第3話

「ジン……」


「やっと見つけたぞ……カズ!」


「ジン、今の俺はカズではない。『カーズ』だ。それを忘れるな」


親友同士の視線がぶつかる中、コウルとエイリーンはようやく追いつく。


「あれが……カーズ?」


問いかけるコウルに、ジンが頷く。

カーズはコウルの方を見ると。


「ほう……元の世界の奴をつれているのか。ジン。そして……うん?」


カーズとエイリーンの目が合う。


するとエイリーンは突然恐怖の表情を浮かべ後ずさる。


「あ、ああ……」


「貴様……生きていたのか」


エイリーンは頭を抱え、うずくまる。


「だ、大丈夫。エイリーンさん!?」


コウルがエイリーンを支える。


ジンはそれを見るとカーズの方を向き直る。


「エイリーンちゃんと何があった?」


「お前が知る必要はない」


カーズは一瞥する。


「本気で元の世界を滅ぼす気なのか」


「今更それを聞くのか?」


「考え直す気は」


「ない」


短い問いかけと回答。


それが終わると、ジンはそっと腰の剣を抜いた。


「仕方がない。カズ……いや、カーズ! お前をここで止める!」


カーズはそれを見ると、自分も禍々しい剣を構えた。


「コウルくん。エイリーンちゃんは任せた」


「は、はい!」


確認すると、ジンは飛び上がった。


「はあっ!」


「ふん!」


ジンとカーズの剣がぶつかり合う。


その衝撃を合図にしたかのように、町の人たちは一斉にその場を離れだす。


コウルはエイリーンを連れ、人の波に混ざり距離を取る。


だが――。


「元の世界の男は死んでもらう。そして女! 生きていたのなら再び我が計画の糧となれ!」


カーズが指を鳴らすと、どこからともなく骨のモンスターが出現する。


「モンスターを操るだと!? カーズ、お前は一体……?」


骨のモンスター『アンデッド』たちはコウルとエイリーンの方へゆっくり動き出す。


それを見ると、ジンも二人の方へ向かおうとするが――。


「俺を止めるのではなかったのか?」


カーズの剣の一閃がそれを邪魔する。


「くっ!」


「お前はおとなしく俺の相手をしていればいいのだ!」


カーズの連続攻撃を防ぐジン。とても助けに行きつつ戦える状況ではない。




「モ、モンスター……」


コウルはアンデッドの大群にたじろぐ。


だが、横で震えているエイリーンを見て、守らないといけないと勇気を振り絞る。


「エイリーンさんは、ここに」


エイリーンを建物に寄りかからせ、コウルは剣を抜くと。


「あいつらは僕が……止めてみせる!」


アンデッドたちの群れに突撃する。


(ジンさんから習ったとおりにやれば!)


魔力を集中し、全身に巡らす。コウルの力が解放される。


「やあっ!」


コウルの剣は綺麗な振り方とは言えないが力強い一撃を放ち、アンデッド一体を粉砕した。




「コウルくん、あれなら大丈夫だな」


斬りあいながらも、コウルの様子を確認しながらジンは呟く。


「余裕だな!」


カーズの強い一撃。ジンはそれを防いで間合いを開け話し出す。


「なあ、『カズ』。命がけじゃないとはいえ、昔もよくこうやって勝負したよな」


「なにを言い出す……」


「あの頃には戻れない。だが、元の世界を滅ぼしてどうなる。それでお前は満足なのか!」


「……」


カーズが剣を降ろす。


それをジンは諦めてくれたと感じ、近寄って……とっさに後ろに飛んだ。


あと少し遅ければ、剣がその身に直撃するところであった。


「ジン、俺は満足だよ! あいつがいない世界など! くだらん連中がいる世界など! 滅んでしまえばいい!!」


「カズ……」


ジンは悲しみの表情を浮かべる。


親友の変貌、ここまで病んでいた親友を助けれなかった自分。その両方が悲しかった。


「哀れみか? 悲しみか? だがお前にそんな暇があるのかな」


カーズが指した方をジンは向く。


コウルがアンデッドの大群に押されていた。




「くっ……」


幸先よくアンデッドを撃破していたコウルだったが、数の暴力に押され少しずつ消耗していた。


「この――!」


剣がまた一匹、アンデッドに直撃し破壊する。しかし数は一向に減らない。そして――。


「きゃあ!」


アンデッド数体がコウルを抜き、エイリーンの方へと向かっていた。


「エイリーンさん!」


コウルはエイリーンの元へ向かいたいが、アンデッドの群れに遮られる。


さらにその隙を付かれ、アンデッドの一撃がコウルの顔面を掠め、眼鏡が落ちる。


「!」


眼鏡が落ち、ふらついたコウルにアンデッドの一斉攻撃が続く。


「終わったな」


「コウルくん!」


ジンが駆けつけるには距離がある。


カーズの言う通り、アンデッドの攻撃で終わりかと思われた。


だが――。


「ど……け」


コウルに覆いかぶさっていたアンデッドが揺れる。


「どけーーっ!!」


アンデッドがはじけ飛ぶ。


そこから現れたのは、いつもの優しい目から一転、獣のような目をしたコウルだった。


アンデッドを蹴散らし、エイリーンの前に立つ。


「エイリーンさんは『俺』が守る!」




「なんだと……」


「……」


変貌しアンデッドを葬るコウルに、ジンとカーズは久しぶりに息があった。驚きでだが。


「コウルくんの魔力は私以上だったが、ここまで力を出せるとは……」


その呟き。その一瞬だった。カーズが先に動き出していたのは。


「しまっ――!」


一瞬でカーズはコウルに近づく。コウルはアンデッドに剣を振るうのに夢中で気づかない。


「終わりだ!」


「!」


コウルが気づくころにはもう遅い。カーズの剣が振り上げられる。


そして――。


「がっ……!」


間に割って入ったジンに剣が直撃した――。


「な――ジン!?」


「ジン……さん!?」


ジンは剣を受けたまま後ろに倒れる。


コウルは獣の目が元に戻り、慌てて受け止める。ふらつきそうな所をエイリーンも出て支えた。


「ジンさん!」


「ジン様!」


ジンを寝かせ、呼びかける。


この世界だからだろうか。血は出ていない。変わりか魔力の光が傷口から漏れ出ている。


「コウル……くん。無事で何よりだ……」


「ジンさん! ……そうだ、エイリーンさん!」


コウルは思い出す。自分の腕を治したエイリーンの力を。


エイリーンも気づくと、ジンに向かって手をかざす。


光が広がりジンの傷を覆う。……しかし光は拡散してしまった。


「そんな……!」


「致命傷……かな」


ジンは悟ったような口調で目を瞑る。


再び目を開けると今度はカーズの方を見る。


「これでも、まだ辞める気はないのか……カズ」


「……チッ。興がそがれた」


カーズは振り向くとその場を去る。


「さよならだ……ジン」


その一言を残して。




「ジンさん……」


「コウル……くん。本当は私が止めたかったが……。私に変わりカズを止めてくれないか?」


「それがジンさんの頼みなら……」


コウルは頷く。明確な目標だったジンの言葉。それを受け継ぎたかった。


「エイリーン……ちゃん」


「は、はい」


「きみはまず記憶を取り戻すんだ。カズとの関わりつなぎ、思い出せばきっとコウルくんの力になれる」


エイリーンも頷く。


「うん。二人ならやっていけるさ。すまないな……さようならだ」


そう言った瞬間、ジンの体は魔力の光となって消えていった。


「ジンさん!」


「ジン様!」


二人の叫びが響く。涙が流れる。


その涙に混ざるように雨が降り出し始めていた。

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