第318話 イオニスさんへ戦闘後の報告



「リク、早くお昼を食べるのだわ! お腹が空いたのだわー!」

「空いたのー!」

「はいはい。えーっと、イオニスさん……何か食べ物はありますか?」

「はいはい! すぐに用意させますので!」

「あ、いや……食材さえ売ってくれれば、こっちで……行っちゃった……」

「村を助けた冒険者様、だからね。歓迎してくれる証拠と思って、甘えましょ?」

「……うん、そうだね」


 何か食料を売ってくれないかというつもりで聞いたのだけど、イオニスさんはすぐに用意すると言って、数人の村人達とその場を駆け去ってしまった。

 ……あんまり腰の具合も良くなさそうなのに、元気だなぁ。

 モニカさんが苦笑しているのに釣られて、俺も苦笑して村の人達の厚意に甘える事にした。



「はぁ……美味しかったです。ありがとうございます」

「いえいえ。こんな小さな村なもので……大したものはご用意出来ませんでしたが……」

「村で採れた新鮮な野菜を使ってて、とても美味しかったですよ」


 宿ではなく、イオニスさんの家で昼食を用意してもらい、頂く。

 農家の多い村ならではの、新鮮な野菜をふんだんに使った料理は、王都やヘルサルじゃ中々食べられない美味しさで、村の人達が日頃丹精込めて作っているのだと、よくわかる物だった。

 エルサは、昨日出されたキューの浅漬けが気に入ったらしく、料理を食べる傍ら、浅漬けをポリポリと食べてた。

 野菜を使った料理をおかずに、主食の浅漬けを食べるような感じで、それで良いのかと少しだけ不思議だったね。


「村を助けて下さった皆さんに喜んで頂けたのなら、村の者達も喜ぶでしょう」


 満足そうにしている俺達、特に浅漬けをたらふく食べたエルサを見ながら、目を細めたイオニスさんは嬉しそうにそう言った。

 作ってる人達だから、それが褒められるのは嬉しいんだろうね。

 とはいえ、このまま食事に満足してばかりもいられない。

 一応、戦闘で畑がどうなったかも言っておかないとね。


 ちなみに、ソフィーは食事が終わったら早速と、ロータに剣を教えに行った。

 最初なので、母親に見てもらいながら、あまり危険な事は教えないって言ってたね。

 確か……最初は体力作りだとか……それだけでも、かなりきつそうな気がする。

 基礎体力作りは大事なんだろうけど、きついのが当たり前だからね。


「えっとですね、イオニスさん。戦闘をした畑の事なんですが……」

「はい? どうかされましたか?」


 俺が戦闘後の畑の様子を話すのだとわかり、モニカさんも真剣な顔になる。

 ユノやエルサは、そんな事おかまいなしにのんびりしてるけどね。


「魔物達が畑を荒らしていたのは……?」

「はい、聞き及んでおります。ビッグフロッグが作物を食べ、グリーンタートルが耕した土を食べていたと。さらにリザードマンがそこら中を踏み荒らしていたとも……」

「えぇ。その……魔物達を移動させて、畑に被害が出ない場所で戦えば良かったんですが……その場で戦ってしまって……。その、結構荒れてしまったと思うんですよね……」

「はぁ……」

「……私の魔法で、一部焦げてしまったところもあります。村を守るはずが、畑を荒らす結果になってしまって、申し訳ありません……」

「むぅ……そうですか……」


 俺とモニカさんの言葉で、難しい顔をするイオニスさん。

 やっぱり、村の人達が頑張って耕し、農作業をした畑を荒らしてしまった事は、イオニスさんも穏やかではいられないんだろうなぁ。

 農家をして生計を立てている村だから、畑は何よりも大事か。


「一つ聞きますが……グリーンタートルはそのままになっていますか?」

「あぁ、その……グリーンタートルは、甲羅を割って畑のいたるところに散らばっています。それと、ビッグフロッグやリザードマンも……」

「そうですか。それならば大丈夫でしょう。グリーンタートルの甲羅は、畑に良い栄養をもたらしますので。むしろ、人間が手を入れただけの畑よりも、上質な畑になりますよ。多少の被害よりも、農家としてはそちらの方が利益になります。それに、他の魔物達も良い肥料になってくれそうです」

「リザードマンやビッグフロッグもですか?」

「はい。魔物を倒すという事自体が、村の者達には難しいのでほとんどできる事ではありませんが、魔物の死骸は土にとって良い栄養となるのです。なので、リクさん達が謝る必要はございません」

「ほっ……良かった」


 グリーンタートルに関する質問に答えると、すぐに穏やかな笑みになったイオニスさんが説明してくれた。

 ソフィーから聞いていたけど、本当にグリーンタートルは良い肥料になるとの事。

 さらに魔物の死骸は、土に埋めてしばらくすると、今まで蓄えていた栄養が畑にとって良い影響をもたらす……らしい。

 イオニスさんの説明を聞いて、ホッとした息を漏らすモニカさん。

 俺も、同じような気持ちだ。


 村の命とも言える、畑を荒らしたからね……烈火の如く怒るような人達じゃない、とは考えていたけど、苦言くらいは言われると思ってた。

 でもイオニスさんは、逆に感謝する様子みたいで安心したよ。



「ほら! 動きが鈍ってるぞ! もっとしっかりやらんと、自分の力にはならない!」

「はい!」

「……やってるなぁ」

「ソフィー教官は、母さんみたいに厳しそうね……」


 イオニスさんと話した後、俺達はロータの様子を見るため村の広場へとやって来た。

 そこでは、剣を持ち、ソフィーに指導されるロータ……ではなく、地面に手を付いて腕立て伏せをしているロータに、動きが鈍るのを見ると、すぐに叱責を飛ばすソフィーがいた。

 ……体力づくりか……腕立て伏せとかやるんだ。

 必要な事なのはわかるけど……厳しそうだなぁ。

 二人の様子を見て、目を細める俺とモニカさん。

 モニカさんの方はマリーさんに特訓された時の事を思い出して、ちょっとだけ苦い顔をしてたけど。


 ちなみにユノとエルサは、満腹になってお眠だったので、イオニスさんの奥さんが見ておくといっていたので、任せた。

 孫のようなユノに対し、イオニスさんも奥さんも目尻が下がりっぱなしだったので、可愛がってくれるだろう……まぁ、寝てるだけだけど。

 ユノは魔物と戦って運動したから、眠くなるのはわかるけど……エルサはなぁ……何もしてないはずだ。

 相変わらず、のんびりした食いしん坊ドラゴンだな。


「ん? 二人共来たのか」

「ええ。どんな様子かと思ってね」

「どう、ロータは?」

「動機が動機だからな。好奇心のみで剣を使いたいと言ってる子供よりは、真剣に打ち込んでくれそうだな。筋が良いかどうかは……まだまだこれからだな」


 俺達が見ている事に気付いたソフィーが、ロータから目を離さないようにしながら、こちらへ近づいて来る。

 ソフィーにロータがどうなのか聞いてみる。

 確かに父親がやられるところを見て、その父親の剣を受け継ごうと頑張ってるんだから、真剣度は高いんだろう。

 見込みがあるかどうかは、まぁまだ体力づくりの段階だからね……剣も振ってないのに、いくらソフィーでもわかるわけないか。



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