第187話 王都の地理を学ぶ
「そろそろ出るか。この店も残っていて安心した事だしな」
「料理の研究を怠ってない事がわかったのも収穫ね」
「そうだな……俺も負けていられん」
料理を全て食べ終わり、店を後にしようと皆立ち上がる。
マックスさんとマリーさんは、この店が残っていた事に安心しつつも、美味しさの研究を怠ってない事に対抗心が沸き上がっているようだ。
マックスさんの美味しい料理が、さらに美味しくなったり、新しい物が出来るのは歓迎だから、無理しない程度に頑張って欲しいと思う。
「さて、次はどこに行くか……」
「昨日の襲撃で、封鎖されてる場所もあるからねぇ」
「そうですね……王都入り口から王城までの道で、近道とかあったら教えてもらえますか?」
「それは良いが、わざわざどうしたんだ?」
「いえ、もしかするとしばらく王城にいないといけない可能性もあるので……もし王都の外に出る用が出来た時、早く移動するために知っておきたいんです」
「そうか、わかった。マリー、南門と王城までの道は……あれだな?」
「あそこね。あと……東門にはあの道が残っていれば……」
昼食を食べたあたりで、まだまだ時間はある。
王城には暗くなる前に戻れば良いと思うから、それまではしっかり城下町の地形を勉強しておきたい。
魔物の襲撃からの復旧で、大通りとかの観光が出来ないみたいだから、せめてこれくらいはね。
裏道とか、そういうのを見るのも楽しそうだしね。
少なくとも明日まで、姉さんの事だから数日は王城にとどまる事になりそうな気がする。
明日の会議次第の部分もあるかもしれない。
俺の提案に、マックスさんとマリーさんが王都の地形を思い出しながら相談し始めた。
王都で活動していた経験がある人が近くにいると、こういう時安心だ。
「リクさん、外と中の近道を知ってどうするの?」
「姉さんや、城の会議とかあるからね……しばらく王城から離れられないと思うんだ」
「んー……陛下の様子を見るとそれはありそうね」
「だから、そんな時にもし、外に出る用が出来たりギルドで依頼を受けたりしたら、早く移動したいと思うんだ。言っておけば大丈夫だろうけど、時間をかけたら心配されそうだしね」
「……過保護なのねぇ。まぁ、リクさんの部屋での様子を見ると、何となくわかる気がするけど……」
「まぁ、色々あったからね」
マックスさんとマリーさんが相談している間に、モニカさんと少しだけ声を潜めて会話する。
マックスさん達なら信頼の出来る人達だから大丈夫だと思うけど、一応、姉さんとの関係は伏せておく事になってるからね。
もし、俺がギルドの依頼で王都の外に出る事があったら、出来るだけ早く移動して用件を済ませたいと思う。
王都の中でエルサに乗って移動する事は出来ないだろうから、外に出るまでは徒歩移動になるしね。
そんな事を考えていると、モニカさんが納得したようだ。
姉さんが過保護なのは、以前の世界の時から変わらない。
姉さんとは色々あったから、過保護になるのも仕方ないと思うし、俺もそれを嬉しいと思う。
まぁ、これからは姉さんの事を守れるくらいにはなりたいと考えてるけどね……あっちは女王で、その必要があるのかはわからないけど。
ユノを助けてこの世界に来られたのも、姉さんのおかげだから……。
「よし、リク。まずはここから近い西門の方からだ」
「私達が知ってる事は教えるわ」
「ありがとうございます。お願いします」
相談の終わったマックスさん達に声を掛けられて、俺達は王都の地理勉強を始めた。
モニカさんは、俺と同じように冒険者としての知識を蓄えようと熱心に地理を覚えようとしていた。
ユノは初めて来る場所だから、終始はしゃいでいたし、エルサに至っては俺の頭にくっ付いたまま、途中で買ったキューを齧っているだけだったけどね。
日が沈み始めて少しだけ暗くなった頃、朝モニカさん達と合流した城門前まで戻って来た。
