第358話 子爵邸からの出発



 エフライムやレナを王都まで護衛する事が決まり、打ち合わせをするために、マルクスさんを探して屋敷内を移動。

 途中、通りがかった執事さんに居場所を聞いて、子爵邸の外へ出た。

 マルクスさんは、馬車を曳いて来てくれた馬達の世話をしてくれていたみたいだ。

 厩に行って、マルクスさんを交えて護衛依頼の事を伝える。


 オシグ村や王都へ行く際、基本的には俺が探査魔法で周囲の警戒。

 異常を発見したらすぐに伝える事。

 オシグ村から王都へ出発する際、1度は必ず野営をしないといけない事から、見張りについても経験の多いマルクスさんと、探査魔法の使える俺が多くの時間を担当する事になった。

 モニカさんは、ソフィーとユノの三人で、残りの時間を見張る事になる……まぁ、これはソフィーと合流した後に、もう一度話さないといけないと思うけどね。


 その他、細々とした護衛計画を打ち合わせて、夕食の時間になったので、クレメン子爵達と夕食を取り、その日は就寝した。

 夕食時、王都に行ける事になって上機嫌のレナと、何故かそんなレナと俺を見比べて、ニコニコしているレギーナさんがちょっとだけ気になった……エフライムは若干不機嫌だったな……。 

 ……あれは一体なんだったんだろう?



