第93話 エルフ達へ治癒魔法実践
朝食後、昨夜の成果を発揮するため早速とばかりにフィリーナへ頼んだ。
「フィリーナ、怪我をしてるエルフ達を昨日の広場へ集められないか?」
「んー、リクからの頼みと言えば皆集まるだろうけど、怪我をしてるエルフよね? 一体何をするの?」
「酷い怪我をしてる人達も見かけたからね、治療してみようと思って」
「治療? 手当ならもうしてるわよ?」
「そっちじゃなくて、魔法で治そうと思うんだ」
「……魔法で? 初めて聞いたけど、そんな魔法があるの?」
「まぁ、ね」
「リクはエルサと契約してるから出来るの」
「そう……契約者だから……ね。わかったわ。皆に声を掛けて集めてみる。けど、動けないエルフまでは集められないわよ?」
「そこは、俺がそのエルフの所に行こうかと思ってる」
「そう……じゃあ、早速集めに言って来るわ」
「お願い」
「任せて」
フィリーナは俺の頼みを聞いて石の家を出て行った。
何か、外からフィリーナの皆に呼びかける声が聞こえるんだけど、そういう集め方なんだ……。
「……しかし契約者だから使える魔法……か……リクはとんでもないな」
「そうなの。本当にリクさんは規格外なの」
「人間の常識で考えたら駄目な人物なのは間違いないな。……もうリクがとんでもない事をしでかしてもあんまり驚かないくらいの耐性は付いたと思うぞ」
アルネさんは俺が言う怪我を治す魔法という物に驚いているようだけど、モニカさんとソフィーさんはあまり驚いていない。
それどころかソフィーさんは俺が常識外と言ってる。
……俺はれっきとした常識人だぞ! ……多分。
「リクさん、ユノちゃんとエルサちゃんに実験した魔法っていうのがその怪我を治す魔法なの?」
「そうだよ。ユノ達は怪我をしてなかったけど、体に害のある魔法じゃないからね。試させてもらったんだ」
「それで失敗して、ユノの髪が伸びた……という事か」
「……まぁ……その、はい」
失敗に関しては申し訳ないと思ってる。
ちゃんと元の長さと同じくらいに切って揃えたんだけどなぁ。
まぁ、次実験をする時は気を付けよう。
……次があるかわからないけど。
「リクが普通とは違うというのはなんとなくわかった」
「それはひどくないか、アルネ?」
「契約者というだけで既に普通じゃないんだがな。怪我を治す魔法なんて聞いた事も無い」
「それなんだけど……エルフも使えるみたいだよ?」
「何!? どういう事だ?」
「えっと、確か、俺が使おうとしてる魔法とは別の物なんだけど。治癒の魔法というのがあって、それを使うにはかなりの魔力が必要みたいで、人間にはとても使用できる魔力量じゃないらしいんだ。でも、魔力量の多いエルフなら使えるだろうって。ただ、呪文書も何も無くて研究もされてないから、実際に使えるかどうかはまた別みたいだ」
「……そんな事初めて聞いたぞ……確かに我々エルフは人間より魔力が高い種族ではあるが、治癒の魔法という存在すら聞いた事が無い。……研究してみる価値はあるかもしれないな……」
アルネは治癒の魔法を研究する事に興味があるみたいだ。
だけど……。
「治癒の魔法、失敗すると怪我がさらにひどくなる可能性もあるから危ないかもしれないぞ?」
「……それは……なんというか……うーむ……」
俺の言葉にアルネは考え込んでしまった。
まぁ、気軽に実験とか出来るものじゃないよな、そんな魔法。
下手したら怪我を治すつもりが怪我人を増やす結果になりそうだ。
エルフが研究すると言って実際に始めても、すぐに実現はしなさそうだねぇ。
そうこうしてるうちに、外にエルフ達を集めに行っていたフィリーナが帰って来た。
「リク、とりあえず怪我をしてるエルフを集められるだけ集めたわ」
「わかった。じゃあ広場へ行こう」
俺達は石の家を出て、昨日通った複雑な道を通り広場へと向かった。
