第22話母子の気持ちと個性的な父親 ④

 走ってきた小西さんが何か言っているがよく聞こえなかった。それで、雪が小西さんに話しかける。

「小西さん、ご連絡が付かなかったから心配になって、木田さんと一緒にご自宅に向かおうとしていたんです。」


 小西さん息を整えると一生懸命話し出す。

「申し訳ありません。【何でも屋】さんからのメールを拝見して、驚いてしまって。

本当にご迷惑とご心配をおかけしました。本当に・・・・・・。 」


 泣き出してしまった小西さん。木田さんの奥様が小西さんの背中をさすりながら、雪と一緒にゆっくりと優しく話しかける。

「どうしたの、誰も怒ってなんかいないんだから、ゆっくり落ち着いて話してね。」

「そうですよ。大丈夫ですから、落ち着いてください。」

 姿の見えなかった花がお茶を買って帰ってきた。横で小西さんに香がハンカチを渡している。

「どうぞ、飲み物を飲むと少し落ち着きますよ。」

 なかなかいいチームワークだ。木田さんの旦那さんは花と一緒に買いに行っていたのか、皆の分のお茶を持ってきて配る。木田さんの旦那さんは、落ち着けそうな場所へ皆を誘導した。

「ひとまずあそこにある公園に行こうか、娘さんは大丈夫ですか。」

「はい、娘は馬鹿な夫と一緒にいてくれています。」

 何かを思い出したのか、小西さんの顔が赤くなり目は吊り上がり口を噛み締めている。怖いので見ないようにして皆で公園へと向かう。公園について少し落ち着いたのか、お茶を飲むと小西さんが皆に話し出した。


「本当になんてお詫びしたらいいのか、皆さんにさんざんご心配をかけて【何でも屋】さんも依頼を引き受けてくださったのに。

 あのメールの添付写真に写っていたのは、私の別れた夫なんです。」

 夜の暗い静かな公園がシンとなった。さっきまで聞こえていた微かな物音すら聞こえない。

 さっきまで皆緊迫して心配していたせいで、安心して気の抜けた微妙な空気になる。誰が返答するか、お互いに顔を見合わせた結果、香が返事をした。

「そうだったんですか。それは驚かれたでしょう。」

 なんだか棒読みだったが、小西さんは勢いづいたのか話し出す。

「本当に驚きました。アメリカにいるはずの、夫が、平日に、自分の娘の後を、隠れて、ついていってる、いったい、何をしているのか。」

 声を震わせて短く区切って話している小西さん。とてもお怒りのご様子だ。

「娘の様子が怯えているみたいだと心配して、近所の頼れる木田さんに相談して【何でも屋】まで雇ってみたら、娘を怖がらせていた犯人は娘の父親でしただなんて、笑えない。

 写真を見て奴に電話をしたら出なかったので、留守電に残してメールも送りました。あなたが日本にいる事はばれている、今すぐに連絡しないのならば、今回の事を理由に弁護士をたてて争って、美香にはもう会わせない。こんな事をしている人間は娘に会えなくなって当然だって。

 奴は美香を可愛がっていたので、すぐに連絡してくると思いました。案の定すぐ電話が来たんです。私は怒りを抑えながら、どうして日本にいるのか、平日の朝から自分の娘を付けて何をしているのか、聞きました。

 そうしたら奴は、美香が変な人に攫われたりしたら大変だから、自分が見守っていたって言ったんです。」


 小西さんの迫力と、旦那さんの個性的な行動に何も言葉が出ない。

「そうですか、なんていうか個性的な方なんですね。」

「そうです、馬鹿です。奴は美香に嫌われたりしたら泣き喚くので、私言ってやりました。

 あなたが美香をつけ回してストーキングしていたのね。美香が最近怯えている様子だったけど、本人に聞いても何も言わないから、私も心配して探偵さんにお願いしたのよって。

 美香はなんて思うかしら、自分を怖がらせていたのが、実は自分の父親だったって知ったら。そのせいで周囲の人にも迷惑をかけて探偵を雇う事になったって言ったら。

 すると奴は泣きながら謝ってきました。どうか美香に言わないでと。だから私は言ってやったんです。勿論、言うわ。って・・・・・・。 ッフ。」


 木田さんの奥様が宥めるように話し出す。

「怒るのはよくわかるわ。美香ちゃんがとっても怖い思いをしたんだもの。きちんと反省させてもう2度とこういう事は起こさない様に、しっかりと躾けておかないといけないしね。」

