第47話 それぞれの想い~エルサなのだわ~



 私は歓喜していたのだわ。

 生まれて何年……かは千を越えたあたりから数えてないからわからないけどだわ。

 ようやく私の契約者となる人間が現れたのだわ!

 本来ドラゴンは生まれながら契約者となる者が分かるはずなのだわ。

 契約者がどこでいつ産まれるのか、本能で知るのだわ。

 けど私にはわからなかったのだわ。

 相手は人間、わかったのはそれだけ。

 私は落ちこぼれドラゴンなのかもしれないのだわ……。

 けど、それも今日までなのだわ!

 ずっといないと思っていた契約者の存在が今ならはっきりとわかるのだわ!

 そういえば昨日寝ていた時に夢? で誰かが『リ』なんとかって言ってた気がするけど、そんな事は些細な事なのだわ。

 私はいてもたっても居られずに、全力で飛んだのだわ。

 もちろん契約者を探すためなのだわ。

 ドラゴンが全力で飛べば世界中を探すなんて造作もない事なのだわ。

 もう私は落ちこぼれドラゴンじゃないのだわ! 



 1カ月が経ったのだわ。

 契約者が何処にいるかわからないのだわ……。

 そもそも何故急に契約者がいるってわかったのかしらだわ?

 今までずっとわからなかったのに……だわ。

 ドラゴンの本能なら居場所もわかるはずなのに、私にわからないのは何故なのだわ?

 喜びすぎて考えるのを忘れてたのだわ。

 落ち着いて考えた時にはもう遅かったのだわ。

 いくら魔力で生きてるドラゴンとは言え、1か月も飛び続けてたら魔力が無くなるのだわ。

 飛ぶのに魔力が必要なのだからだわ。

 後悔してももう遅いのだわ。

 魔力が尽きた私はそのまま勢いよく森に墜落したのだわ。

 やっぱり私は落ちこぼれドラゴンなのだわ……。



 息をするのも苦しいくらい魔力が少ないのだわ。

 誰かに襲われるとひとたまりも無いから何とか誰も近づけないように、ギリギリの魔力で結界を張ったのだわ。

 けどこのままだと魔力が回復する見込みもないのだわ。

 魔力を無駄にしない為にも小さくなってるしかないのだわ。

 でもこのままじゃ何もしなくてもいつかは……だわ。

 もう私はこれでお終いなのだわ?

 せめて契約者と会って見たかったのだわ。



 私の結界に入り込んだのだわ!?

 人間なのだわ……私の結界に入れるなんて人間じゃあり得ないのだわ。

 何なのだわ……。

 人間は私を襲う事は無かったのだわ。

 優しく撫でてくれるのが心地良いのだわー。

 ん? この匂いは……おいしそうな物の匂いなのだわ!

 おいしいのだわーキューって言うのだわ?

 おかげで少しだけ魔力が回復したのだわー。

 人間の街に行ったらキューが沢山食べられるのだわ?

 ……だわ。

 決めたのだわ!

 本来決められた契約者以外と契約する事はいけないのだけどだわ。

 この際命には代えられないのだわ!

 この人間と契約するのだわ!

 決してキューが食べたいから契約するんじゃないのだわ。



 驚いた顔の人間と契約したのだわ。

 ……この感覚は……人間が驚いた顔をしてるけど私も驚いたのだわ。

 この人間が私の契約相手だったのだわ。

 だから結界に入って来れたのだわ、それにしてもこの魔力量はなんなのだわ……。

 ドラゴンである私がちっぽけに見えるくらいの魔力があるのだわ、人間なのに信じられないのだわ。

 尽きかけてた魔力が一瞬で回復したのだわ。

 ドラゴンである私が恐くなるほどの魔力ってなんなのだわ。

 人間の記憶が流れ込んでくるのだわ。

 契約者との記憶の共有なのだわ。

 この記憶はこの世界の物じゃないのだわ。

 転移者……初めて見たのだわ。

 神様……私ことドラゴンとこの世界を創った神様……確か名前は……忘れたのだわ!

