第49話 街の代官が獅子亭に訪問



 ヤンさん達冒険者ギルドの方や街の皆には今度改めてお礼を言っておかなきゃね。

 取り調べとか、国のお偉いさんに囲まれる図しか想像できない……。

 起き抜けにそんな状況になるのは御免だし、エルサの事やドラゴンの契約とかどう説明すれば信じてもらえるかわかんないからな。

 お偉いさんとかに良いイメージが無いせいか、捕まって利用されそうな未来しか想像出来ない。

 エルサを利用するなんてモフモフ愛が許せない。

 俺は幸せそうにキューを齧ってるエルサを見ながら、心の中でヤンさんを含め俺を国に引き渡さなかった皆に感謝をした。


「さて、料理が出揃ったな。さあリク、遠慮せずにどんどん食え!」

「ありがとうございます。いただきます」


 俺があれこれ考えてるうちに配膳が終了したようだ。

 マックスさん達にお礼を言って、さっそくとばかりに料理を食べ始める。

 やっぱり獅子亭と言ったらこの煮込んだ特製肉! うま味がしっかりしみ込んでて噛めば噛む程味が出る。

 スープの方も肉の出汁が良い味をだしてるし、野菜たっぷりで起きたばかりの体に優しくて食べやすい

 モフモフを撫でてる時に近いくらい、今生きてるって実感が湧いて来るなぁ。

 俺が勢い込んで食べていると、ルディさんがマックスさんに声を掛けて店の外へ出て行った。


「ルディさん、どうしたんですか?」

「ん、ああ。リクが起きた事を街の皆に知らせに行ったんだ。あいつら、毎日のようにリクにお礼が言いたいとここに来るんだが、リクが起きなかったからな」

「起きたら知らせてくれと言われてたんだよ」


 別に俺はこの街が守りたかっただけで、お礼を言われたいわけじゃないんだけどなぁ。

 まあ、街を救った英雄って事になってるみたいだし、これくらいは仕方ないのかな。



 おいしい獅子亭の料理に舌鼓を打っているうちに満腹になり、食事は終わった。

 なんとか残さずに完食は出来たけど、ちょっとお腹が重い……。


「リク、起きて早々すまないが、お茶を淹れてくれるか?」

「英雄と言われてる人にこんな事をさせるのは、と思うんだけどねえ。やっぱりリクのお茶が一番おいしいんだよ」

「いえ、大丈夫ですよ。すぐに淹れてきますね」

「リクさんのお茶、久しぶりね」

「リクのお茶か、ここに来て初めてお茶を楽しむという事を覚えたぞ」


 皆期待してくれてるようで、俺も嬉しい。

 たいして凝った淹れ方をしてるわけじゃないと思うんだけど、皆がおいしいと言ってくれるんだ、気合を入れてお茶を淹れよう。

 エルサだけはまだキューを食べていたけど……ちょっと食べすぎじゃない?


「はい、お茶が入りましたよ」


 俺が皆にお茶を淹れて戻ると、皆笑顔で待ち構えてくれていた。


「……やっぱリクのお茶は美味いな……何が違うんだ」

「これがないと落ち着かなくなってしまったねえ」

「あぁ、久しぶりのリクさんのお茶、おいしいわ」

「リクのお茶を初めて飲んだ時は驚いたが、やはり美味いな」

「皆が喜んでくれるなら俺も、淹れ甲斐がありますよ」

「おいしいわー」


 皆笑顔でお茶を飲んでるね。

 カテリーネさんはルディさんがいない事を気にもせずお茶を堪能していた。

 ルディさん、一人で街を回ってるのかな? ちょっとかわいそうかも……。


「帰りました。皆さんを連れて来ましたよ」


 ちょうどルディさんの事を考えてたら、本人が帰って来た。

 連れて来たんだ。

 まあそんなに集まる事じゃないと思うんだけど……。


「リク、皆に顔を出してお礼を言われて来い」

「私達はここでお茶を飲んでゆっくりしてるわ」

「私は付いて行くのだわ」


 エルサがキューを食べ終わったので、頭にドッキング。

 マックスさん達に見送られて俺は獅子亭の外へ出た。

 入口から出た途端、ワッと歓声が上がって少したじろいだ。

 外に出て見たのは、集まって来た人たち。

 ……集まり過ぎじゃない? えっと……向こうの大通りくらいまで人で埋まってるように見えるんだけど……。


「英雄リク様だー!」

「リク様ーありがとー!」

「街を救った英雄だー!」

「キャーリク様ー!」

「リクさんのおかげで助かったぜ、ありがとよー!」

「リクー今度うちの店に来てくれー安くしとくぞー!」

「リクさーん、結婚してー!」

「リク様ー好きにしてー!」

「あの頭の犬かわいいな」

「マ・チ・ノ・エ・イ・ユ・ウ・リ・ク!」


 etc、皆口々に色んな事を叫んでる。

 少し変な事を言ってる人もいる気がするけど……というか一人応援団風に叫んでる人がいなかった!?