「そうなんです。先程美香にすべてを話して、まあ私も探偵を雇ったのはやりすぎだと怒られましたが。でも心配してくれてありがとう、って美香が言ってくれたんです。」

「そうなの、優しい子ね美香ちゃんは。良かったわね。」


 意外と似た者夫婦という誰かの呟きに頷いた【何でも屋】の3人。

「今、美香がすべて聞き出してくれています。私は先に皆さんにお知らせしに行った方が良いって美香に言われて、焦っていたのかスマホで電話かメールをすればいいのに、走って会いに行こうとしてしまって。」


 どっと疲れが出てきた【何でも屋】の3人。明日もあるし帰りたいと香と花が皆を見る。

話を切り上げて帰ることにした【何でも屋】の3人。

「いえ、小西さんもお嬢さんも無事ならそれでよかったです。今日は3人でよく話し合ってください。私達はそろそろ失礼させて頂きますね。木田さん達もついて来て下さって、ありがとうございました。

 帰りは気を付けてくださいね。お茶ご馳走でした。」 

「私達も帰りますね。小西さんも今日はもう帰った方が良いわ。

皆さんも気を付けてくださいね。では、また土曜日に。」

 皆挨拶して疲れたように黙って歩きながら帰っていった。


 土曜日【何でも屋】に集まった花達3人。

 今日は小西さんが、前回の依頼の結末を詳しく話に来てくれる。

その後は、旦那さんにある場所に移動してもらう予定だ。念の為外には旦那さんの両親達が来るまで駆けつけて待機している。

 上手くいくと良いね、全部終わったらいつものように依頼解決のお祝い会をやらなきゃと話していた3人。

 今日はハードな内容を話すので攻めて好きな物で気分を上げようと美味しい朝ご飯を買ってきている。

「今日はパンにしました。明太子とポテトとチーズのバケットサンドです。」

「美味しそうね。私は梅干しのお結びにしたの。この前花が食べてたの見て美味しそうだなって思って食べたかったんだよね。種もないしね。」

「私もお結び。明太子にしたんだ。タップリ入っていて大満足。たまにはタラコ系も良いよね。」

「そうよね、タラコとか明太子とか美味しいわよね。」

 隣で買ってきたデザートのプリンとお昼と夜ご飯は冷蔵庫においておく。

小西さん達が帰ったら、ご飯を買いに行く気力が無いかもしれないので、食事は先に買って置いたのだ。


 先に木田さん達に、お茶とお手製のがバターのいい香りのするプレーンクッキーとしっとりチョコクッキーを渡しに行く。お世話になったお礼だ。

「沢山焼いたから、皆の分と花さんの叔父様ご一家の分もあるから食べてね。」

「やったー。ありがとう、雪。本当にバターのいい香りがするわ。美味しそう。」

「ありがとうございます。雪さん。チョコックッキーも柔らかくてしっとり。美味しいです。」

「カロリー高いから数を少なめにしたからね。一度に食べ過ぎると危険かもよ。」

「大丈夫よ、私ボクシングダイエットしているので。」

「私は空手です。ダイエット効果もあるので大丈夫です。」

「そうだったね。私も何か簡単で楽なもの始めようかな。この前聞いたのが歩くだけのダイエット。しかもクーラーつけて家の中を歩くの。音が響くと迷惑になるから、戸建限定だけどね。」

