第28話

コウル達とカーズの間に、エルドリーンが立つ。


「エルドリーンさん!?」


「貴様……」


コウル達は驚きを、カーズは不機嫌な表情を見せる。


「それっ」


エルドリーンが剣を向けると、コウル達を縛っていた鎖が消える。


「あ、ありがとう」


「助かりました。エルドリーン」


二人は立ち上がるとエルドリーンに礼を言い、三人はカーズに向き直る。


「貴様、いつかは世話になったな」


「ああ、そうね。互いにね」


エルドリーンとカーズが互いに見合う。


「女……。あの時はそっちの女を消そうとしてたんじゃないのか?」


「消そうとしてた、とは物騒ね。倒してくれればそれでよかったのよ」


「「……?」」


エルドリーンとカーズの会話は、コウル達にはわからない。


「まあいい。貴様もそちらに付くなら、一緒に消えてもらうだけだ!」


カーズが改めて剣を構えた。ジンも同じように剣を構える。


「エイリーンお姉さま? そろそろ昔に戻ってもいいんじゃないかしら?」


「え、ですが……」


エルドリーンが苦笑しながらコウルを指す。


「そんなに愛しの人の前で素を出したくないの?」


「……いえ。こんな状況です。わかりました」


エイリーンはコウルの方を向くと。真剣な表情になった。


「コウル、いつもの剣を貸してください」


「え……。いや、わかったよ」


エイリーンの表情に、コウルは素直に剣を渡す。


「いきますよ、エルドリーン。そして……ジン様を頼みます、コウル」


エイリーンとエルドリーン。姉妹が飛翔する。コウルもそれに合わせ剣を構えなおした。。


「む――!」


姉妹の剣による攻撃がカーズを怯ませる。


「コンビネーションで俺たちに挑む気か――!」


ならばとカーズはジンと並ぼうとする。だがそこをコウルが割って入りジンを押さえる。


「……!」


ジンは人形ながら驚いたような動きを見せる。


「っ! 貴様っ!」


カーズがコウルを攻撃しようとするが、そこに姉妹の鋭い一撃が飛んでくる。


「ちいっ!」


「お兄様!」


シズクが兄を救おうと、エイリーン達に魔力弾を放つ。


だがその魔力弾は、高速で飛び回る姉妹を捉えることはできない。


ただ速いだけでなく、エイリーンとエルドリーンの動きは、予測のしにくい息と軌道をしていた。


「こんな…ことが……!」


カーズの体勢が徐々に崩れだす。


コウルはジンと対峙しつつも姉妹の圧倒に驚いていた。


そしてついに――。


「これで」


「終わりよ!」


勢いを増した姉妹の剣。それがカーズに突き刺さった――。


「かはっ……」


カーズは咳き込み、魔力を吐き出す。これで勝負は完全に決まっていた。


「あ……あ……」


シズクはその兄の様子を見ていることしかできない。


コウルはジンの動きも止まっていることを見ると、シズクの方へ向き直った。


「シズクさん、僕たちはあなたに恨みはありません。ここでやめてくれませんか」


だがそう言った瞬間、コウルに悪寒が走った。


「まるでもうわたくしに手がないような言い草ですわね……?」


シズクがそう言うとともに膨大な魔力が放たれる。


「……っ!?」


「これは!?」


コウル、エイリーン、エルドリーン。三人とも考えは違うがシズクから感じるのは闇の魔力だと感じ取った。


「あの闇の魔力……。エルドリーン、これは――」


「そうね。私のとは魔力が違う。でもこれは――」


話をする二人を妨害するかのように、シズクから三人に闇の魔力弾が発射された。


三人はそれぞれ回避しようとするが――。


「くっ……――!?」


コウルが飛びよけようとするのを、ジンが掴む。


「なっ、ジンさん!?」


ジンの動きが完全に止まっていたからこそ、コウルはシズクの方を向いていた。


だがジンの目は闇に染まりコウルを押さえ離さない。


「わたくしがジンの制御を手放すとお思いでしたか? あれは貴方をこちらへ向かせる芝居」


「ぐっ……」


シズクの闇の魔力に比例するように、ジンの力は強くコウルを離さない。


「お兄様の策でした。もし自分がやられるようなことがあればと。本当に使うことになるとは思いませんでしたが。


そして……貴方は道連れです。この魔力を使った以上、わたくしも無事ではすみませんので――」


言う通り。シズクは闇の魔力弾を飛ばし会話を終えると崩れ落ちた。


だがコウルは魔力弾を回避する手段がない。その時だった――。


「コウルー!!」


エイリーンがコウルの前に立ち魔力の壁を広げる。


「エイリーン!?」


「コウルは……私が……守ります!」


必死の様子でエイリーンは闇の魔力弾を防いでいる。


コウルは驚いていた。エイリーンの女神見習いとしての魔力でも抑えるのに苦労していることに。


「無茶を――しない!」


エルドリーンも割って入り魔力の壁を展開する。それでようやく数秒後、闇の魔力弾は消え去った。


「はあ……はあ……」


「お姉さま……無茶しすぎ……」


姉妹が息を切らしているのに、コウルは本当に止まったジンをどかしながら近づいた。


「ごめん二人とも」


「いえ。コウルを守れて……よかったです……」


エイリーンは汗をかきながらも笑顔で返す。


「それよりエルドリーン」


エイリーンはエルドリーンの方を向く。エルドリーンは分かったように頷くと。


「あの闇の魔力については、私が調べておくわ」


そう言って一人、先に飛び帰った。


それを見るとエイリーンは倒れそうになる。それをコウルが受け止めた。


「エイリーン!? ……って熱がある!?」


「はあ……はあ……」


コウルはエイリーンを壁に寄りかからせる。


「く、薬……。熱さましとか持ってないし――」


「コ、コウル、大丈夫です。少し寝たら回復しますから……」


そう言ってすぐエイリーンは眠りに落ちる。


コウルはそれをただ見ることしかできなかった。

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