第199話 訓練中の皆の様子を見る



「ふむ……モニカさんは……型の練習、かな?」


 槍を持った一団の中、周りと同じく槍を振っているモニカさんを見つけた。

 数人で同じように動き、同じように槍を構えて振る……空手の型を見ているような感じだ。

 モニカさんは、俺と同じ時期に冒険者になっただけあって、周囲のメンバーの中で一番経験が浅い。

 仕方ない事なんだけど、だからとそれに甘んじる事なく、自分を高める事を忘れない姿勢は素晴らしいと思う。


「あっちは……ソフィーさんか……なんで兵士を追いかけまわしてるんだ?」


 別の方向を見ると、ソフィーさんが一人の兵士を追いかけている姿を見かけた。

 追いかけられてる兵士は、俺が見た事もないような波打った刃のナイフを持っている。

 ……多分、珍しい戦い方をする人を見つけて、勉強のために手合わせをさせようと追いかけてるんだろう。

 何度もソフィーさんと手合わせをしたのか、追いかけられてる兵士は所々が汚れてるのが見て取れた。

 他の兵士達は苦笑いをしながら、それを見て剣を振るっている。


「あっちは良いか……ん? あれはフィリーナとアルネか」


 剣や槍を持った人達とは、少し離れた場所。

 木で作られた人型の人形と向かい合う形で、エルフの二人とそれを見る兵士達がいた。

 フィリーナとアルネは、呼吸を合わせて同時に魔法を発動……このあたりは、兄妹という事もあって息がぴったりだね。

 いつもの風の魔法では無く、兵士達にもわかりやすいように火の魔法を放ち、人型の人形を丸焦げにした。

 多分、魔法に長けてるエルフとして、魔法の見本を見せてるんだろう、周りの兵士達は感心したように頷いてるから、良い講師になってるみたいだ。


「あと残ってるのは……マックスさんとマリーさんか……あれ?」


 マックスさんとマリーさんの二人を探して見ると、複数の真新しい鎧を着た兵士達が集団で座っているのが見えた。

 鎧が新しいというのは、新人だからなんだろうけど……座っている集団の前にマックスさんとマリーさんが立って何かを話している。

 ……マリーさんの事だから、徹底的に体を鍛えて……とかやってそうだと思ったんだけど、違ったようだ。


「だけど、何を話してるんだ?」


 ここからだと、マリーさん達の話している事は聞こえない。

 だけど、マリーさんとマックスさんが口を開くたびに、新人の人達が顔を青ざめさせたり、俯いたりしている……中には涙ぐんでる人もいるようだけど……あれは良いのかな?


「戦闘の厳しさを教えてるようなのだわ」

「聞こえるのか?」

「当然なのだわ。私の耳は良いのだわー」

「そういえばそうだったな。それで、どんな事を話してるんだ?」


 俺の頭に乗っているエルサだから、訓練場の中を見渡すように頭を動かせば、当然エルサもその方向を見られるようになる。

 それでマックスさん達の方も見ていたエルサには、二人が話している事も聞こえるようだ。

 

「……魔物退治について、とかなんとかなのだわ。処理についても話してるのだわ」

「あぁ……成る程。だから青ざめたりしてる人がいるのか……かわいそうに……」


 魔物退治をするうえで、当然だけど退治したら全てが終わりというわけじゃない。

 退治した後の魔物を処理しなければいけないのは、冒険者なら誰でも知っている事だからね。

 使う武器や力量にもよるけど、退治された魔物はほとんどが無残な姿になっている。

 その状態でさらに、埋めたり焼却処分をしたいしないといけない。

 冒険者だと、そこから討伐部位を切り取ったり、売れる部位があるならそれを取ったりしないといけないから……多分だけどそこまで全て説明しているんだろう……臨場感たっぷりに。


