125話「開戦」


 あれからカミラを中心に連合国軍の主戦力兵の解析と対策を練り、当日の行動の取り決め、相手の配置予想などを考えてきた。カミラが会ったことない元クラスメイトどもについてだが、職業の性質はカミラが、人格・性格・関係など内面のことは俺がそれぞれ知ってるのでお互い教え合ってから対策を練る。


 特に藤原についてはしっかり対策を練った。彼女の固有技能と職業は、八俣よりも厄介で下手すれば討ち取られる恐れがあるからだ。

 回復術師...何も知らない連中は勘違いしがちだが、回復術師(士)は非戦闘員なんかじゃない。俺がラノベで読んだ限りでの奴らはとんでもないスペックを持つ。傷を負ったその瞬間完治するから実質不死身スペック、仲間は基本死なせないで行ける、薬物を作り出してもの凄いドーピング効果を発揮させられる、ヒーラーなのに火力ヤバいetc...。


 そして今思い浮かんだ内容ほぼ全てを、藤原美羽は持っていると言える。チート主人公を具現化させたような女だ。俺がゾンビじゃなければすぐに負けてしまい、ゾンビでも相性の悪さで苦戦を強いられるであろう難敵だ。

 さらに回復とは、“治す”や“再生”も意味するが、もっと細かく捉えるなら“回帰”...巻き戻すという意味になる。その回帰の真髄なのだが...それをカミラに相談すると彼女も同じことを考えていたらしく、いちばん慎重にそして綿密に藤原の対策を練った。下手をすれば、俺は彼女に倒される可能性があるからな...。


 そして、残りの敵主戦力の中には俺にとってはもう一人、要注意しなければならない奴がいるとカミラからさらに知識とそいつの対処法を教えてもらった...。





 そして――あっという間に時間が過ぎていき、いよいよ俺が取り決めていたその時が来た。



 


 前日の夜は士気を上げるべく鬼族たち全員も呼んで宴会を開いた。アレンのリクエストに応えて俺も料理を振るまった。この世界に来てから俺も料理スキルが上がったらしい。

 そういうこともあって、アレンもカミラも、当然俺も好調だ。二人に準備を命じておき、俺は以前上った山のてっぺんから戦場となる地を見下ろして嗤った。



 「これで...最後だ。堂丸、中西、米田、曽根、そして高園。テメーらをぶっ殺して終いだ。ああ...楽しみだなぁ!!」



 これから起こす殺戮ショーを思い浮かべて俺は気持ちよく叫んだ。


 「邪魔するなら来いよ、全員殺してあげるからさぁ。お姫さん、正義ウゼー女、そして...先生さんよぉ」




 数分後、準備を終えた二人のもとに駆け寄って、出陣の言葉をかけた。

 

 「俺の最後の復讐に、協力してくれ...!」

 「任せて!!」

 「しっかりサポートします!!」


 二人の返事に微笑んで、センやスーロンたちに手を振って俺たち3人は戦場へ向かった。





 まず俺たちが向かった先は、故カイドウ王国...今は俺がつくりあげた偽物の獣どもが蔓延る場所だ。見た目は従来通りの獣王国だが、実際は俺がゾンビ化させた屍族どもの溜まり場だ。

 ここにいるゾンビ兵の何体かをカミラの護衛につかせる。護らせながらカミラは俺たちに指示を出す。その間定期的に移動していく。まずはそんなところだ。


 俺とアレンは常に行動を共にして、元クラスメイト以外の敵は二人で潰すことに。

 カミラの護衛兵だが、飛行系・海遊系・陸移動系をそれぞれ2~3体ずつ用意して全員に「迷彩」をかけておく。そしてカミラを先に空へ飛ばして状況を確認させておく。ここでしばらく待ち、彼女から指示が出次第俺たちも動く。


 数分後、サント王国に救世団らしき者らが出陣したと情報が出たので、いよいよ動くとする。故カイドウ王国から出て行こうとしたその時―





 “刹那”


 ギイィン――!


 間一髪のところで突然とんできた斬撃を、「身体武装硬化」で顕現した刀で迎え撃った。甲高い音を響かせて突然現れた刺客を押し飛ばす。その直後、螺旋状のレーザーの形で放たれた水・嵐の複合魔法が俺に向かってきた。咄嗟に「魔力防障壁」でそれを防ぐも、その火力は中々のものだった。


 (この魔法攻撃......魔人族と匹敵する火力だと?人族にそんな奴いたか?あり得るとすれば、藤原美羽か?)


