プロローグ

響く雷鳴。かき消される剣戟音。二つの影がぶつかり合う。


影同士のぶつかり合いは長い時間続き終わらないかと思われた。


しかし、それは数刻で終わった。片方の影に稲妻が直撃し墜落する。


そして――




――響く轟音。


「うあっ!? いてて……」


そこはとある高校の教室。少年『孝瑠(コウル)』は椅子ごとひっくり返り床に転がっていた。


「孝瑠くん。どんな夢を見ていたのかね。後で職員室にくるように」


周りからの嘲笑を受けながら孝瑠は「はい」とだけ小さく呟く。


その日、孝瑠はこの出来事を馬鹿にされ続けた。




「はあ、今日はドジなことしたなあ……」


居残りで怒られ、孝瑠はひとり夜道を歩く。帰路の途中の公園で孝瑠はブランコに座り空を見上げる。


「僕はどうしてこんな、何も上手くいかないんだろう……」


孝瑠は綺麗な星空を眺めながら愚痴る。


家はそこそこ裕福ではあった彼だが、学校での生活には馴染めていなかった。


「そういえばあの夢は――」


言いかけた時だった。


星空に白く輝く光が出現する。


「えっ?」


その光はゆっくりと公園の孝瑠の前に落下する。


孝瑠はその光に直感的に触れていた。


光が輝きを増し孝瑠を包む


「こ、これは? ……うわあっ!?」


輝く光とともに孝瑠の姿は星空へと消えていった。




「う、うん……?」


孝瑠が意識を取り戻す。そこは――。


「どこだ。ここ……?」


広がる一面の荒野。あるのは大小様々の岩のみ。

孝瑠は乾燥した風を身に受けながら周りを見る。


「確か公園で……」


自分の状況を確認するために公園での出来事を思い出し――


「あの光に飲まれて……ここに?」


答えはわからない。ただ茫然と見回すだけの孝瑠にひとつの影が見えた。


「人かもしれない……よね?」


自信なくも、影が見えた方へ向かう。


だがその影は人ではなかった。緑の身体、大きく手には棍棒のような物が握られている。


「ゲ、ゲームとかで見るモンスター?」


ゴブリン、オークといった有名なファンタジーのモンスターを孝瑠は思い出す。


孝瑠の体格は平均といったところだが、先にいるモンスターの大きさは倍と言ってもよかった。


(とにかくここは――)


モンスターに見つかる前にその場を離れようとした時。


「グオオオ」


声が響く。


孝瑠は気づかれたかと一瞬怯んだが、すぐにモンスターは違う方向を向いた。


ホッと一息つこうとしたが、すぐにモンスターの狙いに気づく。


「あの人――!」


何も考えず、すぐに駆け出していた。


孝瑠はモンスターの横を抜けると、倒れていた人――少女に駆け寄る。


「き、きみ。大丈夫!?」


少女に声をかける。


モンスターが迫っている。少し声を響かせるが少女は目を覚まさない。


「グオオオ!」


獲物を取られたと思ったのか、モンスターは怒声らしい響きを出しながら、棍棒を振り上げ孝瑠に迫る。


「やばいやばい」


明らかな殺意を感じ、孝瑠は少女を抱え逃げる。

しかし、モンスターは巨体の割に速さもあった。


「っ……! こうなったら」


少女を降ろし、適当な石を拾って投げつける。

石はそんなに速くない勢いでモンスターに当たった。


「……」


「グ?」


孝瑠は何も言えず、モンスターは何をしたという様子。


「グオオオ!」


だが、すぐにモンスターは勢いを取り戻し棍棒を振り下ろす。


孝瑠はとっさに腕で防御したが、力の差は歴然。大きく吹き飛ばされる。


「っ――!」


悲鳴は上げなかったが、痛みが孝瑠を襲う。


モンスターに容赦はない。棍棒を構え再び接近してくる。


(これはまずい――!)


次の一撃を喰らっては命にかかわる。


そう思い逃げたいが、少女を見捨てるわけにもいかない。


その時だった。


「はあっ!」


突然現れた青年が剣を振るう。


剣はモンスターの足を斬り、モンスターはバランスを崩し倒れる。


「今だ、きみ。こっちへ!」


青年は少女を担ぐと同時に、孝瑠を呼び走り出す。


孝瑠はただそれについて行った。




「う……ん」


あれから孝瑠は青年に流されるままについていき、町らしき場所まで来ていた。


そして腕に包帯を巻くと、疲れがでたのかすぐ寝てしまった。


そして目が覚めたが――。


「夢じゃなかった……か」


見知らぬ部屋、自身のケガ、隣にはいまだ起きていない少女。


夢ではなく孝瑠はまだそこにいる。存在している。


「ああ、起きたか」


青年が部屋に入ってくる。手には、パンや果物を抱えていた。


「まだ夢を見ているような顔だね。私にも覚えがある」


「え……?」


「きみも、突然この世界に飛ばされたんだろう?」


「じゃあ、あなたも?」


「ああ、今でこそ現地人と言われても違和感ないと思うが、


当時は私も制服で飛ばされてきてね」


青年は机にパンと果物を置くと、改めて孝瑠の方を向いて言った。


「ようこそ異世界エイナールへ」

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