―――――――――――――――――――



 翌朝、子爵家の人達と朝食を頂いた後、一度部屋に戻り、支度をして外へ。

 多くの荷物を持っていたわけじゃないから、ほとんど時間はかからなかったけどね。

 子爵邸の外、正面玄関を出てすぐには、俺達が乗って来た馬車ともう一つ、装飾が施された馬車が用意されていた。

 これに、クレメン子爵達が乗るんだろう。


 他に、騎士団長を含め、騎士の人達が10人程待機したり馬の様子を見ていた。

 この中から数名が、クレメン子爵達と一緒に来るんだろうね。


「マルクスさん、準備はできていますか?」

「リク様、はい。馬達の調子も良さそうで、問題はありません」


 馬車の近くにマルクスさんが立っているのを発見し、近づきながら声をかける。

 馬車に繋がれた馬達も元気な様子だし、マルクスさんの言う通り、問題はなさそうだ。


「リク殿、手間をかけてすまないが、よろしく頼む」

「クレメン子爵。はい、道中は任せて下さい」

「リクにそう言われると、心強いな」

「リク様、王都までよろしくお願いします!」

「ははは、エフライム、頑張るよ。レナ、こちらこそよろしくね」


 馬車の横で待っていると、クレメン子爵とエフライム、レナが動きやすそうな服で子爵邸から出て来た。

 貴族だから、旅の時も豪奢な服を着ているのかと思ったけど、そうではなかったみたいだ。

 まぁ、装飾がされてる服とか、動きにくそうだし馬車での移動には向かないか。

 特にエフライムとレナは、王都まで行くんだから、遠出するに適した格好をしないとね。


「子爵様、後日オシグ村まで馬車を用立て、お迎えに参ります」

「うむ。頼んだぞ」

「はっ」


 クレメン子爵達と話していると、待機していた騎士さんの中から、騎士団長さんが進み出て来た。

 今ここには2台の馬車があるけど、片方は俺達が乗って来た物だし、もう片方はエフライム達が王都へ行く時に使うのだろう。

 そうすると、オシグ村へ行った後、クレメン子爵が帰る時の馬車がなくなるから、後で騎士団長さん達が別の馬車を用意するって事だと思う。

 その間に、街や街道の安全を確保する手筈なんだろう。


「では、準備もできたようだし、出立するとするか」

「そうですね。マルクスさん、頼みます」

「はっ!」


 馬車や馬の準備、必要な荷物を馬車に乗せ、俺達の方も準備は全てできている。

 御者を務めるマルクスさんにお願いして、皆が馬車に乗り込み始める。


「……あれ、レナはこっちなの?」

「はい! 私はリク様と一緒にいます!」


 祖父であるクレメン子爵や、兄のエフライムと一緒の方がいいと思ってたんだけど、レナは俺達と一緒の馬車に乗りたいみたいだ。

 随分と懐かれたもんだなぁ。


「リク様、私もご一緒してもよろしいでしょうか?」

「メイさんも? まぁ、いいですけど」

「ありがとうございます」


 レナが俺達の馬車に乗ろうとしている後ろから、メイドのメイさんが金属の部分鎧を着込んで話しかけて来た。

 子爵邸の中で見た時は、メイド服を着ていたのに、今は鎧を着込んでいるため、凛々しい印象だ……ちょっと雰囲気はソフィーに近いかもね。

 まさかメイさんもついて来るとは思わなかったけど、レナの専属護衛というのなら、納得できる。

 以前はメイさんが護衛していない間に、レナが攫われた事もあって、念のための護衛なんだろう。


 俺が頷いたのを見て、一度頭を下げ、腰に下げた長短二つの剣を揺らしながら、馬車へと乗り込んだ。

 その後に、ユノとエルサを抱いたモニカさんが続いて馬車に乗り込み、俺はマルクスさんのいる御者台の方へ乗り込む。


「リク様、レナーテの事、よろしくお願いします」

「任せて下さい。きっと無事に王都まで送り届けますから」

「はい。……リク様さえよろしければ、傷物にしても……」

「レナ、ちょっとはしたないよ? リク様、お父様やエフライム、レナーテをよろしくお願いします」

「はいっ」


 マルクスさんの隣に座り、出発する直前、子爵邸入り口の方からレギーナさんとヘンドリックさんが走り寄って来て、声をかけられた。

 レギーナさんが礼をしながらレナの事を任され、それに俺が頷いて答えた後、何か呟いていたけど、よく聞こえなかった……。

 小さく呟いていたレギーナさんを、ヘンドリックさんが窘めるようにしつつ、同じように頭を下げられ、クレメン子爵達の事を頼まれる。

 ヘンドリックさん達夫婦に、しっかりと頷いて答えるため、力強く返事をして頷き、気持ちを引き締めた。

 頼まれた事もあるけど、初めての護衛依頼だからね、失敗しないように気を付けないと。


「では、出立致します!」


 マルクスさんが声を上げ、俺達の馬車を先頭にクレメン子爵邸を出発した。

 集まっていた騎士さんの中から、3人程馬に騎乗して一緒に走り出し、クレメン子爵達が乗った馬車の左右と後ろに付いた。

 先頭が俺達だから、他の方向を警戒するという事なんだろう。

 ……街を出たら、俺が探査魔法を使うから、そこまで警戒しなくてもいいんだけどね。



「む?」

「マルクスさん?」

「リク様、あれを……」

「あれは……」


 子爵邸を出発した後、数分程道を走り、建物や人が多くいる街中へ入った。

 子爵邸は、人が住む町からは少し離れていたようだ。

 道を走ってる時は、普通に速度を出せた馬車だけど、街中はさすがにそうはいかない。

 馬が歩く程度の速度で、街の大きな通りを進んでる。


 人通りもあるからね、馬車で速度を出して走ると、人を轢いてしまうかもしれないから、注意のためだ。

 こちらに来てずっと子爵邸へいたから、街の様子を見る事ができなかった代わりに、マルクスさんと一緒に御者台に乗りながら、街の様子を眺めていた俺。

 観光ができなかったのが、ちょっとだけ心残りだね。

 王都やヘルサルとあまり変わらない街並みだけど、少しだけ建物の大きさが小さいかな?


 まぁ、そこは地域によって違うんだろうし、中心部である王都と比べちゃいけないんだろうけどね。

 ともあれ、キョロキョロとしながら、街の様子を見ていた俺とは違い、真っ直ぐ前を見ていたマルクスさんが何かに気付き、俺に先を示して見せる。

 そこには、数人の男達が集まっていて、馬車の行く手を塞いでる状況だった。



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