81話「ハーベスタン王国」


 朝から休むことなく(アレンは少し休憩挟んだ)捕食して狩りまくることを続けていると、いつの間にか太陽がてっぺん位置まで回っていた。

 今日はハーベスタン王国に行こうと思っていたので、ここで一旦切り上げることに。


 下位や上位のモンストールくらいしか討伐出来なかった。災害レベル個体は基本、地底にいるのがほとんどで、前回のように地上に登場するのはやっぱりごく稀のようだな。

 今回は質より量で行こう作戦を実行して数百体を殺してレベルを5くらいは上げた。ちなみに新規固有技能の取得は無し。

 俺の成果はしょっぱいものだったが、アレンの方はそれなりだった。もう彼女一人でAクラスの敵を余裕で倒せるようになっていた。この世界で最強クラスと言っていいレベルだろう。

 レベルもだいぶ上がったとのことなので、その成果を見てみる。


アレン・リース 17才 鬼族(金角鬼) レベル99

職業 拳闘戦士

体力 3900

攻撃 7000

防御 3000

魔力 600

魔防 3000

速さ 3500

固有技能 鬼族拳闘術皆伝 雷電鎧 咆哮 神速 見切り 夜目 気配感知 金剛撃 限定進化 



 能力値が洞窟で会った時より倍以上も上がっている。固有技能は大して増えてはいない...いや、これが普通か。俺がおかしいんだった。

 この前の竜人族との修行で主に能力値が伸びたようだ。ここから「限定進化」を発動すれば、ドリュウをも上回るだろう。屋敷にいた時は奴に勝てなかったと言っていたが、今戦えばアレンが勝つかもしれない。

 鬼族の中での希少種・金角鬼は、能力値の伸びが他の魔族よりも凄いのだろうな。仮に生きていたあいつらがいたら、奴らを軽く凌駕していたかもな。


 「見違える程に強くなったんじゃないのか?魔族の成長基準が分からないからあまり分からないんだが、俺はアレンがとても成長したと、思えるぞ」

 「うん...!ありがとう、コウガにそう言ってもらえて嬉しい!」


 自分の成長を褒めてくれて大変ご満悦なアレンは、くううぅと声を漏らして目を細める。今となっては彼女のこういう仕草にもドキッとしてしまう。好ましいと想っている女子が、生でこういうことするのを見るとマジドキドキするなぁ!本で読んでるだけじゃあ、絶対味わえない体験だ...尊い!


 水魔法を器用に使って汗や返り血を洗い流して身を清めた後、戦闘力無い人らにとって危険極まりない地帯を抜けて、ハーベスタン王国へ向かう。


 1時間後、王国前に着いて入国審査をしているところへ行く。クィンに発行してもらった入国許可証(前回の戦いで破損してしまったため、アレンの物を見本にして作った贋作)を見せて入国できた。

 もし贋作で入れなかったら、暗黒魔法の催眠術で操って入ろうかと考えていたところだ。そんなこんなで、この世界の人族の4つめの大国に入った。


 ハーベスタン王国。入国前から見えていたのだが、まず外装が堅牢な石壁で覆われている。東京ドームみたいな屋根も石壁でできていて、この国を包むような形だ。そのため日光がほとんど遮断されてしまっていて、陽が当たる時間帯は、真昼の今である。それゆえ「夜が長い国」とも呼ばれている。

 中でも注目した点は、人族の国であるこの地に魔族...亜人族がいることだ。


 亜人族は、初めて見た印象としては、名前の通り人族に近い種族だ。肌の色、発達した爪や牙、翼などが彼らの特徴と言える。主な人種は...“サキュバス”、“半獣人”、“半竜人”、“半魚人”etc. 魔族の中で人種が最も多い種族だ。

 大昔に人族と魔族とが一緒に過ごしていた時代があり、それらの間に生まれたのが、亜人の先祖となり、その血が薄まることなく今日まで続いてきたのだとか。


 いうなれば、亜人族は人族と多種類の魔族との間から生まれた種族ということになる。それ故に亜人族と人族とは、親交が深い仲になっている。

 モンストールとの戦いも、お互い協力して当たってもいる。ただ近年はモンストールの勢いが増したため、亜人族自身の国を守るのが精一杯になってしまい、人族と共闘することが少なくなった。


 ハーベスタン王国が衰退して領地が縮小しているのはそういった事情があったそうだ。有力な戦士が次々死んでいったこの国に、人族だけで太刀打ちするのが困難になり、滅亡も時間の問題とされている。

 事実、この国は今までのと比べて活気が無く、人も少ない。この国は限界手前といったところか。


 そんな瀕死状態に片足を突っ込んでいる王国に、世界トップといわれている軍略家がいると聞く。そいつの頭一つで今もどうにか国を存続しているのだとか。元の世界で言う孔明ってところか。