 困惑する俺にアレンが並んで立ち臨戦態勢に入る。土煙が晴れるにつれて刺客たちの気配が感知できるようになった......?そういえば何で今の攻撃に気付けなかったんだ!?「危機感知」も「気配感知」にも引っかからずに奇襲するなんてあり得ないはずだ!




 「やっぱりこれで倒すってのはダメだったか。予想はしていたが全く堪えていないってのは嫌になるなぁ」


 『コウガ!!その場にたった今強力な戦力が確認されました!数は二人!」


 さっき押し飛ばした方の奴の声と、通信機越しのカミラの焦燥声が同時に聞こえた。カミラに短い返事をしながら、今この場で聞いた声に俺はマジかと呟いた。そしてもう一人......“彼女”が現れたことにも、驚かされた。




 「まさか、いきなりこんなところで出るのかよ?あんたら二人が...!」

 「ああ......二ヶ月振りだな、甲斐田。今度は殺し合いに来たぞ」

 「コウガさん......アレンさん」




 八俣倭とクィン・ローガン。この二人が最初に現れた...!




 *


 (カイドウ王国はもう滅んでいる...!?)


 戦争の二日前、例の会議場で軍略を練っている中、ミーシャの推測にクィンや美羽が思わず聞き返した。


 (クィンさんの情報によるならば、鬼族の生き残りのアレンさんはかつて獣人族から迫害を受けて仲間を害されたという理由で、彼らに復讐しようと思っていた。ならば当然カイドウ王国のところに侵攻したはず。そしてお二人が普通に生きているということは、カイドウ王国は滅ぼされたと予想できます)


 ミーシャの推論に皆しばし感心してなるほどと納得した。が、クィンがすぐに反論した。


 (ですが、王国の偵察隊の報告では、住民や兵士が普通に暮らしていたと出ていました!実際の光景も見せてくれましたし、本当は絶滅していないのでは?流石に中心部へは偵察は出来ませんでしたが)

 (コウガさんの固有技能には、死んだ生物を自分と同じゾンビとして復活させられるものがあるそうです。もし、偵察隊の方々が見た獣人族全員がそうだったとしたらどうでしょう?いえ、王国全体が、コウガさんの固有技能で動かされているとしたら?あの国はもう、コウガさんの駒となってしまっていると考えた方が良いかもしれません...)


 そこまでの展開が予測できるのかと、その場にいる全員がミーシャの推論に感服した。後天的に軍略家としての才能が、今現在ここで発揮された瞬間だった。

 

 (ミーシャ様の予測通り、本当にカイドウ王国はコウガさんの駒と化していた。王国丸ごとを自分の手札とするなんて、やっぱりこの人は規格外過ぎる...!)



 内心ミーシャと皇雅の手腕に度肝を抜かれたクィンは、剣と魔法杖を構えて倭と並んで皇雅とアレンと対面するのであった。





 「クィン...!」


 アレンが驚愕の表情でその名を持つ目の前の女を見つめる。向こうも目を逸らすことなくこちらを見据えている。


 「どうやら、連合国軍にかなり優秀な軍略家がいるようだなぁ?よりによってここにドンピシャで当てにくるなんてなー。偽装は完璧だったはずだが」

 「確かに完璧だった。だがお前の能力を知っている場合、こういうことを予測することくらいはできるそうだぞ?うちの副将...元王女様はそう言ってた」

 「お姫さんか。そうか...本当に、俺と戦いにきてるってかぁ。へぇ~~~」


 どうやらこの偽獣王国を見破ったのはお姫さんだったらしい。彼女にカミラと同じ軍略家としての素質が目覚めたらしい。俺を邪魔する為に!

 そういえば、お姫さんは俺のステータスを見てたんだっけな。あとクィンも、藤原にも見せてたっけ?

 そうなれば俺の能力モロバレだし、そこから俺がゾンビ兵をつくるってところも読まれるのも納得がいくなー。やっぱ見せたのはミスだったな。

 倭の解説に納得してから今度はクィンの方に目を向ける。せっかくだし何か喋るか?


 「故ドラグニア以来か?あれからえらく力をつけたな?さっきの魔法...レベルⅩだな?随分な急成長だ。いったい何を...?」

 「答えてあげたいのですが、そんな余裕は今はありません......早急にあなたを無力化しなければならないから...!」

 「覚悟は、あるみたいだな?」

 「はい......とっくに」


 今の短いやりとりで、俺は理解した。クィンは本当にやる気だと。そして今の力は命に関わる何かだと。というより、本当に何があったんだあいつ?このステータスは、この世界の人族レベルを完全に凌駕しているぞ!?




