第213話 中央冒険者ギルドへ



「……父さん、母さん」

「……エルサ、ユノ」

「わかったのだわ」

「はいなの」


 馬に乗って去って行く両親の背中を見つめるモニカさん。

 やはり寂しそうなその姿に、エルサとユノに声を掛ける。

 エルサ達は俺が言いたい事をすぐに理解してくれて、モニカさんの方へ。


「……あら、エルサちゃん。ユノちゃんも」

「特別に、私をモフモフする事を許すのだわ」

「私もいるの!」


 俺の頭から離れたエルサは、モニカさんに抱かれる形に。

 ユノの方は、自分もいると主張するようにモニカさんと手をつないだ。


「……ありがとう」


 エルサ達が何故そうしたか理解した様子のモニカさんは、俺も含めてお礼を言った。


「それじや、リクさん。私は王都にある冒険者ギルドを回って来るわ」

「わかった。気を付けてね」

「私がいるのだわ」


 マックスさん達を見送った後、南門から離れての分かれ道。

 モニカさんは昨日の打ち合わせ通り、王都にいくつかある冒険者ギルドへ依頼の確認に行くため、ここでしばらくお別れだ。

 エルサはモニカさんに抱かれたまま付いていくようで、いつものように俺の頭には帰って来ない。

 モフモフが無いのは少し寂しいけど、契約者である俺以外の人間をあまり気にしていなかったエルサが、モニカさんも気にするようになって少しうれしい。

 ……エルサも成長してるのかな? ドラゴンとしては成長と言えるのかはわからないけど。


「私はリクに付いて行くの」

「しっかり見ててね、ユノちゃん。マティルデさんは何か油断できないから……」


 ユノはさっきまでと違い、俺と手を繋いで付いて来るようで、モニカさんに何か言い含められている。

 ……マティルデさん、そんなに警戒するような相手には見えなかったんだけどなぁ。


「さて、のんびり歩いて行くか」

「町を見るのも面白いの!」


 ユノと二人、王都の町を見ながらゆっくりと歩く。

 ヘルサルの街よりも、石造りだったり木造りだったりと色々な家や店が立ち並んでるから、それをみているだけでも楽しい。

 ヘルサルはアテトリア王国でも大きな街らしいから、田舎というわけではないけど、やっぱり王都の方が都会という気がするね。

 日本みたいに高層ビルがあったりする事は無いけど。


「あれ……もしかしてリク様じゃ……?」


 ユノと歩いて中央冒険者ギルドを目指していると、行きかう人のうち一人が、俺に気付いたように声を上げた。

 その声を聞いた他の人も一緒に、俺へと視線を向けている。


「やっぱりリク様だ! サインして下さい!」

「あー、えっと……サインはちょっと……」


 俺に気付いた人と、遅れて気付いた人達数人に囲まれてしまった。

 サインを欲しがるって……この世界にもそんな文化があるのだろうか……?


「サインが駄目なら握手で! お願いします!」

「こっち、こっちもお願いします!」

「この子にも握手をしてやって下さい!」

「わ、ちょ、ちょっと待って!」

「皆並ぶの!」


 10人近くの人達が一気に集まって来て、俺に握手を求めるようになってしまった。

 こんな事に慣れていない俺は、あたふたするだけだ。

 俺と手をつないでいたユノが、精一杯背伸びをして叫ぶ。

 その声は、騒いでいた人達に不思議と行き渡り、皆素直に従って俺の前に1列で並んでくれた。


「ユノ……何かしたのか?」

「皆にお願いしただけなの」


 ユノに聞いてみても、声を出しただけのようだ。

 これが神様としての力なのか……そういう力を今は持ってないらしいから、違うかもな。

 何はともあれ、集まった人達を待たせるわけにはいかない。

 俺は一人ずつ丁寧に握手をしていった。

 最初に並んだ人……最初に俺を発見して声を上げたのは、先日の魔物襲撃で一緒に戦った兵士さんで、今日は非番だったらしい。

 ……せめて城の中で握手を求めて欲しかった……。


「ありがとうございます。これでこの子もリク様のような立派に育ってくれるでしょう」

「ははは、元気に育ってくれると良いですね」


 最後の一人、生後数か月くらいの赤ん坊を抱いている母親にお礼を言われる。

 なんでも、俺と握手する事で、俺にあやかって立派な人物に育って欲しいという事らしいけど……そんな効果があるのかは疑問だ。

 まぁ、しっかり元気に育って欲しいと思う。

 母親を見送って、俺に集まっていた人達がいなくなり、ようやく一息。


「ふぅ……有名人ってのも楽じゃないんだな……」

「まだまだこれくらい軽いの。パレードをしてリクの事を皆知ったら、きっと、もっとすごいの!」

「ユノ……パレードの事を聞いてたのか……」


 姉さんがパレードの事を話しに来た時、部屋にはユノもいたから、聞いていて当然だけどね。

 でも、そう考えると、まだあまり顔が知られていない状況でこれなんだ……パレードの後はもしかしたらもっと人が集まるようになるかもしれないな……。

 サングラスとかマスクで顔を隠した方が良いかな……?

 なんて考えながら、再びギルドへ向けて歩き出す。

 

「ちょっと変な事で時間を取られたけど、無事到着だ」

「着いたのー」


 相変わらずおかしな作りをしている冒険者ギルドに到着し、ユノと話す。

 ユノはこの建物の見た目を気に入っていたから、ご機嫌だ。

 はしゃぐユノを見て笑いながら、俺はドアを開けて中に入った。


「えーっと……あ、あそこが良いな」


 ギルドに入って中を見渡し、カウンターのちょうど開いている受付へと向かった。

 そこにいるのは、以前来た時に受付してくれた女性だ。


「すみません、マティルデさんは今いますか?」

「はい……? あぁ、リク様! ようこそ冒険者ギルドへ。ギルドマスターに御用ですか?」

「はい。ちょっと聞きたい事があって……」

「畏まりました。どうぞこちらへ」


 受付の女性は、しっかり俺の事を覚えてくれていたようだ。

 あまり印象深くない顔なはずだけど、やっぱり英雄だのなんだのってのがあって覚えやすいのかもね。

 女性に案内されて、建物の奥、別の部屋へと通される。

 ヘルサルでは、ヤンさんが出て来て部屋へ……と言う事が多かったけど、さすがに統括ギルドマスターともなると、簡単に表に出られないのだろうか?


「こちらでお座りになってお待ち下さい」

「はい」


 部屋はソファーが向き合うように二つ。

 その間にテーブルがあって、応接室のようになっている。

 多分、マティルデさんにお客さんが来た時のために用意された部屋だろう。

 受け付けの女性が退室してすぐ、別の職員さんがお茶を淹れて持って来てくれた。

 それを頂きながら、ユノと一緒に待つ事数分、部屋にマティルデさんがやって来た……受付の女性も一緒だ。


「リク君、いらっしゃい。今日は私に会いに来てくれたの?」

「マティルデさん。いえ、今日は少し聞きたいことがありまして……」


 相変わらず年齢不詳なマティルデさん……今日は以前にも増して色気を振りまくように動いてる気がするけど……気のせいかな。


「つれないわね……まぁ良いわ。それで、聞きたい事って?」

「えーっと、先日の魔物襲撃の時の事なんですが……」


 どう聞いたら当たり障りないだろうか……?

 いきなり冒険者が……と言ってもギルドを疑ってるように思われるかもしれないし……。

 姉さんは世間話をするくらいで良いと言っていたけど、よく考えると俺、こういう探りを入れたりするって事が苦手なんだよなぁ。



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