 

 とりあえずまずは、飯を食うための金を手に入れるべく、換金所へ行くことに。

 レベル上げしつつ金になりそうな素材を剥ぎ取っておいた。モンストールの場合、上位レベルだと倒した証としてどの部位でも金になるらしい。

 2人で合計3桁に上る数を狩ったので換金物はどっさりだ。これで飯と泊まり場を確保するか。


 換金所は冒険者ギルド内にあり、そこの受付嬢に渡せば鑑定してくれるといういつもと同じ流れだ。

 サントやイードより少々古びた造りのギルドへ入り中を軽く見回す。左手に受付兼換金所、右手にはパーティの集会所、奥は武器屋となっていて、酒場は無い造りになっている。集会所からいくつかの視線を感じながら受付のところに行き換金交渉に入る。

 

 「冒険者オウガと赤鬼だ。上位レベルモンストールから剥ぎ取った素材だ。鑑定して金に換えてくれ」

 

 短く名乗って素材が大量に入った袋を大きな音立ててカウンターにのせて催促する。慌てた様子ですぐに鑑定に入る受付嬢を待つことに。けっこうな量なので途中ヘルプを呼び、計3人で作業した。

 何度か驚きの声を上げながら鑑定作業すること15分、信じられないものを見るような目をしながらギルド職員たちが鑑定結果を告げる。


 鑑定結果:金貨750枚=750万ゴルバ。またも数年は遊んで暮らせる金額を手に入れました。あと数回こういうことすれば、俺たちもう働かなくて良い身分になれるね!


 換金が終わり用は済んだし、食事に行こうとしたら、「あのぉ」と声をかけられる。振り返ると職員のうち1人が用ありげな顔をしている。


 「この国のギルドでは、上位以上のレベルのモンストールを討伐した場合、特別報酬を出すきまりとなっております。討伐数が多いほどその質は高くなり、冒険者ランク昇格はもちろん、王国からの褒賞さらには土地や高い地位が与えられることもあります。

 それで、今回の特別報酬ですが...まずは赤鬼さんの冒険者ランクがSランクへ昇格されます。オウガさんは、既にランク上限なので、王国から褒賞が―「要らねぇ

 ...え?あの?」


 話が面倒そうになってきたから切り上げることに。

 「別に王国から褒賞もらったってなぁ...。赤鬼の昇格は良いとして、俺は今回の換金してもらったこの金でいいよ。

 それに、今この国そのものが不景気だろ?俺一人に対して色々するよりも、この国の為に動いた方が良いんじゃないのか?」


 ひらひらと手を振って去る俺に対して職員たちは揃って呆気にとられたままだった。

 自分への褒賞よりも国のことを優先させようとする俺。良い奴だろ?そう俺は時に謙虚で良い人間になったりもするのだ。今日の俺はそういう感じで行こうかな。


 と、思っていたのだが、この後すぐにその気持ちは霧散されることになる。



 「おっとぉ!?ちょい待ちなぁモヤシの兄ちゃん」


 ......来るかもしれないと用心はしていたが、まさかの身の程知らずの愚者どもが絡んできたからである。


 俺たちを囲むようにして立ち塞がったため歩みを止めさせられる。数は5人、上位クラスのパーティだ。


 「今さっき随分な換金をしていたよな?お前みたいな格好したモヤシ君が、あんなにどっさりモンストールの、それも上位レベルのを狩ったのかって?そんな赤いガールフレンドちゃんを連れてよぉ」

 「どうせ、手練れ冒険者の荷物係りで換金しにきたクチだろうが。それなのに自分の物のように報酬受け取っているのは感心しないな~。」

 「だから、報酬とガールフレンドをここに置いて、さっさと――


 それ以上は、聞くに堪えなかった。

 さっきまでの良心が完全に消えて、ついでに感情も消えて、真っ黒な眼窩を見開いて、手にしていた金貨を思い切り握る。


 何回か金属が潰れる音がしてから手を開く。そこには、砂金と化した金貨の残骸があった。


 「「「「「――え.........??」」」」」


 絡んできたゴミどもは嘘だろと言いたそうに間抜け面でその様を見た。ギルド職員どもも同様だった。

 どうやらこの世界における金貨の硬質は、攻撃力4桁の力で叩きつけたり握り潰そうとしてもビクともしないくらいの硬さらしい。それが素手で砂粒になるまで粉々にされたのだから、驚天動地ものだろうな。


