第228話 リク対ボスキマイラ



「じゃあ、ユノは下がってもしもの時は皆を守ってくれ」

「了解したの!」

「魔法を使うのだわ? だったら私も離れるのだわ。巻き込まれるのはごめんなのだわー」


 下がってもらうよう伝え、頷いてくれるユノ。

 それと一緒に、頭にくっ付いて寝ていたエルサは、俺が魔法を使う事を聞いて起き、頭から離れてユノの腕の中に飛んで行った。

 ……良いけどさ……巻き込む気はなかったのにな……俺の頭にくっ付いてるエルサが巻き込まれるという事は、自分も巻き込むって事だし……。


「はぁ……モフモフが無いけど、仕方ない。とりあえず魔法を……と」

「GURYUUUUU!」


 改めてボスキマイラに向き直り、剣を収めて魔法を考える。

 そんな俺に向かってボスキマイラが巨体を動かし、迫って来る。

 2足歩行と巨体だからか、手下のキマイラ程早くはないけど、その分地面が揺れる。


「さて、どんな魔法が良いかな……?」

「GYUAAAA!」

「危ない!」


 俺が剣を収めたまま、魔法のイメージを固めるために思考に集中する。

 その間もボスキマイラは俺へと迫り、ひと際大きい腕を俺に向かって振り下ろす。

 後ろで、フィネさんの物と思われる叫びが、危険だと伝えていたけれど、大丈夫。


「RYUA! RYU!?」

「えーと……魔法は……」


 ズンッ! という音と共に、俺の頭へ拳が激突したけど、俺には何の痛みもない。

 ……少しだけ足が地面にめり込んだけど……。

 念のため、戦ってる最中という意識は保っているから、以前エルサに言われた通りならこれくらいの攻撃は何ともない。

 それはともかく、ビクともしない俺に戸惑っているボスキマイラに対する魔法は……。


「やっぱり火が良いかな……? よく使ってたのは氷で、この前は風の魔法だったけど」


 氷は魔物の動きを止める事を目的に使っていた。

 風は範囲を広く考えた時に便利そうだったからね。

 でも、火はなぁ……ヘルサルの時やり過ぎたから、ちょっとトラウマ……。


「でも、魔力調節の練習だから、ちょうど良いのかもしれないな……」

「RYUA! RYUA! RYUA!」


 さっきからボスキマイラが、俺に対して何度も拳を振り下ろしているのが少し鬱陶しい。

 おかげで足首まで地面に埋まってる状態だ……痛くないから良いんだけど。

 ……足が固定されて、魔法を使うのにぴったりかもしれない。


「よし、トラウマ克服のため、ちょっと協力してもらおう」

「RYU!?」


 思考を止め、ボスキマイラの方へ視線を向けた事で、後退りするような反応をされた。

 まぁ、ここまで攻撃してビクともしてないんだから、こうなっても仕方ない、のかな?


