間話その2
ミーシャ視点
お兄様の言ったことが信じられなかった。今この人は、彼をここで見捨てると言ったのだ。モンストールとともにあの廃墟を埋めて、私たちは彼を、コウガさんを捨てて撤退するのだ。
「何を言うのですか!?甲斐田君を、見殺しにするのですか!?そんなこと...!!」
彼の先生であるミワさんがお兄様につかみかからんとばかりに詰め寄るが、ブラット兵長や彼女の生徒たちに抑えられる。その間もお兄様は、コウガさんを切ることの正当性を淡々と述べる。
しかし、次の言葉は彼女に聞こえないように、コウガさんを見下しながら冷酷に放った。
「それに、あんなハズレ者が今後の戦いで活躍するとは思えん。ここで死ぬのも、遠くない未来で死ぬのも同じだろう。
...そもそも、お前たちの召喚にいくら時間と努力、魔力を費やしたと思う?身を削る思いでようやく叶った召喚かと思えば、あんな男が混ざっているとは。不要な駒はここで切っておくべきだ。」
耳を疑った。だが確かに、お兄様はコウガさんを不要なゴミ扱いした。直後、お兄様の方針に賛同する空気になり、ミワさん以外誰もコウガさんを助けようとはしなかった。私が戦えたら、彼を今すぐ助けに行ったのに…。危険を承知で、非戦闘員ながらここまで来ておいて、目の前で死にかけている仲間をただ見ていることしかできない自分が情けなく感じる…。
そして、お兄様の命令通り、廃墟が破壊され、モンストールとともに、コウガさんは…地下深くへ落ちてしまった。
その時私は見てしまった。落ちる直前、コウガさんの眼を…。その眼は、怒りと憎しみに満ちたものだった。まるで世界の全てを滅ぼしてやろうと言わんとする眼差しをしていた…。
コウガさんがいなくなった廃墟跡地を悲しげに見た私は、お兄様に抗議した。
「どうして、どうしてこんなことを…。あの人は助けられたはず…!こんなの、あんまりです…!」
「お前まで言うかミーシャ。あの男は、余だけではなく、お前や父上も不敬な態度をとっていた。そのくせに貧弱な職業とステータスときた…。そんな奴を助けて我らになんの得がある?ここで切り捨てることが、ドラグニア王国の負担を減らすことになれるのだ!」
「本気で…言っているのですか…?私は、彼を死なせたくありません…!」
「なぜあんな男に肩入れする?価値無きグズに構うほど、今のこの世界は甘くないのだぞ?もう奴のことは忘れろ。この召喚組を強くさせる方針を考えるのがお前の役目だ。お前が練る戦略は、世界で一二を争う程に優秀なのだからな。」
そう言ってお兄様は、兵団と召喚組を率いてこの場を去った。後に残った私はもう一度廃墟の跡地を見つめて、かすれるように呟いた。
「ごめんなさい。全ては―私のせいです…。」
城に帰還した後、謁見の間に全員を集め、国王であるカドゥラお父様が今後の方針を説明した。その内容は、実は私が提案したことなのだが、それを知るのは、お父様とお兄様、そして後宮にいるお母さまだけだ。
一人一人が兵士数十人分の戦力を持つ人が30人以上も同じ国にいると、世界各国の軍事バランスを大きく揺るがしてしまう。それによる他国との親交が途絶えるのを防ぐため、同盟国全てに召喚人を均等に派遣する。これが、私が考えた最善の政策だ。
私にできることは、こうやってモンストールに勝利する戦略を練り続けることだ。体がひ弱な分、頭脳でカバーすることしかない。
だから、恵まれないステータスに苦しんでいるコウガさんの気持ちが、私には痛いほど理解できた。恵まれていないにもかかわらず、それでも折れずに鍛錬している彼を、私は目を離せなかった。
彼を見ていると、私も頑張れる気持ちになれた。彼が頑張っているところを見ると、元気が出る気がした。
「…一度で良かったから、コウガさんとお話ししたかったなぁ…」
いくら呟いても、彼が訓練場で鍛錬しているところを見ることは、もうない。
「ごめんなさい...ごめんなさい...」
後悔に苛まれ、いない相手に謝罪の言葉を呟きながら、私は自室で布団にくるまって眠りについた。
次の更新少し空けます。
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