第274話 パレードへの乱入者
「まぁ、りっくんがお酒を……というのは置いておいて、とにかく今回は順調に進んでるのね?」
「はい。滞りなく進んでおります。警備の方も、観衆に混乱もないようです。……少々、冒険者ギルドの事で苦情が来たとの報告があったくらいでしょうか……」
「あぁ、冒険者ギルドね……前を通った時の状況を考えると、仕方ないわね」
「マティルデさんがね……まさか冒険者を集めて、自分は人に囲まれないスペースを確保するとは思わなかったよ」
「まぁ、冒険者への依頼で簡単に遂行できる物としては、良いんじゃないか?」
「戦ったりする事でもないからね。小遣い稼ぎのようなものなのかな?」
「そうかもねぇ。それくらいなら、特に問題にもならないでしょう」
「はい。問題も無く、リク様達が通り過ぎた後は速やかに解散したとの事です」
パレードを見ようと通りに出てみたら、冒険者に邪魔をされて離れた場所しか確保できなかった……という苦情が来たんだろうと思う。
不運だったと思うしかないだろうけど、それくらいなら、問題とも言えないだろうからね。
とりあえずマティルデさんには、今度冒険者ギルドに行った時にでも注意しておこう……俺が言って聞くかはわからないけども……。
「陛下、リク様。出発します」
「わかったわ」
「はい」
「あぁ、休憩も終わりね……また笑顔をしたままにするのは、疲れそうだけど」
「そうだな。だが、仕方ないだろうな」
「主に見られるのはリクだけど、集まってくれる人たちに疲れた顔をあんまり見せるのはね……」
「むぅ、人に見られるのは多少慣れて来たが、これだけ多いとな……」
「また人がいっぱいなのが見られるの!」
しばらく休憩していると、兵士さんの一人が来て休憩が終わりだと告げて来た。
それを聞いて、俺達は皆立ち上がり、陣の外へと向かう。
「おっと、エルサ。そろそろ離れてた方が良いな。また馬を怯えさせちゃいけないから」
「わかったのだわ。まだ補給し足りないけど、仕方ないのだわ」
エルサを頭から引きはがし、モニカさんに預ける。
隣でソフィーさんが抱きたそうにしていたけど、見なかった事にした。
それにしても、エルサの補給って一体何だろう……?
もしかして、俺の魔力でも吸ってるのか? 以前、魔力が流れて来るとか言ってたし……まぁ、支障が無いようなら別に気にする必要も無いか。
「城に着くまでは、もう休憩も無しね。皆、頑張りましょう」
「はい、陛下」
「最後には、リクの魔法もあるからな……花火の魔法、大丈夫なのか?」
「一応、昨日はあの後イメージを固め直したから大丈夫だと思うよ。小さな魔力調節は難しいけど、今回は大きく打ち上げるから、何とかなると思う」
「昨日と同じ失敗をしたら、王都が火で包まれそうね……」
「阿鼻叫喚だな……」
「大丈夫、もし失敗したら、エルサが何とかしてくれるから」
「まぁ、魔力が多過ぎたり危ないと思ったら、私が結界を張るのだわ」
「それなら……いいのかしらね?」
そんな話をしながら、兵士さんが連れて来てくれた馬に乗る。
ハーロルトさんに教えられてしっかり練習したから、乗り降りも少し慣れてあまり時間がかからなくなって来たなぁ。
「それじゃ、リクさん。頑張って」
「うん、ありがとう」
馬から少し離れた場所で、エルサを抱いたモニカさんに声をかけられる。
それに答えながら、馬を移動させて姉さんと一緒に所定の場所へ。
モニカさん達は、また馬車に乗って移動するため、そちらへと向かった。
……俺も、馬車に乗って気楽に移動したいなぁ。
「リク殿、しっかり休まれましたかな?」
「はい、なんとか乗り切れそうです」
「それは良かった。魔法、楽しみにしていますぞ」
「ははは、ええ。楽しみにしていて下さい」
兵士達が整列するのを待つ間、近くにいたフランクさんに話しかけられ、軽く話す。
