第36話:スピーキングキャット

「はい、おしまい。これで魔法が使えるようになってるはずだよ」


「え?これだけですか?」


「ああ、これだけだ。試しにそこにあるテレビのリモコンにむかって浮かべと念じてみるといい」


「わ、わかりました。ぬ~~~」


そういって杏莉さんは両手をかざし念じ始めた。別に唸る必要はないと思うんだが。


「わっ!う、浮かびましたよ、す、すごい!」


リモコンは宙に浮き、杏莉さんの元へ飛んでいく。


それを手に取り子供のようにはしゃいでいる。


「詳しい事はあとで話すけど練習すれば色々できることが増えるよ。ただ他人にバレないようにやってくれ」


「はいっ、わかりました!ところでやってみたいことが二つあるんですけど。一つは料理です。魔法で料理をしたらどうなるのかな~って。さっき慧さんは自分じゃできなかったって言ってましたけどどうしてですか?」


「あー、例えばなんもないところで『なにか出てこい!』と念じてもなにも起きない。これは魔法でできないことの一つだな。そして材料があったとしても作り方が分からないと念じてもうまくいかないらしい。イメージがちゃんとできないと魔法が使えないって事だな」


「なるほど~だから私ならできるかもって事なんですね。二つ目は陸ちゃんと話をしてみたいんですけど、これはできそうですか?」


俺は少し考えてみる。確かに不可能ではないと思うのだが。


「んー、たぶんできるんじゃね?というかいっそ陸を魔法使いにしちゃえばいいんじゃねぇかと思うんだが」


「えっ、人以外も魔法使いにできるんですか?」


「やったことないからわからん。でも魔力を持ってる生物なら可能だとは思う。実は陸はかなり強い魔力を持ってるんだ。透明化してる俺に気が付くぐらいだからな。試してみる価値はあるな」


そういって足元で転がっていた陸に手をかざして念じ始める。


それが終わるとなにかを感じ取ったのか陸がソファの上に移動して背筋を伸ばして口を開いた。


「・・・これでやっとぬし殿、そして杏莉殿と御話が出来るようになりましたね。なにからなにまで有難う御座います」


想像していたのとはだいぶ違う。知的でクールなしゃべり方に驚いた。


「り、陸?お前そんな感じに喋るのか・・・たまげたなぁ」


「わぁ!陸ちゃんがしゃべってる♪」


杏莉さんは陸の元へ駆け寄って抱き上げた。


「杏莉殿、お、落ち着いてください。私は御二人に御礼を言いたかったのです。この家に招き入れてくれた事、深く感謝致します」


「いいのいいの~♪それより私、ねこちゃんと話をするのが夢だったの!陸ちゃんかわいい~♪」 


杏莉さんは奇跡を目の当たりにして思い切りはしゃいでいる。  


「ぬ、主殿、杏莉殿に喜んで頂けたのであれば幸いですが、少し・・・く、苦しいです」


「お前からすると俺が主殿なのか・・・。と、とりあえず杏莉さん落ち着くんだ。陸がつぶれてしまう」


「あっ!ご、ごめんなさいっ、ついはしゃいでしまって。陸ちゃんゴメンね」


そういって杏莉さんは陸をソファの上に戻した。


「いえ、私も御二人と御話をする事が出来て嬉しく思っていますので」


「なんつーか、そこいらの人間よりしっかりした猫だよ、お前は」


「そうでしょうか?私には解りかねますが主殿がそう仰るのであればきっとそうなのでしょう」


「まぁでも、お前ぐらい知力と魔力があれば人間じゃなくても魔法使いにできるらしいな」


「そのようですね。これで私の悲願が叶います。これからは私も御二人の力になれると思います」


猫と話すというのは不思議な気分だったが、意外と面白いかもしれない。


「よ~し!さっそく魔法を使って料理をしてみます!二人ともまっててね!」


杏莉さんが張り切りながらキッチンへ向かっていく。


「陸、今日はご馳走らしいぞ」


「そうですね。杏莉殿の料理は格別ですからとても楽しみですね」


陸と目を合わせてニヤニヤと話をしているとキッチンから叫び声が聞こえる。


「け、慧さん!あの、ちょっと!!」


魔法がうまく使えなかったのだろうか?陸と一緒に慌てて近寄っていく。


「どうかしたのか・・・って」


そこには包丁や調理器具を複数宙に浮かべて料理をしている杏莉さんの姿があった。


お玉が火にかけた鍋の中身をかき混ぜ、ボウルの中を泡だて器が高速回転し、複数の包丁が野菜、肉、魚それぞれを切り分けていく。


あまりの光景に面を食らっていると、杏莉さんが嬉々として話しかけてきた。


「ま、魔法ってすごいんですね!なんでも作れる気がします!」


「お、おう・・・そうか、よ、よかったな」


杏莉さんは既に魔法を使いこなしているようだった。


俺はもしかすると、とんでもないモノを作り上げてしまったのかもしれない。


「・・・流石は杏莉殿ですね。元々力が強かったとは言え、ここまでとは」


「・・・そうだな、もはやなにもいうことはぁねぇや・・・」


そういって俺たちはソファに戻り、大人しくしていることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る