20話「親交」
アレンの食事が終えた後、サント王国方向へ洞窟を進む。
「鬼族は獣種の魔物とか、人も...食えたりとかするのか?」
そういえば何気に獣種を生で食っていたことをスルーしてたが、鬼族ってそういう食習慣があるのだろうか。
「蟲以外なら、基本肉は何でも食べられる。でも人族はあまり食べない。さっきの殺した冒険者もひとかけらも食べてない。鬼族には、人族は食べないって決まりがあったから」
さっき言ってた魔族と人族の相互不可侵というやつか。人族との争いを避けるためだろうな。ただでさえ今はモンストールとも争っている時代。下手に敵をつくらないように不干渉でいようという姿勢か。
道中飛び出してくる獣種、蟲種を軽くいなし、出口へ向かう。その間、雑談も少々はさみながら。会話しているうちに、お互いすっかり打ち解けられ、アレンの表情も和らいでいるように見えた。
「平和になったら、村を再興するんだけど、コウガも、よかったら一緒に暮らさない?鬼族じゃないけど、コウガならみんな歓迎してくれると、思う」
「そうかぁ?俺なんか動く死体の元人間の得体の知れない何かだぞ?まぁ一応、血は通っているし、心臓も動いている。この体の構造は俺でも全く分かってねーんだよなぁ...。理性もあるし、あの瘴気に死体をこうやって動かす成分か何かあったのかもな」
するとアレンが俺の服の中に手を入れて胸あたりに触れてきた。
「アレン...?ナニヲナサッテルンデ?」
思わず片言になる俺をよそにアレンはしばらく胸に手を当て、やがてゆっくり手を引いた。少し頬を赤らめてこっちを見ながら、
「コウガの体、死んだように冷たい。けど、心臓はちゃんと動いてる。血も冷たいのかな?変わった体...ふふ、面白い」
と笑いかけてくる。
いつぶりだろうか。クラスメイトどもの悪意のある笑みではなく、こんな屈託のない、無邪気な笑顔を向けられたのは。元の世界でも、この世界でも向けられなかった笑顔を。
冷たくなっている体にほんの少し温もりが感じられた気がした。知らずのうちに俺の口元にも笑みが浮かんでいた。ずっと孤独だった俺にいつぶりかの親しくなれそうな仲間ができた気がした。
*
ひたすら進み、ようやく光が見えてきた。出口が近い。
と、一歩進めたその時、地響きがして足元が揺れた。何だと思うより先に後ろに跳ぶ。すると地中から、何かが飛び出してくる。土属性の魔物かと思ったが、すぐに違うと気付いた。
なぜなら、あの瘴気が漂っていたからだ。
「想定外の事態に備えてはいたが、ここで出てくるか...」
やがて土煙が晴れ、飛び出した奴があらわになる。そいつはあの暗闇の地底で何度も戦ってきた奴と同じだ。隣にいるアレンがかすかに動揺しながら呟く。
「どうしてここに、モンストールが...!?」
体長5mはあるモンストールが俺たちを睨み、大きく吼えた。
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