 えーっと、これはどうすればいいんだろう……?


「あー、皆さんようやく起きました、リクです。街を救ったのは俺だけじゃなく、皆さんが精一杯頑張ったからだと思ってます。英雄と呼ばれるのは少し恥ずかしいですね。街の皆さんが頑張った成果として、これからもこのヘルサルの街を守っていきましょう!」


 何か演説っぽくなってしまったけど、これで良かったのかな?

 集まった人達はすごい盛り上がりだ。

 俺が出て来た時以上の歓声が上がっててちょっと耳が痛いくらい。

 それだけこの街が守れた事が嬉しいんだろうね、きっと。

 というかいつまでこの集まりは続くんだろう……。

 さすがにそろそろ近所に迷惑が……あ、隣の家の人、あれ、あの人も、この近くに住んでいる人達も混ざってた……。

 どうしたものかと考えていると、大通りの方から、人をかき分けて来る人が数人いた。

 そのうちの一人は俺の見知った相手、ヤンさんだ。

 ヤンさんと数人でかき分けて俺の前まで来る。

 さすがにこの人波をかき分けるのは苦労したらしく、その数人は息が荒い。


「……ふぅ。リクさん無事起きられたようでなによりです」

「ヤンさん、ありがとうございます。あと、冒険者ギルドで俺を保護してくれたとの事、その事もありがとうございました」

「いえいえ、冒険者ギルドにとってリクさんを国に引き渡すのは損失でしかありませんからね。それに本来ギルドは所属している冒険者を守るために存在しているのです。当然の事をしたまでですよ」


 ヤンさんとの挨拶をしているうちに、一緒に来ていた2人が息を整えられたようだ。

 俺に向き直り、姿勢を正して深々と腰を折った。


「リク様、この度はヘルサルの街を救っていただき、ありがとうございます」

「いえ、俺はこの街のために出来る事をしただけですから。そんなに感謝される程の事ではありませんよ。……ヤンさん、こちらの人達は?」

「リクさんは初めて会うか。こちらはヘルサルの街の代官様と、その秘書の方です」

「ヘルサルで代官を務めさせて頂いております、クラウスと申します」

「秘書のトニで御座います」


 クラウスさんはちゃんと食べてるのかと疑問に思う程細い体で、真面目な顔をして自己紹介をした。

 秘書のトニさんの方は、釣り目で厳しそうな見た目をしていて、眼鏡を掛ければ敏腕執事と言った風貌だ、眼鏡がこの世界にあるかどうか知らないけど。


「どうも、リクと申します。それで今日はどうしてこちらに?」

「英雄リク様が起きられたとの事で、代官の仕事を投げ打ってでも駆けつけねばと思い、馳せ参じた次第でございます。あと、防衛への協力、ゴブリンの殲滅等の褒賞の話をせねばと思いましてな」

「クラウス様は本当に仕事を投げ打って駆けつけようとするので困りました。リク様の褒賞の件が無ければ執務室に縛ってでも仕事をしてもらわないといけないところでしたが……」

「そ、そうなんですか。ははは」


 仕事を投げ打ってでもって、代官がそれでいいんだろうか……?

 トニさんの方は見た目に違わず厳しい人のようだ、縛ってでも仕事をさせるのは秘書としてどうなんだろうとは思うけど。

 苦笑を返しながらヤンさんを見ると、ヤンさんも苦笑していた。


「この二人のやり取りはいつもこんな感じですよ。それでリクさん、冒険者ギルドからも指名依頼の報酬や討伐報酬等の話をしないといけないのですが」

「そうですね、そういえば冒険者の報酬がありましたね。……んーここで話すのは人が多すぎますから、獅子亭の中で話しますか」

「はい、お願いします」

「こちらもそれで大丈夫ですよ、リク様」

「クラウス様、話しが終わったらすぐに執務室に戻ってもらいますからね」


 とりあえず俺は、集まってくれた人達にお礼と解散するように言った。

 集まった人達に解散する気配は無かった……。

 静かだと思ったら、エルサが俺の頭にくっ付いて寝てるし……器用な……お腹いっぱいになって眠くなったのか。

 この騒ぎで色んな叫びが聞こえて来る中よく眠れるな……とか考えながら三人を獅子亭の中へと案内した。



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