「では、出発します!」
先頭はヴェンツェルさんから、別の兵士に変わっていた。
他の兵士さんよりも、上等に見える鎧を着てるので、何かしらの役職を持った人なんだろう。
その人が声を上げ、先導して行く。
フランクさんも楽しみにしてるようだし、花火の魔法、頑張らないとな。
あ……魔法名、何にしよう……花火でも良いんだけど、何となく格好が付かない気がするな……。
「リク様~!」
「きゃ~! こっちを見たわ!」
「リク様~! 格好良いです~!」
「陛下~、リク様~!」
「リク様~付き合って~!」
「抱いて~!」
相変わらず、一部におかしな歓声が混じりながら、集まった観衆に笑顔と手を振りながら、いくつかの通りを進む。
「りっくん、モテモテね?」
「……あれはモテてるって言うのかな? お祭り気分で適当に言ってるだけじゃない?」
「ほとんどがそうかもしれないけど、中には本気の子もいるんじゃない?」
「かもしれないけど……よくわかんないな……」
「はぁ……育て方を失敗したかしら?」
育て方って……。
小さい頃は、いつも姉さんと一緒にいた記憶はあるけど、育てられたという感覚じゃないんだよなぁ。
それに、声をかけて来る人達の中で、だみ声で変な事を言われても、モテてるとか考えて喜べるかというと……ちょっと微妙だよね。
敵意を向けられるよりは良いと思うけど……。
「停止! 停止―!」
「ん?」
「あら、どうしたのかしら?」
ゆっくりと通りを進んでいる時、急に戦闘の兵士さんが声を張り上げて進行を止めた。
何かあったんだろうか?
「止まれ! それ以上近付いてはいかん!」
「離して!」
「何か、騒がしいね?」
「そうね。酔っ払いが乱入して来たのかしら?」
俺がお酒を飲まないから、集まった人達が飲む事が少ないとはいえ、それでも飲んでる人はいるだろう。
そんな人が乱入して来たのかな? と考えながら、騒がしい前方を姉さんと一緒に見る。
周囲は観衆も含めざわざわとしていて、皆騒ぎの方へ視線を向けてる。
「くっ、暴れるな! 止まるんだ!」
「離してー!」
「何か、子供の声が聞こえるんだけど?」
「そうね。酔っ払いじゃないのかしら?」
「申し訳ありません、陛下、リク様。どうやら子供が一人、前方から走り込んできたようで……。馬で轢いてしまいそうだったので、進行を止めました」
前方で騒いでる声は止まらず、子供の叫び声が聞こえる事に首を傾げながら、姉さんと話していると、伝令の兵士さんが一人、俺と姉さんに報告に来てくれた。
子供が走り込んでくるなんて……どうしたんだろう?
パレードを邪魔するなんて、よっぽどの事だと思うんだけど。
「そう。進行をこれ以上止めるのは、今後に影響が出る。速やかに連れて行きなさい!」
「はっ!」
「……子供ねぇ」
「どうしたんだろうね?」
報告して来た兵士さんに、姉さんが指示を飛ばし、駆けて行く。
それを見送りながら、小さく呟く姉さんと、首を傾げる俺。
「離して! 父さんを、父さんを返してぇ!」
「こら、暴れるんじゃない! このパレードは、陛下やリク様がいるんだ。お前の父親は関係無いだろう!」
静止の兵士を振りほどいたり、捕まえられたりしながら、少し俺達に近付いて来た事で、叫び声がはっきりと聞こえてくるようになった。
父さん?
一体子供に何があったんだろう?
「進行開始!」
「離して―!」
「暴れるな!」
先頭の兵士さんが号令を出し、再びゆっくりと動き始める行列。
遠目ながら、子供……少女が泣きながら叫ぶのに対し、兵士さんが二人がかりで取り押さえているのが見えた。
……乱入して来たのは向こうだから、仕方ない事とは言え、なんとなく罪悪感を覚えた。
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