皇雅たちのとある一日

時系列:戦争前の半年間の間のある日



 早朝――鬼族と竜人族から習った武術の型をおさらい。約90分間行う。

 早朝稽古終了後、朝食を作る。俺の分だけじゃなく、アレンとカミラ、アレンと特に仲が良い鬼族らの分も。あと偶に竜人族の分も。何か俺の料理が美味いとのことでアレンとカミラから作って欲しいとせがまれたので料理担当を担った。


 「すごい...!こんなにふっくら炊けたお米はお母さんの以来。コウガはすごい!」

 「この焼き魚の塩加減と焼き加減が絶妙ですね!ご飯が進みます!」

 「うまーい!ホントに美味しい!味付けどうやってるのー!?」


 ...と言った具合で高評価だ。


 朝食から90分後、サラマンドラ王国の道場で稽古。はじめのうちは、ひたすら技を見せてもらってからその真似の繰り返し。習得するのに中々手こずった。「武芸百般」が無ければもっと時間がかかっていたに違いない。


 「何だあの腕の動きは...!?蛇みてーだ」

 「筋肉だけじゃない。関節、そして骨をも自分の思い通りに動かすことを会得するんだ」

 「力の入れるところを少しでも誤ればこの技は失敗する。いいか――」

 「ほっ!!......なるほど、こうか。なぁ、少し技のテストさせてくれね?」

 「......本気じゃないお前相手でも無事じゃ済まなそうだから遠慮する」

 「だよなぁ、ははは」


 「コウガ、コウガの技のやり方今日も教えて欲しい」

 「アレン...あれは相当リスク高いぞ。それでも完全に物にしたいか?」

 「私の戦闘スタイルはコウガと同じ。私はコウガに少しでも近づきたいし...コウガの技を会得できれば、私の復讐成功に近づけるかもしれないし。」

 「そうか......失敗すれば体を壊すかもしれない。覚悟はしとけよ?」

 「うん!よろしく、お願いします...!」


 時々アレンに修行の相手...俺のオリジナル技「連繋稼働」を教えている。驚かされたのはアレンの予想をはるかに上回る飲み込みの早さと戦闘センス。3ヵ月後には技をマスターしてみせた。


 「すごい、威力...!けど、反動がかなり...」

 「ああ。精度が高い程体への負担が小さくなっていくけど、それでも相当の反動が返ってくるからな...。ゾンビの俺だから多用できる技だ。使うなら、いざって時だけにしろよ?」

 「うん...。コウガ、今日は腕のマッサージを特に多めにして欲しい」

 「おう......任せろ」


 お昼休憩を挟み、午後も修行に時間を費やす。外へ出て、午前で習った技のおさらいがてら魔物に試し打ちをして回る。やっぱり生身を相手に技を打てば大体の成果が分かる。

 アレンはカブリアスらと組み手修行だ。お互いに技の質を高め合っている。月日が経つにつれてアレンの実力はエルザレスにも引けを取らないレベルに達していた。

 

 そして夕方。俺はまた料理当番を務める。手伝いを買って出てくれたカミラと一緒に十数人分の料理を作る。


 「「「美味いっ!!」」」


 ドリュウもカブリアスもエルザレスも俺の出した料理を大層気に入った様子だ。技を教える代わりに俺が料理当番務めるという契約を結ばされたくらいだ。稽古と飯をきっかけにカブリアスと親交がより深まった瞬間だった。


 「アレンの番となる男がこんな料理上手とはな......ん?炊事は普通女子が務めるものだと思うのだが............んん??」

 「いや何で疑問に思ってんだよ。俺がいた世界では男が家事務めてることは普通だぞ?というか、番......」

 「お前の世界か...興味深い。ん?アレンとは番にならないのか?」

 「いや...うん、きっと............そうなるな、番に......うん」

 「ふっ。良い関係だなお前らは」


 夜にはカミラの家に帰宅。風呂が済んだアレンとカミラに呼ばれて、部屋で「いつもの」を行う......マッサージだ。


 「あ......ん♪脚気持ち良い...。解れてく~」

 「ふくらはぎが終わったら腕いくぞ。相当打ち込んでたそうだったからな」

 「ん...お願い.........んっ♪」


 敷布団でうつ伏せに寝転んだアレンの、稽古で特に酷使した体の部位をマッサージで解していく。最初の頃も今もアレンはこの時間をいつも楽しみにしているとのこと。マッサージを受けている時のアレンの顔はいつも蕩けた顔をしている。 