 とにかく、神様が干渉してるならこの魔力量は納得なのだわ、というか納得するしかないのだわ。

 ついでに主の記憶で言葉を理解したのだわ。



 契約者には従うのがドラゴンの定めなのだわ。

 ドラゴンは契約者に従うためだけに生まれて来た存在らしいのだわ。

 けど、その主がすごく興奮してるのだわ。

 何故なのだわ?

 え、ちょっとそんなに触られたら……私……だわ……。

 変なとこを触らないでなのだわ!

 主はリクと名乗ったのだわ。

 今度からそう呼んで欲しいとの事だからそう呼ぶのだわ。

 リクに名前を付けてもらったのだわー。

 嬉しいのだわー。

 最初はモフモフとか付けようとしてたのはさすがにどうかと思ったのだわ。



 リクが人を殺したことに動揺してるのだわ。

 私からすれば襲って来た相手を殺そうと何も思う事はないけど、リクは優しいのだわ。

 仕方ないのだわ、リクの好きな私のモフモフで包んで落ち着かせるのだわ。

 あ、変なとこは触っちゃ駄目なのだわ。



 リクと人間の街に行ったのだわ。

 何か私がドラゴンって事に驚いてるのだわ。

 まあ仕方ないのだわ、ここ最近姿を人間に見せるなんて無かったのだわ。

 前に姿を見せたら色々面倒ばかり起こったのだわ。

 何故か人間の雌が私を撫でてるのだわ。

 リク以外の人間に撫でられるのは少し抵抗があったけど、心地良いから許すのだわー。



 リクの魔法練習なのだわ。

 ちょっと魔力を使い過ぎなのだわ。

 魔法を使うと私にも魔力が流れて来るのだわ。

 リクの魔力は優しいから好きなのだわ。

 けど、これはさすがにやり過ぎなのだわ。

 私が結界を使わなかったら他の人間が危なかったのだわ。

 私は人間がどうなろうとどうでもいいのだわ、けどリクに関係する人間だから仕方なく守ったのだわ。

 危ないからリクの頭にくっついて私が監視するのだわ。

 はー、やっぱりリクの頭にくっつくのは癒されるのだわー。

 リクの魔力に包まれてるのだわー。



 ゴブリンとかいう小さい者が攻めて来るらしいのだわ。

 何で皆そんなに深刻なのだろうだわ?

 ゴブリンなんて、何十万、何百万といてもリクがいれば物の数ではないのだわ。

 ドラゴンである私でも楽な相手なのだわ。

 まあ、リクの命令が無いから私は見てるだけなのだわー。



 ソフィーとかいう、私を撫で回す人間が増えたのだわ。

 ちょ、撫でるだけならまだしも頬ずりは許してないのだわ、辞めるのだわ!

 リクも何で私をそうやすやすと差し出すのだわ!

 犬のフリをするのにも限界があるのだわ、離すのだわ!



 小さい者が群れで襲ってきたのだわ。

 人間達はこの程度の者達に必死になるのだわ?

 私は見てるだけなのだわー、リクの頭にくっついてるのだわー。



 リクを庇って人間(マックスとかいう名前だったのだわ?)が怪我をしたのだわ。

 リクならたとえ油断してても、それどころか寝ててもこんな粗末な矢が当たったってかすり傷一つ負わせられないのだわ。

 怪我をしたのはキューをよくくれた人間なのだわ。

 ちょっと! この人間が死んだら私のキューはどうするのだわ!

 怒ってゴブリンを滅ぼそうかと思ったけど、それどころじゃなくなったのだわ。

 リクの方が怒ってるのだわ。

 周囲に魔力が吹き荒れてるけど、私には契約を通して魔力と感情が流れ込んで来るのだわ。

 いつもの優しいリクの魔力が好きなのに、この荒々しい魔力はあまり好きじゃないのだわ。



 リクの命令が来たのだわ。

 人間達をここから離れさせろとの事なのだわ。

 リクの魔法が使われたらこの近くにいる人間が危ないのはわかるのだわ。

 私もリクの溢れるあの魔力は怖いのだわ。

 ……ドラゴンを怖がらせる魔力っていったい何なのだわ?

