111話「それぞれの苦悩」


 「その様子だと、もう死に瀕した状態から脱したと見て良さそうだな?顔色もマシになってる」

 「......ええ、心配かけたわね。というか今度はあなたの方がまずいんじゃあ……?」


 魔人族との死闘を終えて、マリスのところに来たラインハートは、安堵を示すため息をつく。そんな彼の容態を目にしたマリスは自分のことなど後回しだと言わんばかりに、部下の兵士たちに彼の回復を命じた。

 

 「魔人族が、あそこまで強いとはな...俺もそれなりに強くなったつもりでいたのだが、想像以上だった」


 未だ残っている魔人族...クロックの姿を見ながら呟く。物言わぬ骸へと変わり果てた魔人族に、マリスは険しい顔で近づいていく。


 「...復讐か?自分の国を滅ぼした諸悪の根源に対しての。そいつはもう動けない...というかもう死んでいる。

 どうする?死に体を甚振ることで、お前の気は晴れるのか?」

 「ええ...。たとえ死んでいようが、最後の始末くらいはやらせてほしいの...。この手であいつを殺したかったのが正直な気持ちだけど、それを成し得る力が無かった...!だけどせめてこれくらいは私が...!」

 「そうか......なら止めはしない。お前のやりたいようにやれ。俺は、ちょっと休んでからまた動くとする」

 「.........ありがとう」


 再度激情に駆られるマリスを見ても宥めることはせず、彼女の背を押すことを選んだ。マリスは振り返らずに礼を言って、後始末に向かった。


 (復讐か。......も、同じくそれを動力源として動いていたな。復讐とは、ここまで人を突き動かす動機となるのか)


 そう考えながら、ラインハートは一時戦地を離れた。




 時を同じくして、旧ドラグニア王国。この地でも人族の主戦力と魔人族による死闘が繰り広げられていた。

 はるか遠く海の向こうで、ラインハートがクロックを斬り伏せたのと同時に、こちらも決着がついていた。



 「な...なんだ、よ?そいつ、はよぉ...??そんな魔術って、ナシだろぉが...!!」


 魔人族序列7位、武術・魔法両刀派の戦法の使い手であるリュドルが、絶望した表情を浮かべて、今の有様を受け入れられない様子でいた。

 その目線の先には、魔力・体力が大幅に削られて、膝をついて今にも倒れそうでいる美羽の姿があった。


 「......ッ!......ッ!...ァ、ッ.........」


 呼吸が荒く、唇が変色していて、顔色が最悪の状態でいる美羽に、リュドルの恨み言に反応する気力さえなかった。意識を保つのがやっとの状態だ。


 「てめ、ぇ...!何か言――(ザシュウウッ!)――ィガァ!?」

 「......私がいることを、お忘れなく...」


 無反応の美羽にさらに罵声を浴びせようとしたその時、リュドルの首元から一直線に剣が突き刺された。クィンの今の剣の腕は、魔人族をも刺す、斬る、切断することが出来る程までに成長している。至近距離で首を貫くことなど今や容易いことだ。


 「ガ...!ヂギジョ、オォ......!!」


 血の泡を吹いて、痙攣した後、リュドルは絶命した。が、油断することなく即座に炎熱魔法でリュドルを焼き尽くして灰にした。屍族の知識はそれなりにある以上、こうして死体を跡形もなく消し去るまでが必要であると心得ている。


 「終わりましたが、ミワが...!!」


 後始末も終えたことを確認したクィンは、即座に美羽のところに駆けつける。虚ろな目をした彼女に、携帯していた回復水(作:美羽)を飲ませる。数分経って、目の焦点が合うようになり言葉も発するようになった美羽を見て、ひとまず安堵した。


 「魔人族は私が葬り去りました。ミワの、あのオリジナル魔術のお陰です!けれどミワ、あなたが...」

 「魔人族相手に、温存はダメだったわ...。だからあの魔術を使わざるを得なかった。ううん、私が魔人族たちと戦う場合、この力は欠かせない...。物理的力も魔力も私たちをはるかに凌ぐ彼らを倒すには、これしか...!」