さすがに昼からの時間だけで全部覚えきれなかったけど、王都から外へ出る近道はある程度覚えられた。
後は、自分で色々見て回るついでに覚えるくらいで良いだろうと思う。
「ありがとうございました。おかげで便利な道も覚えられました」
「なぁに、これくらいは大した事じゃないさ」
「そうよ。リクには色々助けてもらってるからね。これくらいは当然よ」
別れ際、マックスさん達に改めて案内のお礼を言う。
二人からしたら大した事でなくても、俺としたらすごく助かってるからね。
この世界に来てから、世話になりっぱなしだなぁ。
「あぁ、そうだリク」
「はい、なんですか。マックスさん」
皆に挨拶をして城へと帰ろうとした時、マックスさんが思い出したように声を掛けて来た。
「俺とマリーは、明日か明後日には王都を出てヘルサルに帰るからな」
「明日か明後日ですか。もっとゆっくりしていても良いのでは?」
「ルディ達に任せてる店が心配だからな。いつまでも俺達がいないというわけにはいかないだろう」
「それにモニカもそうだけど、リクがまだ王都にとどまるなら、エルサちゃんに乗れないでしょ? 馬で移動するから、早くしないとね」
「……成る程……それなら……」
「俺達をエルサを使って送る……というのは無しだぞリク」
「え?」
馬に乗って王都からヘルサルへ向かうと数日はかかるから、俺とエルサでマックスさん達を乗せて帰れば早いだろうと思ったんだけど……。
それを提案しようとした言葉を、マックスさんに止められた。
エルサに頑張ってもらえば、1日あれば往復出来ると思ったんだけどなぁ。
「冒険者時代の事も思い出して来たからな……久々に旅気分を味わいたい。……それに、マリーと二人になるのも悪くない」
「何言ってるんだい、アンタは……」
「……そうですか、わかりました。それじゃ、帰る時はまた連絡を下さい。せめて見送りくらいはしますよ」
冒険者だったマックスさん達は、久々にゆっくり馬で移動する旅を楽しみたいようだね。
まぁ、二人共経験豊富だし、魔物と遭遇しても大丈夫そうだ。
後半、小さく呟いたマックスさんの言葉に、マリーさんは照れている様子だ。
……しばらく期間を置いてヘルサルに帰ったら、モニカさんの弟か妹が出来てたりして……なんて考えるのはさすがに……と思いながらモニカさんを見ると、俺と同じ事を考えてしまったようで、赤い顔をしながら嫌そうな表情で頭を振ってる。
「それじゃ、また」
「リクさん、またね。明日は城の方へ行くわ」
「またな、リク」
「しっかり休むのよ」
「またなのー!」
マックスさんとマリーさんが宿へと向かい、モニカさんはユノと手を繋いで歩いて行く。
俺は昨日の跡が残っている城門を通って、頭にくっ付いて寝ているエルサと一緒に、城へと帰った。
遠目で見ると、モニカさんとユノは姉妹みたいで微笑ましかったなぁ。
「お帰りなさいませ、リク様」
「ただいま帰りました、ヒルダさん」
「お帰りー、りっくん」
「……なんで姉さんがここにいるの? 仕事は?」
城へ顔パスのように入って、豪華な内装の廊下を歩いて部屋へと戻る。
勲章授与式だったり、魔物との戦いだったり、姉さんをバルテルから助けた事で、全員じゃないだろうけど兵士達は俺の顔を覚えてくれたみたいで、特に確認も無く城内に入れた。
国の中心部に簡単に入れる事は良いのかなと思うけど、何かを企んでるわけでも無し、信頼されてるんだと考える事にした。
部屋の中に入り、中で待ってくれていたヒルダさんに挨拶をしていると、ソファーでくつろいだ様子の姉さんに、ヒルダさんが淹れたのであろうお茶を片手に手を挙げて迎えられた。
女王様でもある姉さんが、こんなところで油を売ってて良いのだろうか……?
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