 一歩、俺が動く。感情が消えた目で5人のゴミを見回しながら。砂になった金貨と俺を交互に見ながら5人はヒィッと後ずさる。

 俺がもう一歩進もうとした時、アレンが俺の前に立ち、5人を威圧しだした。5人はもちろん、少し離れたところから息を呑む気配もした。アレンの強大な戦気に当てられたのだろう。感知できたところ...そいつは魔族か?ま、今はどうでもいい。


 「次は無い。早く消えて」

 

 アレンは短く、殺気を乗せてそう発した。効果はてき面だったようで、5人の愚者は情けなくギルドから出て行った。

 ゴミが消えた後も、ギルド内の重たい空気は解消されなかった。アレンはフンと鼻を鳴らし、俺の手を引いてギルドを出た。


 「意外だったな。アレンがあそこで動くなんて」

 「ん、さっきのは私も少し腹を立てたから...余計だった?」

 「いや全然。あのゴミどもも運が良い。アレンが動かなかったら、今頃冒険者を廃業せざるを得なかったろうな...もしかして助けたりした?」

 「違うよ。私がそうしたかっただけ。コウガを不快にさせる人たちは要らないと思ってるし」


 何だか、アレンの思考も俺に似てきたな。少し前...サント王国でのギルド、登録して初クエスト受注した時では、アレンはああいう行動には出なかった。あれから少ししか経っていないが、俺たちは距離が縮み親しい仲間になるくらいに親交を深めた。

 アレンも、変わったんだな。俺にとって良い方向に。


 (次...無いと思いたいがさっきみたいなクソ絡みしてきた奴は、俺を貶すだけなら四肢を落とすだけにして、アレンに下卑た視線と発言寄越したら...プラス惨殺刑だ)



 心の中でそう決意して、この国でいちばん高い食事処に入る。酒場兼ファミレスみたいな構造の店に入り、何人前か分からない量の料理を注文して二人でがっついた。

 午後もいっぱい狩る予定だから特にアレンには栄養たっぷり摂ってほしい。俺と出会う前は食うのにも困っていたくらいだったらしいからな。その頃の飢えを帳消しにするくらい満足してもらいたいものだ。


 食べ終わってあの料理美味かったねなどと雑談していると、酒気を帯びた、煌びやかな装備をした大男がのしのしと歩く気配が。そいつが俺たちの席の横まで来た時、アレンを見るとたいそうテンション上げて彼女に話しかけてきた。


 「おお!何と好みな女だ!お主、名は何という!?」


 (......はぁ、ここでもか)


 完全に出来上がった状態の大男、顔年齢は20代といったところ。こいつの存在に気付いた周りの客たちがひそひそと声を出す。


 「あの大男、知ってるぞ。王族でありながら冒険者稼業もやっている戦士、ダグドだ」

 「冒険者ランクはB。国内では指折りの実力者だ...女癖が悪いのも指折りクラスだってな」

 「かわいそうに、あの薄着のねーちゃん。それに同席してるにーちゃんも。あの男、他人の女を寝取ることも多いらしいからな」


 などと目の前にいる大男のクソみたいな情報を聞き取る。つまりこいつは俺にとって害になる存在か?自分の下卑た欲求の為に他人に害をなしたクズ、といったところか。


 「...名前、赤鬼」

 「赤鬼?それはコードネームか?我が聞いてるのは本当の名前だ!申してくれよ!我はダグド、コードネームは“牛鬼”!冒険者ランクBでもうじきAに昇格する予定だ。ネームに同じ“鬼”入ってる者同士、相性良いのではないか?なに、我は女の扱いには慣れてる。まずは一緒に飲もうではないか!」


 一方的にアレンに語りかけ飲みの同席に誘ってくる。対するアレンは顔を不快気に歪ませながら席を立って出ようとする。それに続いて俺も席を立ち、勘定を済ませに行く。

 その間あのデカクズはしつこくアレンに付きまとう。勘定済ませた俺は、アレンと奴の間に入って遠ざける。そこでようやく俺の存在に気付いた様子で、何だお前はと言わんばかりに睨みつける。

 

 「俺の連れ...いや女、か?とにかく口説いてんじゃねーよ諦めろ」

 

 俺の女発言したことにアレンがうぅ...と照れた反応をしたことは置いといて。今のところこいつは口説いてるだけ。このまま退くなら騒ぎにはしないが、逆上して俺をキレさせたら――


 「貴様には用は無い貧相男。それに、王族である我にそんな口を利くとは死にたいのか?まぁ、その女を置いて消えるなら命はとらないでいてやろう―どけ!」


 そうほざいて、俺を張り手で突き飛ばしやがった。


 (――――ブチン...!)


 

 このあと、俺がブチ切れて目の前のクソデカクズ野郎を殺すまで、約5秒前―― 

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