やべぇ展開の始まり
「ふんぎぎぎぎぎぎ…」
こちらマサキ。
お母さん、ハクトウワシがコストコで爆買いした荷物を背負っているので背骨が一つ残らずヘルニアになりそうです。
「…大丈夫?私が持つわよ?」
「い、いや…この重さを女の子に持たせるわけには…」
ところがハクトウワシはヒュッと浮き上がると片手で荷物を持ってこちらに親指を立てた。
「…やってらんねぇ…」
フレンズの力は馬鹿みたいに強いと聞いていた。
まぁ元は動物、それが人間の大きさに引き延ばされたようなもの。
元々馬鹿力な動物が更に人間サイズの大きな筋肉を手に入れたのだから当然のような気もする。
「GoGo!サッサと帰りましょう!」
ルンルンとハクトウワシが飛びながら言う。
「なぁ、何でそんなに買い込むんだ?」
「Of course、みんなで沢山の食べ物を一緒に食べれるからよ!」
ハクトウワシがニッと笑い、透き通るような白髪から眩しい程の笑みと長い睫毛が見える。
ぎゃあかわいい。変な所あるけど。
「そっか…じゃあ帰ったらみんなで飯だな!」
「Let's!Dark鍋…」(暗黒微笑)
嘘だろコイツこんだけの具材買っといて闇鍋にするつもりなのか。
「バス停はどこだったかしら、海沿いは景色が同じすぎて分からな-
ヌッと大きな影がハクトウワシに覆い被さる。
それは大きなタコの様な触手。
音もなく突然現れたそれに反応する暇も与えられず、ハクトウワシが大きな袋を放り投げて海に引き摺り込まれる。
「えっ…え、ハクトウワシっ!!」
パンの小袋が千切れて溢れる。
水面には波紋と気泡が残される。
ヤバい、ヤバいヤバいヤバい。
あまりに一瞬の出来事に頭が回らない。
動転したまま海に飛び込んだ。
バシャン
潮がしみて目が痛い。
3メートル位下に化け物とハクトウワシがいた。
ハクトウワシは触手にがんじがらめにされて動けない様だった。
「バボバボバボ!ゴブン!」
息が続かず、水面浮き上がる。
作業着が重く、唇が塩辛い。
「はぁ、はぁ、ハクトウワシ!」
もう一度潜り込む。
しかし相手は更に奥へと沈み込もうとしている。
ハクトウワシは最早意識を失っているようだった。
だめだダメだ、もっと深くまで潜らなきゃ!
そう頭では分かっているがテレビのように上手く下に泳ぐことはままならず、再び顔を上げる。
こんな時どうすればいい?
担当しているフレンズが海に引き摺り込まれた時どうすればいいかなんて習ってない。
どうすれば…どうすれば…?
刹那、稲光と共に白い虎が現れマサキは虹色のヴェールに包まれる。
その音は凄まじく、
閃光と共に、
マサキは深い闇の中へ…
シンヤは未だホッキョクギツネと上手く話せずにいた。
というのも、ホッキョクギツネはツンツンキャラな上に潔癖症ときた。
しかし今日はパークの休日。
研修生と関わるフレンズたちは皆、外で客と関わる事がないので実質毎日がエブリデイン゛ン゛ン゛ッな状況なのだが…
そう、今日は休日、よって行動範囲も広く取りやすい…
ホッキョクギツネと一気に距離を詰めるなら、やはりこのチャンスを逃すわけには行かないだろう。
しかし…
「ね、ねぇどうせだしさ、どこか外に出かけたりしてみないかな?たまには外で体を動かしたりとか」
「嫌よ、汚れるし新型のウイルスが流行ってる」
ホッキョクギツネはやはり部屋の隅っこで丸まったまま、ピカピカの床面を眺めている。
やべぇ、今まで出会った女の中でダントツに面倒臭い。
話そうとするからぎこちなくなり、仲良くしようとするから微妙な空気になる…
「…マコったら何で私を呼んだのよ…私は部屋でジッとしている方がいいって言ったのに…」
マフラーの中に半分首を埋めてホッキョクギツネが言う。
「…ねぇ、いつもこんな感じで部屋に閉じこもってるのか?一人でさ」
「…そうよ、外の世界は汚いわ。この部屋は真っ白で綺麗なの、それで十分だわ…他の子やヒトにも本当は会いたくないのに…」
白い睫毛から奥行きの無い青白い瞳が見える。
「…それで…寂しく無いの?」
「別に」
「…つまらなくは無いの?」
「…つまるもつまらないも分からないわ…」
「そっか…」
シンヤがおもむろに立ち上がる。
「行こう」
シンヤがホッキョクギツネの腕を掴んで、部屋の外に引きずり出そうとする。
「やっ、突然何するのよ!離して!私はこの部屋にいたいの!」
反発は強い力だった。
だが彼女は相当長い間運動していないのか、腕は細く、人間のシンヤでギリギリ勝てるくらいの弱さになっていた。
「やだ!やめなさい!毛皮を汚したく無いの!ウイルスが!」
ガチャリとノブを回して外に出る。
そこには雲の折り重なった間から光が差していて。
「行こう!つまるものを探しに!」
「…あちゃぁ…逃しちゃったニャ」
コンクリの上にハクトウワシとマサキは転がされていた。
「ゲホッ、ゲホゲホ…Oh my…」
「起きたー?」
肺に違和感がある。
相当海水を飲んでしまったみたい。
確か何かに引き摺り込まれて…その後はあんまり覚えてない。
「あのさー、ハクトウワシちゃんだっけ?」
「ゲホゲホ…yes…」
「あのさー悪いんだけどアタシがこの子気絶させちゃった事内緒にしててもらっていい?」
しーっね!しーっ!とジェスチャーをしながら白いフレンズがどこかに去っていく。
ハクトウワシはぽかんとあっけにとられたまま横を見ると、そこにもまた気絶しているマサキがいた。
「Why?!ちょっと!大丈夫?!」
えーとえーとこういう時は…そうよ!
心臓マッサージ!
「えい」パキ
あっ。
流石に海の中までは手出しできない…
でもこのまま野放しもちょっと危ない。
相手は明らかに人工のセルリアンだった。
「全く持って自然じゃないニャ…ただでさえ不安定な時期なのに…」
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