 「ですが一回使えば、さっきみたいに瀕死寸前になってしまう...。今後何度も使えば、命に関わる事態に!あなたには死んでほしくないのです!」

 「......。クィン、以前に魔人族のトップと遭遇したって聞いたけど、彼の戦力は、さっきの人と比べてどれくらいだった?」

  話をすり替えられるも、クィンは美羽に肩を貸して歩きつつ答える。

 

「戦闘力はほぼ...いえ、さっきの彼が少し上だったと思います。けれど前者はまだ力を温存していたとのこと。本気になった魔人族トップの戦力は、想像つかないです。さっきみたいに、真正面から挑めば、おそらく何もできずに殺されるかもしれません...」

 「そう、なんだ...。だったら尚更、私のこの力が必要になってくると思うわ。真っ向勝負でどうこう出来る敵じゃなくなった以上は...」

 「そう、かもしれません。けれど私は、ミワを犠牲にしての勝利なんて嫌です!絶対に...!だから、思いつめないでくださいね!」

 「うん、ありがとうクィン。私だって死にたくないしね...」


 それきり会話は止み、クィンによって後衛に退避した美羽は、まだ疲労が抜けないまま、脳裏にある男を思い浮かべていた。


 (相打ち覚悟をしないで魔人族と相手できる人は、やっぱり君しかいないのかな?


 甲斐田君、今君はどうしてるの?君も魔人族たちと戦っているの...?)

 

 

 同時に、クィンも美羽と似たことを考えていた。

 (半年間この時の為に必死に鍛えてきたけれど、魔人族には届かなかった。あれらとまともに戦える方は、あれらと同じく規格外の何かにならなければならない...。となれば、やはりあなた以外にいないのでしょうか?.........コウガさん)





 故ハーベスタン王国。現在は鬼族の小規模の里となっているこの国跡地でのモンストールや魔物による被害はゼロである。数分前に災害レベルモンストールの大群が押し寄せてきたのにもかかわらず、だ。


 アレンをはじめとする鬼族の精鋭戦士の活躍により、大群が殲滅されたからである。今の彼女らは、Gランクモンストールが10体攻めて来ても大した被害にはならない。それくらいに全員強くなったのだ。



アレン・リース 17才 鬼族(金角鬼) レベル200

職業 拳闘士

体力 10900

攻撃 9900

防御 7500

魔力 900

魔防 7500

速さ 8000

固有技能 鬼族拳闘術皆伝 雷電鎧 咆哮 神速 見切り 夜目 気配感知(+索敵) 怪力 限定進化



 「限定進化」を発動したアレンは、単独で序列下位の魔人族と渡り合えるレベルにまで進化していた。他にも、センやスーロンなど劇的に成長した鬼戦士もいる。



鬼族勢力  アレン以外の戦力

セン(堕鬼種) レベル100 呪術師 幻術使い(レベル最大)

ガーデル(堕鬼種) レベル80 呪術師 幻術使い(レベル3)

ギルス(吸血鬼種) レベル85 戦士

ルマンド(神鬼種) レベル90 戦士 魔法全属性レベルⅩ 神通力使い

スーロン(鬼人種) レベル120 戦士

キシリト(吸血鬼種) レベル120 戦士 

ソーン(吸血鬼種) レベル130 戦士 



 人族連合国軍にも引けをとらない勢力である彼らは、個人としてモンストールと相手している。自国を守る為、それだけの理由で動いている。が、彼らから進軍することはしなかった。大軍を退けたアレンたちは、戦闘態勢を解いて休養中だ。


 「みんなお疲れ様。この国は無事。みんな頑張ったお陰。あとカミラの的確な指示も助かった」

 「ふふ、お役に立てて光栄です。今回はみなさんがいたから、非常に楽に事が進みました!私の家を守ってくれてありがとうございます!!」


 アレンが戦士たちと参謀のカミラに労いと感謝の言葉をかけて、カミラも礼を言ってアレンとハイタッチを交わす。彼らの住処が無事でいられたのは、アレンたちの活躍以外にも、カミラの采配も貢献している。

 彼女の固有技能「未来完全予測」は、半年間でさらに質が上がっていた。より多くの対象の行動予測が細部にわたって可能となったのだ。

 今回の相手は、前回の皇雅と違って魔物・屍族だけだったので、その思考は簡単に読めたし、何より統率する明確なリーダーがいなかったことも大きな優位点であった。軍のリーダー格であるモンストールを潰せば後は残党の処理で済む鬼族軍だった。

