異変
僕たちのジャパリ研修はこうしてあっという間に過ぎていった。
フルルちゃんにパシられたり、背中を押されたり。
一樹はマコさんを追いかけて、また僕はフルルちゃんにパシられたり。
慣れない環境で少し大変ではあるけど、ずっと昨日と今日がが続いても僕は構わないと思えるくらいに充実した日々だったんだ。
「タクミくーん!こっちこっち!」
「タクミ〜ジャパリまんとって〜」
「フルルちゃん?!どこ行くのー!待ってー!」
「テメェ最近マコさんとベタベタしてないか…?」
充実した日々だったんだ!
ガコン
自販機からドクペを取り出す。
パシられて買ってこいと言われたが、フルルちゃんの好みはいよいよわからん。
ドクペだぞ?飲む粘土だろ(怒られる)
「ぷっはぁ〜!うまし!」
マコさんも一緒に付いてきた。
これも多分フルルちゃんが図ってくれたのか。
マコさんは既にゼロカロリーコーラを一気に半分ほど飲み干している。
汗をかき始めた缶を持って歩き始める。
「タクミ君ってさ、いっつも寮で何食べてるの?」
「えっ…いや…カップ麺とかですけど」
「えっ?ハゲちゃうよ?」
「ハッ…ゲって大丈夫ですよ!」
「ウフフッ、じゃあー、今日私の寮に来てご飯食べてかない?」
「フルルもいくー」
ゲゲゲゲゲッ!
今いいとこだっただろ!
しかも何でここにいんの????
というか、もしかしてずっと付いてきてたの?
「フルルちゃん!いいよー!おいで!」
「んー!」
やっべえ。
いよいよ何考えてるのか全くわからん…
そして本当について来やがった。
やめろって、一樹がめっちゃ見てる、見てるよ!
僕がマコさんたちと同じ停留所で降りると、一樹は映画でしか見たことのないあの"二本指"のジェスチャーで、「見てるからな」を表現した。
マコさんの寮があるのは平原で、寮と言うよりもその外観はマンションのようだ。
その3階にマコさんの部屋はある。
流行りの映画に乗せて言ってみるならば、童貞の僕はもちろん、
「こ、これって…女子の部屋初潜入?!?!」
こんな感じの心理状態である。
綺麗なお姉さんのお部屋は如何に…
マコさんがガチャリとドアを開けた。
「たっだいま〜!」
「お帰りなさい」
ん?
何?今の太い声。
「二人連れて来ちゃったんだけどいい?」
「あら。お連れさんなんて珍しいわね」
廊下の奥からドシンドシンと音が聞こえてくる。
僕の前に現れたのは紛れも無く初号機だった。
「初めまして。サチコです」
「あ。僕…研修生のタっ、タクミです…」
「フルル〜」
「随分と可愛らしいお客様だこと。さぁ、今からご飯を作るので中に入って待っていてちょうだい」
靴を脱いで部屋に上がる。
デケェ…190はありそうだ…
胸?胸板、いや鉄板の間違いだろ…
横を通り過ぎるときの威圧感たるや半端なものではない。
「おっ!カレー作れるじゃん!タクミ君、フルルちゃん、カレーでいい?」
「うんー!」
「お願いしま…って手伝いますよ!」
「いーのいーの」
マコさんは綺麗な手で野菜室から人参や玉ねぎを取り出してリズムよく刻みはじめた。
「フルルちゃん、辛い食べ物は大丈夫?」
サチコさんはそういいながら明らかに片手で持てるサイズではない鍋を軽々とコンロに乗せた。
一樹も呼んでおけばよかったかな。
ちょっと可哀想な気もする…
というか…
「フルルちゃん、なんでいいところだったのに付いてきたの?せっかくチャンスだったじゃん(小声)」
「タクミはフルルに任せておけばいいのー(小声)」
「フフッ、二人とも仲がいいのね!」
別にっ…と叫びたかったがそう言う事でもない。
まあ、どうせ一人で来てもサチコさんいたし…
「かーんせーい!」
「はいお水」
「ありがとうございます」
「いただきまーす」
フルルちゃん食べ始めるの早いな…
サチコさんの皿はみんなの物より一回りデカイ…
フルルちゃんも食べ終わっておかわりを始めた。
「タクミ君、おいしい?」
「はい、とっても!」
久しぶりだ…まともな飯食べたのは…
バイトできないから金も出ないしカップラーメンしか食べれなかったけど…しかも一日2食。
「沢山おかわりしていいんだからね?」
「食べないと強くなれないわよ。はい、おかわりのもう一杯」
サチコさんに山盛りのカレー(二杯目)を盛られた。
飯トレを思い出すな…
フルルちゃんは…三杯目?!?!
絶対胃の中にブラックホールあるだろ…
スプーンをカレーに突っ込んだ時だった。
大きな地鳴りが夕闇を引き裂く。
「きゃあっ!」
「うわっ?!何だこれ!」
「んっ!」
いきなり寮は横揺れを始め、コップの中身が溢れて出てくる。
あれを思い出した。
ガコンとマコさんの後ろにあった縦長のタンスが傾いたかと思うと、倒れかかってきた。
「マコさん危ないっ!」
「ふん!」
サチコさんがバシンと張り手でタンスを黙らせた。
ナイス初号機。
グラグラと長い揺れが続いた。
「ありがとう…サチコ…」
「なんて事ないのよ。みんな濡れてしまったみたいね。タオルが必要かしら」
「あ、僕は大丈夫です」
フニっと柔らかい感覚がした右腕の方を向くとフルルちゃんが抱きついていた。
…抱きついていたぁ?!?!
てか…胸っていうかなんていうかあのそのあのあれですよアレが当たってますよ…
だが当の本人は本気で怯えている。
ガクガク震えて涙目になってしまって。
パークは本州からかなり離れた所にあるので、地震なんて殆どない、あっても感じない程度のようだったが、こんな揺れは初めてなんじゃないだろうか。
「なんで…こんな赤いの…?」
「気味が悪いわね」
マコとサチコは窓から顔を出して周りを見渡すと、火山の火口の方で光を見た。
赤い電流、火花、煙。
慄いて飛び立つカラス達がくっきり見える。
それは、まるで大地が血を流しているかのよう。
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