「あれは……新人にはきついよなぁ」


 俺も、冒険者になる直前に、マックスさんから知識として教えられたけど……その日は肉が食べられなかったくらいだ。

 元冒険者の二人は、その辺りの事を経験し過ぎてるくらいに経験しているからね……そういった説明もお手の物なんだろう……。

 ……あの新人さん達、今日ちゃんと食事出来れば良いけど……。


「マックスさん達の方には近づかないように気を付けよう……残りは……ユノか」


 俺も魔物を倒してきて、色々経験してきているけど、マックスさん達のあの話はもう聞きたくはない。

 実際に体験するよりも、何故か気持ち悪くなるんだよなぁ。

 とりあえず、気を取り直すように、ヴェンツェルさんの所へ向かったユノを探す。


「お、いたいた。ヴェンツェルさんが目立つから、見つけやすいな」

「ユノさ……ユノは何をするのだわ?」

「たまに様を付けて呼びそうになるよな……まぁそれはともかく。ユノはさっき俺やヴェンツェルさんが使った回転攻撃をしてみたいらしいんだ」

「癖なのだわ。ユノなら簡単にやりそうなのだわ」

「……そうだな」


 ヴェンツェルさんとユノは、さっきまで俺が手合わせした場所から少し移動して、別の場所で剣を向け合っていた。

 その周りには、ヴェンツェルさんの戦いを参考にしようとする兵士達が集団で囲んでいるけど、人一倍身長のあるヴェンツェルさんはその中にいてもはっきりと見えた。

 隙間からユノも見えるけど……これがユノだけだったら、埋もれて見つけられなかっただろう。

 ユノが何をするのか聞いて来たエルサに答えつつ、ユノが回転攻撃をする様子を思い浮かべる。

 ……武器を扱う事に関しては、マックスさんすら敵わない技量を持っているユノ。

 体も小さく回転するのも楽に出来るだろうから、再現するのは当たり前のように出来るだろうと思う。


「むしろ、俺やヴェンツェルさんよりも、使いこなしそうだよな……」


 俺の方は、ただ真似をしただけだから良いけど……もし完成度の高い回転攻撃をされたら……ヴェンツェルさんはショックを受けてしまわないだろうか……?


「お、試すようだな」

「手に持ってるのは木剣なのだわ?」

「ユノだと、刃引きした剣でも危なさそうだからな。せめて木剣にしろって言っておいたんだ」

「むしろ木の枝とかでも良いかもなのだわ」


 さすがに木の枝だと、すぐに折れて使い物にならないだろうけど……でもそこまでしないと相手を怪我させてしまいそうな程、ユノの技量が優れてるというのはよくわかる。

 エルサと話してるうちに、回転する時の動きなんかをヴェンツェルさんから教えられて、向かい合って構えを取った。

 ヴェンツェルさんの方は受けに回るようで、防御する姿勢だけど……よく考えたら、一見小さな女の子にしか見えないユノ相手に不思議に思わなかったんだろうか……?

 ヴェンツェルさんにはユノの紹介をまだしていないから、どんな女の子なのか知らないはずだ。

 まぁ、子供を相手にするような気軽な気分なのかもしれないな……。


「始め!」


 ヴェンツェルさんとユノの間に立った一人の兵士が、俺とエルサがいる場所にも聞こえるような声で、合図をする。

 それを聞いたヴェンツェルさんは、さっきまでと同じように二振りの剣を持って防御を固める。

 ユノの方は、右手にショートソード、左手にナイフのような短い木剣と、ちょっと変則的な武器を持って両手を広げた。


「さて、ユノはどうするんだろう?」


 離れた場所からユノの行動を見守る。

 離れてみている分、ユノが体に力を入れて行くのがよくわかった。


「足……は回転のためか……しかし、両手の武器がそれぞれ違うのは……?」


 回転中は遠心力がかかって制御が難しいから、ヴェンツェルさんのように二つ武器を持つなら、バランスを崩さないよう同じ武器を使った方が良いと思うんだが……?

 そんな俺の考えとは違い、ユノはその場で回転を始める。

 本当は相手を攻めながら回転を上げて行くのが良いんだろうけど、今回は練習だからな。

 すぐにユノの回転は、ヴェンツェルさんをおも凌ぐ速度になって、じりじりと近づいて行った。


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