 これにもし魔人族がいれば、その技能を魔人族のみに絞らなければならなかったが、その必要もなかった。比較的苦戦しなかった迎撃戦だった。


 「コウガが言うには、魔人族軍とは一人で戦うと...。アレン、あなたはどうするのですか?私は、引き続きこの故国を守ることにします。その為には鬼族の皆さんがいてくれないとなりませんが...。」

 

 ちらとセンたちを見ながらアレンにこれからどうするか問う。ここを防衛する以上、鬼族の戦士たちは半数以上は必要になる。アレンが抜けるだけでもここの戦力は中々に低下する。かといってアレン一人で魔人族の本拠地に行くのも危険極まりない。

 だがそんなリスクを考慮した上で、アレンは答えた。


 「私だけ、コウガのところに行く。戦いが終わった後は、コウガまた動けなくなってるかもしれないから。私がお疲れ様って撫でてあげる」

 「...私もそうしてあげたいですが、今回その役目はアレンに任せます。コウガを、頼みます。二人がここに帰ってくるのを待ってますから...!」

 「うん、必ず帰るね!」



 こうしてアレンは、単独でコウガのところへ向かって行った。






*************************************


鬼族各ステータス一覧


セン 20才 鬼族(堕鬼種) レベル100

職業 呪術師

体力 6800

攻撃 5000

防御 5100

魔力 7250

魔防 5600

速さ 3700

固有技能 鬼族拳闘術皆伝 咆哮 魔力防障壁 気配感知 幻術レベル5(MAX) 限定進化




ガーデル 17才 鬼族(堕鬼種) レベル80

職業 呪術師

体力 5500

攻撃 3100

防御 4000

魔力 5000

魔防 5000

速さ 3000

固有技能 鬼族拳闘術 咆哮 魔力防障壁  幻術レベル3 限定進化




ギルス 15才 鬼族(吸血鬼種) レベル85

職業 戦士

体力 5000

攻撃 7200

防御 3990

魔力 7000

魔防 3990

速さ 6000

固有技能 吸血 鬼族拳闘術皆伝 咆哮 魔力防障壁 炎熱魔法レベル8 雷電魔法レベル8 水魔法レベル8 暗黒魔法レベル8 怪力 神速 自動回復 限定進化




ルマンド 19才 鬼族(神鬼かみき種) レベル90

職業 魔術師

体力 3990

攻撃 1000

防御 2000

魔力 15000

魔防 8000

速さ 3000

固有技能 魔力防障壁 魔法全属性レベルⅩ 神通力 限定進化


*神通力...サイコ能力・超強力な念力。空間に干渉することができ、対象を捻じり切ったり潰したり物を操ることができる。



スーロン 20才 鬼族(鬼人種) レベル120

職業 戦士

体力 6000

攻撃 8700

防御 7000

魔力 5000

魔防 5000

速さ 5800

固有技能 怪力 絶牢 鬼族拳闘術皆伝 大咆哮 大地魔法レベル9 限定進化



キシリト 21才 鬼族(吸血鬼種) レベル120

職業 戦士

体力 9000

攻撃 6300

防御 5000

魔力 7000

魔防 6000

速さ 5100

固有技能 吸血 炎熱魔法レベル9 雷電魔法レベル9 嵐魔法レベル9 暗黒魔法レベル9 魔力光線(炎熱 雷電 暗黒) 魔力防障壁 神速 大咆哮 自動回復 限定進化



ソーン 13才 鬼族(吸血鬼種) レベル130

職業 戦士

体力 7900

攻撃 10100

防御 9900

魔力 2000

魔防 5000

速さ 10200

固有技能 吸血 金剛力 絶牢 大地魔法レベル6 瞬神速 大咆哮 見切り  鬼族拳闘術皆伝 自動回復 限定進化




*人によって限定進化による能力値の上げ幅は異なる。5~10倍が標準、歴戦の覇者・特別種などは20倍以上跳ね上がることも。現在の鬼族戦士と竜人戦士(主にドリュウたち3人)は、進化すれば魔人族序列下位クラスとは互角に戦える実力を持つ。主人公との実戦訓練が大強化に大きく貢献されたもよう。


*次回 主人公やっと登場......たぶん!

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