あの子と出会い


バスに揺られ、数分。

次の停留所に着くと、マコさんが乗ってきた。


「おっはよー君たち!しっかりおっきしてる?」


「自分!ガンガン起きてます!!」


「か、かろうじて…」


まだ日は登っていない。

少し肌寒いほどの風が腕を、首をつたって体を洗っていく。

土と、塩の匂い。

それもしばらくすると、木の匂いに変わってきた。

深呼吸が気持ちいい。


僕たちは水辺に降りた。


「んんーッ!」


だるんと胸元を開けて作業着を着ているマコさんが思い切り伸びをする。

うなじ見せつけながらそんな声だすなんて、ずるい。てかエロい。

露骨に覗くな一樹。やめとけ。


「じゃあ、アードウルフは私の担当だから、カズキ君には私がつくね!」


ガッツポーズするな一樹。ころすぞ。


「あーでも、フルルちゃん担当の人は今お休みかぁー、じゃあそっちも私がみるよ」


睨むな一樹。こわいぞ。



「こっちがー、フルルちゃんの部屋っ!」


マコさんがノックしろとジェスチャーをする。

勇気を出して行くしかない。


「よぉし…」


息を吸ってノブに手を伸ばしたその時−


ガチャっとドアが開いて僕は鼻を思い切りドアにキスさせた。


「あれ?あっ、ごめんなさい…」


思わず衝撃で尻餅をつく。

マコさんと一樹、めっちゃ笑ってんじゃん。

赤くなった鼻をさする。

涙が出てくるよ。


「痛たた…」


「大丈夫ー?」


フワッとした感謝が鼻を包む。

僕も前に立って居たのは劇的美少女だった。

けど今は鼻がいてぇ。

しばらく間があって、何が僕の鼻に触れているのが彼女の手だと分かった瞬間、恥ずかしさで赤くなって思わず顔を引っ込めた。−マコさんと一樹はさらに大爆笑した−


「き、気にしないで…」


嘘だろ?

こんな可愛い子と研修だってのか?

僕は急いで立ち上がった。


目の前のフレンズ、フルルは以外に小さい。160センチ弱程だろうか。

あどけなさが残る顔立ちだが、その体は…

ななななななななな何を考えてるんだ拓海!

しっかりするんだ!


「もしかしてー、私の飼育員の、けんしゅー?に来たヒトー?」


「そ、そうです、タクミって言います」


「タクミ…タクミ…いいね。フルルはフルルだよ」


なんだこの子の間延びした話し方は…

I.Qが溶けそうだ。

ちょっとそこ!

マコさん!一樹!ニヤニヤすんな!


というか、フレンズの年齢ってせいぜい13〜18位な感じがするから…

この子中高生に近いのか…

飼育って…犯罪チックな感じがする…


「し、飼育員さんには何て呼ばれてるの?」


「フルルはフルルちゃんって呼ばれてるの。タクミは飼育員さんになんてよばれてるのー?」


「タクミ君には飼育員はいないんだよ。フルルちゃん、タクミさん、って呼んであげて!」


マコさん、ナイスフォロー。


「タクミさんー」


「フルルちゃん…」


「よろしく〜」

「よろしくお願いします」


「「尊い…」」


言うな!



アードウルフはマコさんの担当なので、一樹は両方にデレデレしながらスクールライフ?を満喫している。さながらハーレム。

こっちはと言うと…

ぶっちゃけ初デートの時より気まずい…

どう接したらいいのか、とっつき方がぜんぜんわからん…


「ねぇ、タクミさん、ジャパリまん食べるー?」


「あっ、ありがとう…」


フルルちゃんはウフッとわらうとジャパリまんを咥えた。

今、瞬きしてなかったら心臓発作で間違いなく逝去してた。


「フ、フルルちゃんって、アイドル、してるんだよね」


「そうだよー」


ダメだ、会話が続かん…

誰か助けて…


ここは草はらになっていて、様々なフレンズたちと飼育員が遊んでいる。

客が入ってこない所なので、フレンズにとっては完全オフの世界なのだろう。


「ねぇー、タクミさん?」


珍しくフルルちゃんが口を開いた。

ここを逃したらもう話す事が無くなりそうだ。


「どうしたの?」


「いっしょにごろんごろんしよー?」


えっっっちょっとまっていまなんて?


「うん?」


「ごろんごろんしよーよ」


そそそそそそそそれってまさかつまりそういうこといやさすがにそれはない…いやもしかしたらなんかはつじょういべんととかなんとかでいっしょにベッドとかそう言う事なのかなーとおもっちゃったりしてそんなことなかったりして


そう言うとフルルちゃんはお腹の上に手を置いて、目を閉じてスヤスヤと昼寝を始めた。

うん。

うん。

うん。

僕も汚れたなぁとおもったようん。


「何やってんだ?俺?マジで何やってんだ?」


なんかこの仕事、意味あるのか…?

仕方がないので、僕も一緒に目を閉じた。




遠い草原の上に彼女は立って、僕を呼んでいる。

僕はそれに応えて、彼女の元へ走る。

その瞬間、地面は崩れ、空が落ちた。

僕は叫ぶ。

彼女の名前を。




「おーきーろ!おーきーろっつーの!」


激しく一樹に肩を揺すられた。

陽は暮れかかっている。

横ではまだフルルちゃんが寝ていた。


「幸せなヤツめ〜このこの〜」


マコさんが小突いてくる。

何かの夢を見た気がしてるのだけど、もう覚えてないや。

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