第156話 ヒルダさんからの進言
「ユノは俺の妹として、皆に伝えてるけど……姉さんの事は何て話そうか? ……皆の前で姉さんと呼んでたし……」
「そうねぇ……さっきまで部屋にいた人達までには、ある程度伝えて良いんじゃない? リクの事情を知ってる人もいるようだし」
モニカさんとソフィーさんだね。
ふむ……それなら。
「異世界からってのは隠さなくて良いかな。俺が異世界から来たって言ってるのに、この世界に姉さんと呼ぶ相手がいるのはおかしいからね」
「えぇ、それで良いと思うわ」
「ユノも良いと思うの!」
しばらくの間、姉さんとユノを交えて一緒に皆の設定を考えた。
完璧とは言いづらいけど、皆にはあまり嘘を付きたくないからね、教えられる部分は教える事にした。
ユノの事は、まだ隠しておく事にしたけどね。
「さて、皆を呼んで話をする前に……りっくん……ドラゴンってどういう事?」
今まで、俺がこの世界に来た経緯と姉さんの事を話してただけで、エルサの事を話して無かったな……。
「えぇと……この世界に来てから何だけどね、一人で行動してる時にエルサと会ったんだ」
姉さんに、エルサと会った時の状況、ユノが夢で教えてくれたという事から合わせて、契約者の説明まで色々話した。
ドラゴンの契約者になる事や、俺の魔力が異常な程多いという話あたりから、姉さんは終始驚いた表情をしていた。
まぁ、驚くよね……ドラゴンより魔力が多いって言うんだから。
「はぁ……私のりっくんが知らない間に、そんな事になってたなんて……これが男子三日会わざれば、なのね……」
「三日どころじゃないけどね。まぁそういう事があって、俺はエルサと一緒に冒険者をやってるんだよ」
「話は理解したわ。ヘルサルを救ったのも納得ね……でもやっぱりモフモフね」
「そう、モフモフなんだよ」
そこが重要とばかりに、エルサのモフモフを姉さんと一緒に撫でる。
エルサは、説明は俺と一緒に姉さんと説明してくれて、今はテーブルの上で丸くなっている。
「これは癖になるわね……こんなモフモフがあれば助けるわよね、普通なら」
「そうなんだ。後でドラゴンだって知った時は驚いたけどね」
二人でエルサを撫でながら、何となくぼんやりと話す。
こうやってると、昔を思い出して懐かしい。
「陛下、よろしいでしょうか?」
エルサを撫でてほのぼのしていると、扉の外から声が掛けられた。
この声はヒルダさんか。
「もう話す事は話したわよね……よし。……ヒルダ、入って良いわよ」
「失礼致します」
お互いの事情を話し合って、誰に何を伝えるかの打ち合わせもした。
もう大丈夫と姉さんに頷いて、ヒルダさんに入室許可を出した。
「陛下……参列者の皆様が、首を長くして待っておられます」
「そう……面倒だが仕方ないな。……りっくん、ちょっと行って来るわね」
「行ってらっしゃい」
「ヒルダ、りっくん……リクをよろしくね」
「畏まりました」
俺の事をヒルダさんに任せて、姉さんは部屋を出て行った。
女王様だし、色々とやる事はあるんだろう。
「ヒルダさん、モニカさん達はどうしました?」
「皆様、話が長くなるだろうからと、宿へと戻られました。ハーロルト様は別ですが」
ハーロルトさんは仕事があるんだろう。
他の皆は宿に戻ったようだね……説明は明日になりそうだ。
「リク様……」
「はい?」
お茶でもお代わりをして、のんびり過ごそうかと考えていると、ヒルダさんが何かを決意するような表情で、俺を呼んだ。
「陛下と随分と仲がよろしいご様子。詳しい話は皆様が揃った時にされる事と思いますが……そんなリク様を見込んで、お願いがございます」
「ええと……何でしょう?」
「陛下との関係を進展させて欲しいのです」
関係? 関係って言われても、俺と姉さんはただの姉弟ってだけなんだけど……元だけどね。
進展と言われても、何をどうするのかわからない。
「本来なら、私のような侍女が申すべき事では無いのはわかっております。ですが、陛下はあの年になるまで、浮いた話が一つも無いのです。お見合いの話は来ているのですが……陛下はどれも興味を示さず……男性に対して、親しげにされるのはリク様が初めての事なのです」
「そう、なんですか」
以前にクラウスさんが言ってたっけ。
女王陛下は絶世の美女で、色んな所から結婚の申し込み等々が舞い込んで来てるって。
その全てを断ってるみたいだけどね。
というか、ヒルダさんのこの言いよう……もしかして、俺と姉さんをくっつけようとしてるのか!?