「私の友達で足踏み体操と踵上げ体操で、全身が綺麗に痩せていった子がいます。」

「そっちの方が簡単そうじゃない。それにする、ありがとう。」

「どういたしまして、でも気になるなら私が雪さんの分のクッキーを片付けてあげますから。」

「じゃあ、私がチョコクッキーを頂きますわ。」

 2人が取り合いを始めそうになったところで雪がお断りをする。木田さんのお家に向かう事になった。


 外に出ると、木田さんご夫妻が玄関の所にいた。ちょうど良かったと思いながら、雪が声をかける。

「おはようございます。どうなさったんですか。」

「おはようございます。皆さん。荷物が届いて受け取ってたんです。」

「そうですか、先日の件ではありがとうございました。

私達だけだと心配だからと言って尽きてきてくださって、私たち嬉しかったです。

これ、私の作ったクッキーなんですけれど良かったら召し上がって下さい。」

 いつの間にか用意していたらしい花と香も渡している。

「これは、私と鈴木からです。あっさりとしていて飲みやすいお気に入りの紅茶です。甘いものにもよく合うと思います。レモンや砂糖に牛乳とか入れても美味しいです。」

 木田さん達はお礼を言うと嬉しそうに受け取ってくれる。

「まあ、ありがとうございます。嬉しいわ、早速今日のおやつに頂きます。」

「今日は、小西さんがいらっしゃるんでしたよね。その後も上手くいくと良いですね。」

「ええ、この後詳しい説明をした後に行動に移す予定です。」

 小西さんもこの前会った時は怒っていたが、今日はきっと落ち着いているだろう。


 木田さんの奥様がほっとした様子で話している。

「無事に解決して本当に安心しました。【何でも屋】さんが写真を撮ってくれたお陰ですよ。

そうでなければ、学校と相談して美香ちゃんに話してもらって。つけられていると思うなんて話になったら警察に通報していたと思います。美香ちゃんのお父さんが捕まってたかも。そんな事になったら、家族関係も最悪になって、引っ越しもする事になったでしょうね。」

「そうですね。私達もまさか、父親だとは思いませんでした。」

 そのまま少し話して、木田さん達と別れてお店へ戻った3人。花が「マンホールの謎を聞いておかないと。」と呟いていた。


 小西さん一家が訪ねてきた。今日は元旦那さんと娘さんも一緒だ。

 挨拶をして中へ入ると、小西さん親子が3人揃って謝罪する。気にしないで下さいと小西さん親子を宥めて雪は3人にソファをすすめた。


 お互いに自己紹介をした後、小西さんの元旦那さん空が話し出す。

「妻と別れた後、アメリカで暮らすうちに自分と同じくらいの子供が誘拐されたりドラッグに溺れたり等、犯罪に巻き込まれるニュースを見るようになったんです。離れて暮らしていると心配や不安な気持ちが強くなって、会社を辞めて日本に帰る事にしたんです。

 日本に帰ってから、すぐ会いに行こうと思ったんですけれど、まだ無職で会いにくくて、転職してから会いに行くことにしたんです。でもその間心配で、美香の登下校を見守ればいいと思いつきました。アメリカでは登下校は親が車で送るんですけれど、それと同じような事をしている感覚だったんです。

 まさかその事が美香を怖がらせていたなんて思いませんでした。こっそり付いていっていたし、気付かれているとは全く思っていなかったんです。」

 ため息をついている空。まちこが小声で突っ込んでいる

「人の視線って結構感じるものだし、毎日見られていたらそれは気が付くでしょ。何言ってんのよ。」

 気が付いていない空は話をつづけた。

「それで最近就職したんですけれど、なんだか今さら顔を出しにくくて、ばれてないしこのままでも良いかなと思ったんです。年頃の娘だし送り迎えするって言って断られたらショックですしね。

 会社に行く前に学校まで見送ってという事をしていたんです。でもある日、不審そうに見られている事に気が付いたんです。

 で、どうしようか考えて地図を見ていた時に会社の近くの駐車場から学校の脇道のマンホールに地下で繋がっているのを見たんです。これだって思いました。駐車場の蓋と出口のマンホールの蓋をネットで売ってた偽物の蓋と取り換えたんです。この前までずっと上手くいっていると思っていたのに。」