 とにかく、人間達がどうなっても知らないけど、リクの命令には従うのだわ。

 命の恩人で契約者、私を恐怖させる魔力の持ち主……リクには絶対逆らえないのだわ。



 んー、中々人間達の避難が終わらないのだわ。

 リクからどんどん魔力が溢れるのだわ、私も危ないかもしれないのだわ。

 ちょっとだけ人間達にイライラした私は、リクから流れてくる魔力を使って大きくなったのだわ。

 さすがにこんなに大きくなるのは初めてなのだわ。

 リクの魔力って凄いのだわー。

 私を見てもまだ逃げ始めない人間達を見て、思いっきり吠えてやったのだわ。

 すぐに人間が近くにいなくなったのだわ。

 人間は逃げ足が速いのだわ。



 リクと親しい人間達は獅子亭とかいうリクの住んでる場所に逃げたのだわ。

 体を小さくして、門の外側でリクを待つのだわ。

 リクが気を使ってこちらにあまり魔力をこぼさないようにしてるのがわかるのだわ。

 ならここは安全なのだわ。

 リクを待つのも私の役目なのだわ。



 リクが魔法を使ったのだわ。

 見なくてもわかる程凄まじい量の魔力なのだわ。

 白い火柱が立ってるのだわ。

 それを見ながら体が震えるのだわ。

 あんなの、ドラゴンでも受けたらどうしようもないのだわ。

 ん? ちょっと待つのだわ、熱気がこっちに来るのだわ。

 結界を張って熱気を遮断しないと私も蒸発しそうなのだわ。

 リクはもうちょっと手加減を覚えた方が良いのだわ。

 全然安全じゃなかったのだわ……すんごい怖かったのだわ……。

 あ、壁が溶けてる……結界の端の薄い場所とは言えそれでも溶かすなんて震えが止まらないのだわ……。



 魔法が収まった後、倒れてるリクを見つけたのだわ。

 倒れる前まで何か地面に向かって魔法を使ってたけど何してたのだわ?

 リクが倒れてるので聞けないのだわ。



 倒れてたリクを見守ってると、様子を見に来た人間達に獅子亭とかいうとこに運び込まれたのだわ。

 リクはその間もずっと寝ているのだわ。

 私はリクから流れる魔力が途切れてないから死んでないとわかるのだわ。

 けど、人間達は最初リクが死んだかと思って騒いでいたのだわ。

 うるさいのだわ。

 リクを静かに寝かせてやれなのだわ。



 それからしばらくリクは寝続けたのだわ。

 まあ、あれだけの魔法を初めて使ったのだわ。

 魔力とかに問題は無いけど、精神(?)とやらが疲れただけだと思うのだわ。

 あの怒りの感情と魔力は今思い出しても震えて来るのだわ。

 リクが寝てるとこには代わる代わる人間が来ていたのだわ。

 それぞれリクを見るなり話しかけるなりしてたのだわ。

 私はリクの状況がわかるから心配はしてないのだわ。



 あ、この魔力の流れ方は……だわ。

 リクの優しい魔力と感情が寝てる間よりも多く流れて来るのだわ。

 目を覚ましたのだわ。

 私は翼をはためかせてリクの部屋に飛んで行ったのだわ。

 部屋には他の人間達も駆け込もうとしてたけど、一番は私なのだわー。

 ……もう先にモニカとかいう人間がいたのだわ……。

 ともかく私はリクを見て頭に飛びついたのだわ。


「ようやく目が覚めたのだわ。これでまた頭にくっつけるのだわー。はー」


 たまに怖くなるくらいの魔力だけど、やっぱりリクの魔力は好きなのだわ。



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