クィン 23才 人族 レベル100

職業 戦士

体力 790000

攻撃 600000

防御 300000

魔力 600000

魔防 300000

速さ 500000

固有技能 神速(+縮地) 剣聖 炎熱魔法レベルⅩ 水魔法レベルⅩ 嵐魔法レベルⅩ 魔力防障壁



 人族が6桁の能力値なんていくか普通?八俣や藤原あたりならあり得そうだが、この世界の住人の奴は無理があるだろう。何だ?チート使ったのか?改造か??

 色々邪推していると、八俣がクィンに何か言っていた。


 「クィン、。このまま継続させるのは危うい」

 「ワタルさん...しかし!」

 「ここからは、俺が甲斐田と相手する...!俺ならリスク無しに戦えるしな」

 「...分かりました」


 八俣がクィンを諫めると、彼女は引き下がり、同時にさっきまでのステータスが変化した。能力値がさっきの100分の一に低下し、魔法レベルも下がっていた。


 「そうか...今のはドーピングの類か。アレンの“限定進化”と似たものだな?」

 「その通りです。一時的にですが能力値を跳ね上げさせることができます。リスクはありますが...」


 解いたことで余裕ができたのか、俺の確認に答えた。正体は分からんが、こいつらは何かで限定的に進化・強化できるようだ。クィンの場合、能力値100倍アップか...俺みたいじゃん。さっきみたいになったクィンは、アレンよりも強いな。厄介だ。

 だが彼女は今は温存するようで、警戒すべきは八俣の方か...。


 「うーん。邪魔するなら殺すって言ったが、最初は雑魚どもを殺して回る予定だったのだが、いきなり足止めされるとはな~。やっぱり宣言通り、先に―」

 「コウガ!(くいっ)」


 アレンに袖を引っ張られながら言葉を遮られたので、彼女を見やる。真剣な表情でクィンを見据えて、続きを言った。


 「クィンとは私がやる。コウガはあのヤマタって人と戦って」

 「アレン......いけるのか?」

 

 意外な提案だったので思わず確認した。アレンは迷うことなく首肯する。彼女の真意は分からない。が、俺のことを考えてのことらしいし、言う通りにするか...。


 「コウガは、復讐に集中して」

 「ああ。サンキューな」


 アレンに礼を言って俺は......移動開始!それを見たクィンが追いかけようとするが、アレンに止められる。が、八俣はそうはいかず、俺を追ってきた。読み通り!


「分裂」


 唱えた直後、俺がもう一人現れて、八俣の前に立ち塞がった。そしてもう一方...本体の俺はそのまま国外に出て駆けていった。


 「これは...いったい?」

 「魔人族の長を倒した戦利品だ。ステータスは弱体化するが、それでもテメーと互角にやり合えるくらいは、できるぜ?」


 ニヤリと笑ってファイティングポーズをとる。八俣も好戦的に笑い、日本刀を構えた。






 「アレンさん......私を、庇ったのですか?」

 「......」


 一方、分裂皇雅からやや離れたところにいるクィンは、アレンにそんな問いを投げかけた。少し黙ってから彼女は答える。


 「コウガは、クィンでも平気で殺す気でいる。私も、クィンたちと戦う覚悟を決めている。けど、それは最後の最後で良いと思っている。今はまだ殺さないで良い、と私はそう考えている。クィンは、私を殺す気でいる?」

 「そんなの...思っているわけない!短い間でしたが、アレンさんのことは親しい人と思っています!コウガさんだって、嫌悪に思う気持ちは少しありますが、完全に消すつもりはありません。無力化して、彼にめいっぱい制裁を与えて更生させるつもりです!罪を償ってもらいます!!」


 その言葉聞いたアレンは、納得したように笑った。クィンもつられて少し微笑んだ。が、お互いすぐに身を引き締めた態度に変わり、構えを取る。


 「でも...今はコウガの邪魔はさせない。最後の復讐に立ち塞がる者は誰だろうと私が狩る!!」

 「コウガさんにはもう復讐を理由に人を殺させません!私と私の友と仲間たちも、気持ちは全て同じです...!!」



 そして二人の乙女が、それぞれの想いの為にぶつかり合った。




 三大勢力による戦争は終わり、今度はゾンビと人族連合国軍による戦争が始まった。     

 結末がどうなろうと、歴史が大きく動くことになる戦争が......甲斐田皇雅にとっての最後の戦いが始まった――








*次回ちょろっと挟んで、前編終わりです。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る