「えーと……使う魔力は最小限……ファイア」

「GYURYAAAAA!」


 手をおもむろに持ち上げ、ボスキマイラへとかざして、練った魔力を火の魔法に変換。

 そこから魔法名を呟いて火の魔法を放つ。

 拳サイズの火の玉が飛んで行き、ボスキマイラのお腹辺りに命中。

 ズゴォォォ! という轟音が響いて大きく爆発。

 音でボスキマイラが歩くよりも地面が揺れてる気がするんだけど……ボスキマイラの大きく悲鳴を上げてるし……。


「あれ、思ったより威力があったな……しまった……」


 以前、見渡す限りを凍らせてしまった時、溶かすために使った火の魔法と同じイメージだったんだけど……もしかすると魔力を練って凝縮せたのが悪かったのかもしれない。


「魔力を練らずに使うと、効率が悪そうなんだよなぁ……」

「RYUUUU!」


 練ってない魔力は、薄く広がってしまう代わりに、無駄になってしまう魔力が多い。

 密度の問題なんだけど……仕方ないか。

 ボスキマイラの方は、毛でおおわれていたお腹のほとんどが焼け焦げ、肌っぽい灰色が露出していたけど、さすがに生命力が高いのか、動きに支障は無いみたいだ。


「じゃあ、次は……魔力を適当に広げて……ファイア、ファイア、ファイア」

「RYU! RYU? RYU!?」


 イメージでは小さい火の玉を飛ばす感じで、適当に3回連続で発動。

 今度は魔力を練っていないためか、さっきのような轟音を響かせる事無く、ボスキマイラの両手とお腹に当たってすぐに消えた。

 ダメージ自体はそれほどではないようだけど、連続して放たれた火の玉が直撃したボスキマイラは、痛みなのか熱さなのかに戸惑う声を上げている。


「ふむ……こんな感じか……次は少し威力を上げて……ファイア、ファイア、ファイア、ファイア」

「RYUAAAAAAAA!」


 少しだけ魔力を追加して、イメージも拳サイズより少し大きくソフトボールくらいの大きさに変える。

 4連続で発動した魔法は、狙いたがわずボスキマイラの両腕、両膝へと着弾、大きく悲鳴を上げさせた。


「成る程……段々慣れて来たぞ」

「RYUA! RYUA! RYUAAAA!」


 なんだか、ボスキマイラが涙を流して命乞いをしている気がしないでもないけど、多分気のせいだ。

 獅子の頭でそんな器用な事が出来ると思えないしね。

 とりあえず、次はさらに威力を上げて5連続発動。

 全てお腹に当ててみると、ボスキマイラは俺の胴より太い腕でお腹を押さえてうずくまった。


「よーし……次は……そうだな……あ、ああいうのはできるかな?」


 火の魔法を連続して使い続けて、思いついた。

 確か、鬼火っていうのが日本にはあったね。

 あったというか、怪談の類で言われていただけだけど……。

 イメージは……ゲームであったあれで良いかな……俺が考えているのと近い感じだし。


「……ウィルオウィスプ」


 火ので作られた精霊のようなものをイメージ。

 魔力は少しだけ練って、これでボスキマイラを倒してしまうようにする。


「お、出て来た」


 かざした手のひらから、人の頭くらいの大きさの燃え盛る火の玉が出現。

 それはそのまま空中にとどまったまま、キョロキョロと辺りを窺っている様子にも見える。

 ……俺が精霊とかイメージしたから、意思と言わないまでも、何かしら生き物っぽいところがあるのかな?


「……えーと、とりあえず……あのボスキマイラを燃やしてみようか?」


 俺がその火の玉に声を掛けると、一瞬だけ激しく燃えた後、ボスキマイラへ向かって飛んで行った。

 ……多分、返事をした……のかな?


「RYUAAAAAA…………」


 さっきまでの火の玉よりも速い速度で飛んで行ったウィルオウィスプは、ボスキマイラ付近で急に巨大化。

 ボスキマイラとほぼ同じくらいの大きさになり、大きな体を包み込むように動いた。

 悲鳴のような、断末魔のような、それとも命乞いのような……ボスキマイラの声は、火に包まれながらか細くなっていき、やがて聞こえなくなった。


「……考えた以上なんだけど……失敗? でも、周囲の影響はほとんど出て無いから、成功かも?」


 数秒後、包んでいた炎がすべて消え去り、残されたのは焼け焦げて息絶えたボスキマイラだけだった。

 威力が高すぎて失敗かと思ったけど、よく見てみると今までとは少し様子が違った。

 大きなボスキマイラを包んで、焼き殺す程の威力の魔法は今までだったら、必ず周囲に何かしら影響を及ぼしてしまっていたのに、今回は地面に跡を残していないし、近くの林に火が延焼する事もない。

 ウィルオウィスプに簡易的な意思のような物があったのだとしたら、もしかすると狙ったボスキマイラのみを集中して燃やした……という事なのかもしれないな。



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