 残念そうに言っている空を見て、美香は顔を赤くして俯いている。まちこは無表情で無言だった。


 美香が顔を上げて話し出す。

「今日は【何でも屋】さんにお礼を言いに来たんです。私をつけていた人が父親だと教えてくれてありがとうございました。

 母が私が言わないからと言って探偵に頼む様な事をしたのは、頭に来ていますけれど。私達の場合は2人できちんと話し合うべきでした。母もやりすぎだけど、父よりはましでした。」

 一旦黙った後、空を睨みつける美香。

「残念だなんてよくそんなことが言えるわね。このままいったら警察に逮捕されていたかもしれない事にも気づいていないなんて。呆れすぎて、もう何も言う気もおきない。心配だからって便利な言葉だね。心配って言ったら何をしても許されるとでも思っているのならそれは違う。」

 怒っている美香に、申し訳なさそうにまちこが美香と目を合わせると謝罪する。

「美香、ごめんね。これから大人へと変わっていく時で心配だった。でも美香の言うように探偵に頼んだりするのではなくてきちんと話し合うべきだったね。

 美香も、親のいう事を煩いと思ったり反抗したいと思う事もあると思う。私もそうだったからそれは分かるの。でも、私の時は今とは違ってネットもなかったし、防犯面でも今ほど危険じゃなかった。

 そういう事も含めて、今後はお互いによく話し合うようにしよう。」

「うん、分かった。私もあれこれ言われるのがうざくて。でもこれからはもう少し話し合う事にする。」

「今よりもう少しなのね。」

 そう言って苦笑したまちこに美香も苦笑いで頷いた。

「空、あなたは精神的に落ち着くまでは美香に近づかないでほしいの。あなたにはきちんと病院に通って、治療してほしいのよ。心配だからって、毎日マンホールの蓋を開けて地下を移動して相手をつけ回している。はっきり言ってあなた異常者だと思う。娘相手だから何をしても良い訳じゃないわ。

 これは今はお願いだけれど、出来ないなら引っ越すしあなたが近づけない様に今回の事を問題にして法的措置をとるわ。引っ越しも海外を視野に入れる。

 私日本以外の国でも働けるし、私達2人で暮らしていく位のお金は稼げるわ。」

「大げさだな。俺は美香を守りたかっただけなのに。」

 その言葉に、美香が空を睨みながらきつい声で話す。

「違うでしょ、あなたは自分の気持ちを押し付けて、私を怖がらせていただけよ。あなたがした事は私の生活を壊して私に恐怖を与えていただけ。お母さんの言うように異常だと思うし、そこに気が付けないのが、すでにおかしい事だよ。

 きちんと病院で治療できないのなら、私はもう会いたくない。あなたの自己満足の為に私生きている訳じゃないから。」


 美香が話した後に、まちこが続けて話す。

「娘にここまで言われても駄目なのかしら。私達あなたの両親に話したのよ。お2人が良い病院を見つけてくれたわ。きちんと治療して直せば又美香に会えるようになるわよ。

 美香に会う為にも、一緒に頑張りましょう。治療には家族や友人のサポートがあるといいそうだから。」


 黙って聞いていた空は【何でも屋】に迷惑をかけた事をもう一度謝罪すると、きちんと病院に通う事を告げる。まちこと美香にも謝罪と感謝の気持ちを伝えると、皆で挨拶をして外に出て行った。

 外では車が1台止まっていた。その車に乗り込むと空は去っていった。

「最後まで、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。説得に立ち会って下さってありがとうございました。」

「いえ、治療が上手くいって美香さんにまた会えるようになると良いですね。」

「ありがとうございます。お世話になりました。」

 お礼を言って去っていった小西母子。


 まさか最後にこんな終わり方をするなんて。でも、空さんには離婚しても友人のまちこさんと治療で治るのを待っていてくれている娘の美香さんもいる。

 上手くいきますようにと思う【何でも屋】の3人だった。

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