26話「メンドイ...。」

 気が付けば、私は悲鳴を上げていた。オウガさんが放った水魔法がエーレの炎を消した時は、彼の勝利かに思えた。けれどダメージをくらっていたのは彼の方だった。 

 エーレの放電をくらい、殴られもして、酷い攻撃を容赦無く浴びせられていく。オウガさんでさえも手に負えないのかと、私は絶望した。


 しかし、彼はエーレの攻撃を受けても平然としていた。すぐさま攻撃態勢に入ると――

 私が今まで見たこともない圧倒的な力で、エーレを消し飛ばした...!


                *


 上半身が消し飛んだ状態でも、素材は多く回収できる。毛、尻尾、鱗、そして宝玉など様々だ。特に宝玉は、Gランクの魔物ならほぼ確実に剥ぎ取れるレア素材だ。売ればかなりの金になる。

 アレンも途中から剥ぎ取りに参加し、2人で素材を袋に詰めて持ち運ぶ。その最中、さっきの技について、「どうやればできるようになるのか」、「魔力の込め方が知りたい」などと、鼻息を荒げてしきりに聞いてくるアレンに少し気圧されながらも丁寧に応答した。解説してもあんまり理解してはもらえなかったが...。

 袋の中身が腹八分目くらいの量になったところで剥ぎ取りを終え、残りの残骸は燃やして灰にした。後はギルドへ帰って報告と弁償だ。アレンを連れてロンソー村を後にしようとしたが、そこで大声で待ったがかかった。女の声からしてクィンか。


 「オウガさん、あなたは何者なんです!?あのエーレの攻撃を2度もモロに受けても平然としていて...というか、もう傷が治っているじゃありませんか!!それに、さっきのあなたの攻撃、素手でエーレを消しませんでしたか!?サント王国で登録されている冒険者でいちばんランクが高い方でも、あそこまでの力はありません!いつから冒険者になっていたのですか!?どこでそんな力を得たのですか!?」


 一気に質問攻めでまくし立ててくる。しかも一文喋るごとに俺に詰め寄ってくる。だんだん俺との距離を縮めてくる彼女にアレンが少しムッとしていた。

 そういえば、爛れた両手と断裂しまくっていた筋肉がいつの間にか治っていた。あの程度のダメージなら、再生に1分も要らないのか。治癒魔法要らずで便利だ。

 というか、ああもう、うるさい近い汗くさい(が、少しいい匂い)めんどい。初対面の異性に普通ここまでグイグイくるかよ?


 「落ち着け。俺から言うことは一つ、俺のこの力のことは他言無用だ。後ろにいる兵士たちと気を失ってる隊長さんにも伝えておけ。これ以上話すことは無い。じゃあな」


 と、やっつけな感じで引っぺがし、さっさと村を出ようとするも、クィンがまだ話は終わっていないと食い下がる。


 「待ってください!あなたのような力を持つ人をほっとくわけにはいきません!私たちと王宮へ同行していただけないでしょうか?あなたが兵団に入って下されば、モンストールの討伐にも大きく「―うるさいなぁ」―っ!?」


 しつこい態度に不快感を抱き、魔力を込めた低い声で黙らせる。


 「一応、成り行きでお前らを助けた形になったってのに、出てくる言葉は、お前は何者かだ、我々と王宮へ来いだと、自分の要求ばかりかよ?図太くてウザい。俺が不快に思う典型的な人間だよテメー」


 俺の言葉にクィンがはっと息を詰まらせ、申し訳ない様子で頭を下げる。


 「...そうでした。勝手なことばかり叫んでしまい大変失礼いたしました。深くお詫び申し上げます...。あまりにも非常識な光景を目にしてしまい、気が動転してつい...ああ、いえ、隊長と私と仲間たちを窮地から救っていただき、ありがとうございました!...あの、できれば、お礼をさせていただきたいのですが...」


 いい奴なのか、ヤな奴なのかどっちだよ。メンドい女...。


 「お礼、ね。なら、俺たちはこれからギルドへ行って色々用事を済ませるから、その後、ギルドで落ち合ってそのお礼とやらをしてもらうってのはどう?食事しながら待つんで」


 「...王国への報告が少し長引くので、明日以降ではダメでしょうか...?」


 あまりにも困り切った表情(けっこうかわいい)で言ってくるので、それでいいと妥協する。今は、金がいっぱい欲しいしな。


 「...最後に、もう一つ。オウガってコードネームですよね?よければ、本名を教えていただけますでしょうか?」

 「それはダメだな。どうしても知りたいなら、俺から信頼を得ることだな。隣にいるアレンみたいにな」

 

 アレンの肩に手を乗せる。するとアレンがクィンを見てむふーとドヤ顔をきめる。


 「...そうですか。では、そのうちあなたから信頼を勝ち取らせていただきます!改めて、本当にありがとうございました!!」


 断られたのに、なぜか嬉しそうに顔をほころばせて信頼勝ち取り宣言しやがった。あーあ、これ絶対あとあと面倒事になってきそう...。

 再び頭を下げてお礼の言葉を言うクィンを尻目に、俺たちはロンソー村を出た。



                *


 「クィンって人、コウガの信頼を得るーって言ってたね?」

 「あーーそだね。あんまり構わないで欲しいんだけどな。まぁ。悪意は無いみたいだから放っといてもいいかもな」


 帰り道、歩きながら雑談に花を咲かせていると、アレンが先程のクィンのことを掘り返す。何つーか、人の心にずけずけと入ってくるタイプみたいな女だった。けど、見た目は俺のタイプではあった。悪い奴ではないだろうし、メル友とか飲み仲間とかのノリで絡むも良いかもな。


 「...コウガ、あの人のことかわいいとか思ってる...?」

 「イイエー、ソンナコトオモッテマセンゾー」


 アレンに見透かされ少し動揺するが、すぐ隠した。しかし、王国に着くまでの間、アレンにジト目で見つめられっぱなしにされる刑が執行され、体中に穴が開く思いをした。

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