 元の世界で、部活後のクールダウンの一環で自身で出来るマッサージを調べてある程度出来るようになったというレベルの腕だが、アレンにたいそう気に入られている。


 「一人でもやれるマッサージ法も今度教えてやろうか?」

 「ん...それも良いけど、一人でやるようになったらコウガのマッサージがなくなっちゃうから、やっぱりいい......あはぁ...っ」

 「さいですか......ご満悦で何より」


 仕上げに背中全体を軽く叩いて擦って完了。お疲れさんと声をかけて、隣の布団にいるカミラに声をかける。


 「カミラも、今日も受けるか?」

 「お願い、していいですか...?」


 さっきからスタンバイしてた感じの割にはどこか遠慮した様子だった。


 「何に引け目を感じてるのかは分からんが、カミラもいつも魔人族とか人族...の連合国軍だっけ?あいつらの戦力調査とか連携シミュレーションをしてあちこち移動したり頭を使ってるって聞いたぞ?そういうのもけっこう疲れが溜まるものだから、カミラも疲れほぐした方が良いぞ」

 

 至極正論を述べてアレンが使ってる布団に手を置いて勧める。


 「そう、言ってくれると...う、嬉しいですっ」


 声を弾ませて嬉しそうな反応をしたカミラは、彼女が使っている布団にうつ伏せになってリラックスした姿勢をとる。


 「それじゃあ......肩とその周辺を中心に...。ここ最近では夜になると肩が妙に凝ってしまいがちで...。年のせい、とは思いたくはないのですが...。こう見えて一応朝稽古をしていますし」


 カミラは肩をすくめてそう主張する。彼女の職業柄デスクワークとかで肩が凝るということになるそうだが、彼女の場合は......身体的事情も原因になっているのではと考えられる。


 「む.........ぅ」


 アレンも俺と同じ考えらしく、カミラの女の象徴とする双丘を凝視して小さく唸っている。

 

 「......そういうことなら、そこをしっかりほぐしていこうか。肩周辺だけじゃなく、肩の筋肉と連繋している筋肉とかも解すからな」

 「お願いします............は、あぁ♪」


 こうしてカミラにもマッサージを施していく。職業柄筋肉質なアレンよりも柔らかい体だ。カミラをマッサージしていると、これが女の体なんだなってことがより実感させられる。女の体ってこんなにも柔らかくてなんかずっと触っていたくなる...少し危ない思考にさせられる。

 もちろんアレンもアレンの良さがある。筋肉質と言ってもその筋肉はガチガチに硬いものではなく柔らかみがある。ハリがあって質感も良い。アスリート目線でも最高レベルの筋肉だ。俺も見習いたいくらいだ......死んでるからもう意味無いが。

 まぁ要するに二人とも素晴らしい体だということだ。


 「ああ^~気持ち良かった...です。コウガは本当に何でもできますね。桁外れな戦闘能力だけじゃなく料理もこのマッサージもあと技の指導も...。今さらなんですがコウガは何者なんですか?」

 「何者って言われても...バグレベルの戦闘能力に関しては俺も未だよく分かってねーんだよな。けど家事とかマッサージとか教えることとかは、まぁ十数年規模の経験の賜物ってやつかな。ガキの頃から色々かじってきた結果が今の俺ってわけ...かな」


 陶然として何故か息をはぁはぁさせているカミラの問いに俺は漠然と答える。今答えた通り、ゾンビになった原因はまだ分からない。チート技能までついてそのお陰で能力値と固有技能が凄いことになったのだが、いったいどういう原因でゾンビになったのか。

 やはりあの瘴気が原因か...魔人族と名乗ったあの男...ザイ―トも俺のゾンビ化については分からないと言っていた。俺がモンストール...屍族に近しいということは分かったがこの不死機能はどう考えても異常だ。

 いつか分かる時が来ればいいな...。俺に不都合な真実じゃなきゃいいが...。

 などと長考していると、俺は何故か布団に仰向けにされていた。いや途中気付いてはいたのだが、害意は無いと分かっていたから放置していた。けどこれはいったい何のつもりで?


 「二人とも...いったい?」


 思ったままの疑問を呈すると二人とも頬を染めて手をわきわきさせながら答える。


 「いつもコウガにしてもらってばかりだから...今日は私もコウガにマッサージしてあげようと思って」

 「私もです。コウガはゾンビだから疲れない体なのは分かってるのですが...こういうのは気持ちだけでも受け取ってもらえると...///」


 アレンはやる気満々に、カミラは照れた様子で答えてくれる。そんな二人に俺は小さく笑う。


 「ありがとう二人とも。じゃあ...頼もうかな」

 「うん!」「はい!」


 二人が俺の体に触り始めると同時に、久しぶりに「五感遮断」を解除した。そうしないと二人のせっかくのマッサージが楽しめないからな!


 ......俺の復讐が終わったら、こういう生活をここで送るのも悪い気はしない。俺としては元の世界へ帰るのがいちばんだが、この生活も良いなと思ってもいる。

 あまりこういうのは考えたくはないが...もしも元の世界へ帰る手段が見つからなかったら?

 その場合は...俺はここで二人と鬼族らと楽しく暮らす...。

 そんな未来も一つの可能性かもしれないな...。

 まあいずれにしろ、復讐を為すという道は不変で確定事項だけどな...!



 因みにアレンとカミラによるマッサージだが......理性が溶けるかと思うくらい気持ち良かった―――

 

 

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