傷を負わす事くらいしかできないだろうに……そこまで威力が上がるのか。


「あくまで予想だから、実際の威力は違うでしょうけど……魔力を練るのを熟練した人だったら、それくらいはできそうよ。そもそも、リク以外の人が使う魔法というのは、箱に魔力を詰める事なの」

「箱に……?」

「まぁ、あくまでイメージだけれどね? その箱に、魔法の方向性と魔力を込めて、発動するの。それを簡略化させて、唱える事で自分の物にできるのが、魔法屋で売ってる呪文書ね。呪文を唱える事で、使用者の体内に魔法を発動するための箱を作るのだと、私達エルフは考えているわ」

「それは、私も母さんに連れられて魔法屋へ行った時に、教えられたわ。呪文書から呪文を読み取って、それを唱えて魔法を使う事で、次からは簡略化できるんだって」

「そうね。呪文書には、そこに書かれた呪文……魔法を使用者の体、魔力に覚えさせる効力があるの。だから、慣れると呪文の簡略化ができるし、端的な魔法名を言うだけで発動できるのよ。それで、魔法を使う箱には、一定の魔力しか入らない。大きさが限られてるのだから、当然ね。これを大きくする事は、魔法の方向性を変える事になるから、できないわ」

「つまりは……?」


 早口で説明するフィリーナ。

 それに同意し、補足するモニカさん。

 魔法を使える二人が、興奮状態で迫って来るので、上半身を逸らしながら聞いているんだけど、そろそろ背中が痛い。

 ……俺は、体を後ろに曲げて、地面に手を付いたりできる程、体が柔らかくないんだけどなぁ……とか思いながらもフィリーナに先を促す。

 二人の迫力に押されて、それしかできなかった。

 ちなみに、俺達を見てるソフィーは苦笑してる……助けて……。


「つまり、よ? その箱に込められる魔力を、練る事で総量を大くし、威力を上げる事ができるの。このガラスの大きさと、込められてる魔力を考えると……同じ事ができるとしたら、初歩の魔法でもさっき言ったような威力になるかもしれないわ」

「つまり、私でも大魔法使いや、上のランクの冒険者が使うような威力の魔法を使えるかもしれないの。父さんゆずりなのか、大きな魔法を使う素質はなさそうだったんだけど……」

「へ、へ~、それはまた……いい事だね?」

「そうなのよ! これが広まれば、もっと魔法を使って色々な事ができるし、魔物の討伐も容易になるわ!」

「私も、魔法で後方から援護という事もできるのよ!」

「あ、うん……そうなんだね……」


 ピキピキと、そろそろ背中から聞こえる悲鳴と痛みを感じつつ、ヒートアップするフィリーナとモニカさんに対して頷く。

 ……これは、長くなりそうだなぁ……。



 そして、それから約一時間くらいして、ようやく二人の興奮は収まった。

 背中が、逆方向に折れ曲がったりする前に終わって良かった……。

 ものすごく痛いけど……。


「ともかく、まずはこのガラスをどうするかだよ」

「そ、そうね。取り乱してしまったわ」

「私もね。強い魔法が使えるかもと思って……」

「ようやく落ち着いたな」

「リクの背中がどこまで曲がるか、もう少し見てたかったの」

「私は頭から落とされそうだったのだわ」


 二人が落ち着いて、魔力の事はともかく、今はここにあるガラスの事だ。

 まだガラスに魔力が蓄えられてるとわかっただけで、他の事は調べられてないし、話し合ってもいない。

 もうすぐ日が完全に沈むから、そちらの方を考えないと、と思って皆に声をかける。

 どうやら、フィリーナもモニカさんも、冷静になってくれたようだ。

 魔力を練る云々は、また今度でも話せるからね。


 それはいいんだけどユノ、俺の背中が逆に曲がってたのを見て、楽しんでるんじゃない。

 エルサは、確かに落ちそうだったけど、それなら他の所へ飛んで移動したら良かったのに……しがみついてるから、背中だけじゃなく頭も少し痛かったよ……。



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