次の仕事

 


「まあ、アンナの処遇は置いておくことにしても、子供たちの教育は必ず誰かがやらなければならないことだ。そうでなければせっかく助けたのに殺してしまうしかないだろう。参謀が失敗することは確実だからな。慢心した子供たちを決して放置はできないのだよ、強すぎるからな」


「白鴎騎士団の団長に管理させるというのはどうでしょうか?」


 確かに、一時的になら効果があるだろう。だが。


「それでは今は制御できても、子供たちが大人になったら暴走するのは確実なのだよ。国のためにそれは出来ない」


「そうかもしれませんね」


 当然すぎる話だ。


「だからクルよ。志願者が全員失敗したらでいい。お主がやってくれ。そうでなければお主の輝石を失った意味がなくなってしまう」


「さっきも言ったけど、どれだけ大事なものだったとしても任務に必要だったから無くしたんだ。そんなものに拘る必要はないよ」


「それでも余は拘りたいのだ」


 ぼくはため息をついて頷く。


「わかった。でも約束するのは子供たちの心を折ることだけだ。無条件でぼくの下に引き取る約束はしないから」


「それでいい」


 国王は満足げに頷く。たいがいにしておけよ。


「それで、ぼくをこの場に残した理由はそれだけ?」


「いや、本題はアンナのことだ。呪いのことは聞いているのだろう?」


「敵を引き付ける呪いか?」


「そうだ。その呪いを解きたいのだ。方法を知らないか?」


「知らないな。だが、村から持ってきた資料に載っているかもしれない」


「ではその資料を調べて、その呪いを解いてほしい」


「なんでぼくが?資料は提出したはずだ。学者なり専門家なりにでもやらせればいいだろう」


 ぼくは忙しいのだ。


「時間がないのだ。アンナに一番強力な呪いをかけられているという事実はわかっているのだが、それでも程度の差はあるが、子供たち全員に同じ種類の呪いが掛けられているからな。それを放置しておける猶予など一日もないだろう。呪いによって呼び出されるのが大したことのない魔物なら撃退が出来る。だが、万が一トール村を滅ぼした悪魔ぐらいの力を持っているのなら、この国は簡単に亡びるだろう。クルにとっても国自体はともかく、無辜の民が虐殺されることは認められないだろう?」


「まあね」


 ぼくは皇子と言う仕事に就いているのだ。自分の民を救うのは当然仕事に含まれるだろう。


「提出した資料の情報を全て使い、呪いを解除する方法を見つけてほしい」


「嫌だね。そんな無駄なこと」


 だが、このぼくがそこまで無能だと思われているのが許せない。


「なに?どういうことだ?」


「具体的ではないけれど、ある程度の目途は立っているってことだよ。呪いが解けるまでに時間はかからないから、別に王都を出る必要はない。次の魔物が襲ってくる前には治せるだろうさ」


「なに?なら何故トール村で解呪しなかった?」


 第一がぼくに頭の悪い質問をする。


「国王からそんな指示は受けていないからな。もしもなんらかの呪いを利用するような考えがあるのなら問題だと思ったんだ」


「そんなものあるわけがないだろう!」


「ぼくはその判断を下していい立場じゃない。絶対にない、あるいはそうしろとの指示がないのなら勝手な判断をするべきじゃない。あの村のやり方は世間に知られているのだから、国王たちがその程度の深さの考えを持っていると思うのは当たり前のことだ」


 ぼくの当たり前の言葉に第一が反論する。


「たった一つの村の情報を、そんなに詳しく持っているわけがないだろう!」


「成る程、世界最強の実力を持つ村というのはおまえたちにとっては、その辺にある村の一つぐらいの認識だということか?」


「そうではないが!」


 自分ではわかっていなくても、おまえの言っていることはそういうことなのだよ。


 これだから無能は度し難い。


「やめよ。確かに余たちの認識不足だ。クルの考えは想定できる内容だった。クル、どのぐらいの時間が必要だ?」


「呪いのことを調べる時間は必要がない。問題は方法だ。道具がいるとしたら何が必要で、どのぐらい必要かということだ。二十人分だからな。それが用意できるとは限らない」


「わかった。宝物庫への立ち入りを許可しよう。必要なものを持ち出すがいい」


「一応の確認だが、子供たち全員の呪いを解いていいんだな?」


「かまわん。子供たちの呪いを解いたらちゃんと余に報告するのだぞ」


「ぼくが直接?暇じゃないんだが」


 誰かに伝言しておきたいのだが。


「直接、顔を見なければ安心できんのだ。突然何をするかわからんからな」


「王都に来てから、今までの間に一度たりとも国の不利益になることはしていないよ」


「それはちゃんとわかっている。だがクル以外の誰も理解できないことをされても、こちらも反応に困るのも事実だ。せめてお前の考えを他人に上手く伝えることが出来るような間に立つ人間が存在するのならよいのだが。オルトの奴も凡人には理解できない思考をしているからな」


 国王はため息をついた。


 それはとても重そうな感じがした。


「一々、そこまで干渉される筋合いはないよ。じゃあ」


 一難去ってまた一難。いい加減解放してほしい。

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