「あの……ヒルダさん。俺と姉さん……女王様はそんな関係じゃなくてですね……」
「そうなのですか? あの陛下が男性と親しく接するなんて、他に見た事が無かったのですが……」
姉さんが、俺以外の男性と親しくなる事が無かったのかどうか知らないけど、俺と姉さんがそういう関係になる事は無いと思う。
あくまで姉弟だ……姉さんもそうだろう。
「まぁ、詳しくは皆が集まった時に説明する事になるでしょうけど、とにかくそういう事なんです」
「はぁ……」
とりあえず、そういう事で通しておいて、後は皆がいる時に説明しよう。
何度も説明する手間も省けるし、姉さんのいない時にヒルダさんに姉さんの事を話すのは、何か違う気がした。
その後、ヒルダさんにお茶のお代わりを貰いながら、のんびりと過ごす。
何もやる事が無いからね。
部外者の俺が、城内をウロウロするわけにもいかないし……王都の街を観光でもして来ようかな……。
そう考えていると、兵士の一人がヒルダさんを呼びに来て、ヒルダさんがモニカさん達を連れて来た。
皆、王都を軽く見て回ってから来たようだ。
「はい、リクさん。お土産よ」
「ありがとうモニカさん。これは串焼きかい?」
「ええ。珍しい味付けをしていたもんだから、つい買っちゃったわ」
「エルサにはこっちだな」
「キューなのだわ!」
「ユノちゃんにはこっちよー」
「お菓子なのー」
「ふぅ……」
モニカさん達から、それぞれ王都観光のお土産をもらう。
俺のは、牛肉っぽい物にタレの付いた串焼きだ。
ソフィーさんが渡したのはキュー1本が串に刺さって……これは冷やしキュウリか?
ユノにはフィリーナさんが、シフォンケーキのような物をあげてる……そんな物まで売ってるのか王都は。
しかし、アルネだけは疲れた溜め息を吐いてるけど……。
「疲れたな……女性のパワーとはすごいものだな……」
「ははは、連れ回されたみたいだね」
どうやらアルネは、女性陣に色々と連れ回されたから疲れてるみたいだ。
屋台とかあったから、それを見て回ったんだろうけど……そういう時の女性って、どこにそんな体力があるのか不思議だよね。
「それで、リクさん。女王様との話は終わったの?」
モニカさんが、姉さんが部屋にいない事を確認しながら聞いて来る。
「あぁ、終わったよ」
「さすがリクだな。陛下と対等に話す事が出来るとは……」
「親しそうだったわよね。普通はそんな事出来ないわよ」
俺はただの冒険者だからね、普通は国の女王様と親しそうに話さないよね。
「で、女王様とどういう関係なの?」
「説明してくれるんだろ?」
フィリーナとアルネも相当気になっているようで、俺に詰め寄るように問いただして来た。
「ちょっと待ってくれ、まだ全員集まってないだろ? せめてさっきここにいたメンバーが全員集まってから説明したいんだ」
「そうね。あとここにいないのは……ハーロルトさんと……女王様ね」
「陛下は来れるのか? さすがに私達への説明のためだけに、部屋に呼ぶなど出来ないだろう?」
「んー、忙しいかもね。ヒルダさん、どうかな?」
「……そうですね……聞いて参ります」
「お願いねー」
ソフィーさんの言う通り、何も関係のない冒険者が女王である姉さんを、部屋に呼びつけるなんて出来ないだろう。
だけど、姉さんなら俺が呼んだら来そうなんだよね。
そう思って、ヒルダさんに聞きに行ってもらう。
フィリーナが気楽に見送ってるのを見ながら、王都観光の土産話でも聞いてのんびりする事になった。
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