本当は案内のフィリーナかアルネがいれば、俺一人でもいいんだけど、モニカさんとソフィーさんは興味があるからと付いて来る事にしたようだ。
エルサはいつも通り俺の頭。
ユノは散歩気分で一緒に来るようだ。
そして、広場に到着すると、そこには怪我をしたエルフ達がぞろぞろと広場に集まっているところだった。
「フィリーナ、何人くらいいるんだ?」
「正確にはわからないけど、ざっと200人はいるわね」
「……そんなに怪我人が出てたのか……」
「ここに来れないくらいの怪我人もいるわよ。合わせると多分300人近くになるんじゃないかしら」
「……」
俺は、フィリーナから告げられた数の多さに少しだけ後悔した。
でも、エルフ達は怪我をして困ってるんだ。
少しでも力に慣れたら嬉しい。
そう考え、まずは怪我の酷いエルフから1列で並ぶようにフィリーナとアルネに頼む。
最初のエルフは、右腕と左足が折れてる男性のエルフだった。
切り傷や打撲っぽいものもそこかしこに見られ、何とか他のエルフに肩を借りて歩いてる状態だった。
「……リク様……本当にこの怪我が治るんですか?」
「……リク様はやめて下さいね。リク、でいいですよ。怪我は治ります。だから安心して下さいね」
傷付いたエルフの男性に声を掛けながら、手をそのエルフにかざす。
……昨日試した時と同じように、体の治癒能力を活性化させるイメージ……体内の活動を早送りにする、そんなイメージ……魔力を変換して……。
「緑色の魔力……優しい光ね」
「そうね。リクさんの心のようにも見えるわ」
「リクの優しさ、だな」
「これが治癒……か……」
フィリーナさん達の声を聞きながら、魔力の変換を終えて魔法を発動させる。
「ヒーリング」
俺が魔法名を言った瞬間、緑色の光がかざした手から溢れ、その前にいるエルフの体を包み込む。
エルフは自分に起こってる事がわからない様子で、その緑色の光をただ見つめてるだけだったが、次第に驚きの表情に変わっていく。
数十秒後、緑色の光が収まった頃には、折れていたはずの右腕を振り回し、左足で力強く地面を蹴って飛び跳ねてるエルフの姿があった。
切り傷や打撲もその跡すら無く消えている。
「すごいわね! こんな一瞬であの酷い怪我を治すなんて……!」
「契約者の治癒……何をどうしたらあんな事が出来るのか理解が出来ん」
「やっぱリクさんの魔法はちょっとおかしいわ……」
「ちょっとどころの問題じゃないな」
フィリーナ、アルネ、モニカさん、ソフィーさんがそれぞれ何かを言っていたけど、俺はそれに構わず、次のエルフを呼んで再び魔法に取り掛かった。
……イメージしてたのより、早く治ったんだけど……まぁ、悪い事じゃないからいいか……。
日も高く昇り、そろそろお腹も空いて来た頃、広場に集まったエルフ達全員の治療を終えた。
途中から、イメージや魔法に変換する作業に慣れた俺は、エルフを数人横に並べて一度に治癒して時間短縮をした。
「リクの魔力がここまでなんて思わなかったのだわ。普通のエルフなら一度の治癒で魔力が空になりそうなくらい必要なのだわ。なのにリクは疲れた様子すら無いのだわ……」
頭の上でエルサが呆れたような口調で言っていたけど、それには構わずエルフ達を治療するのに集中した。
変に集中が途切れて、また髪が伸びたりしたらいけないからね。
広場での治療が終わり、その場で昼食。
治療した人達が泣きながら俺に感謝をして、昼食まで用意してくれた。
その為に治療したわけじゃないんだけど、まぁ厚意は受け取っておこうかな。
昼食は昨日の夕食と同じくらいの量が出て、当然ながら全部は食べ切れなかった。
エルフ達の感謝の気持ちなんだろうけど、さすがに量が多いよ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます