第53話 そして、オレは今日も隣の美少女に絡まれる

 あれから数日。

 修学旅行を終えたオレ達はいつもの日常に戻っていた。


「誠一君ー♪」


「あ、どうも。晴香さん」


「今日もいい読書日和だねー。あれ、今日はなに読んでるのー?」


「はあ、まあこの間出た『異世オレハーレム』の最新刊です。とりあえず積んでた本は修学旅行中に読み終わったんで、改めてこれの読み込みを再開しようかと」


「へ、へえー、そうなんだー。あ、でもそういえば来月にうちの一攫千金転生の最新刊が出るんだよねー。こっちも気にならないー?」


「まあ、気にならないと言えば嘘になりますが」


「そうだよねー! ……で、でさ、こ、この間の告白についてなんだけど……」


「え?」


 あれからというもの晴香さんはオレに一攫千金転生についての感想を聞いてくるのだが、それ以上にこの間の告白について訪ねてくる。

 いや、だからあれはその場の勢いというか、あなたを助けるための方便であって、それ以上の意味はないというか……と言ってもそんなことを晴香さんに言ったら怒られそうな雰囲気だし、困っている……。どうしたものかなぁ。と、そんな風に思っていると、


「先輩ー!」


「お、樹里じゃないか。久しぶりだな」


「はい! 先輩から借りてた小説、昨日のうちに全部読み込んだっすー! 早速一緒に感想言い合いたいっす!」


「お、いいぜ。って言ってもあの分量だしな。休み時間中に語れるかな……」


「あ、そ、それなら今度の休みの日、一緒に会わないっすか!? あ、アタシの家、両親いないこと多いんで先輩さえ、よければそこでいろんなことについて語り合いたいっていうか……!」


「こらー! 樹里っちー! なにちゃっかり誠一君をお家デートに誘おうとしてるのー!? 君、そんなことして一線を越えようとか企んでないー!? というか誠一君はうちに告ったんだよ! それ忘れてないー!?」


「は、はあー!? 先輩何言ってるんすか!? そんなつもりなんて全然ないっすよー! というかその告ったってやつも先輩は否定してるんっすよ! いい加減、一回の告白くらいで誠一先輩に付きまとうのやめてほしいっす! 先輩が迷惑してるっすよー!?」


「はあー!? それこそ勝手な妄言じゃん! うちは誠一君と仲良くしてるだけだよ! べ、別に告白されたからって……こ、恋人になったわけじゃないし! で、でも、せ、誠一君がそれを望むなら、それもありかなぁ……なんて……」


「というわけで誠一先輩! 今度の日曜日約束っすよー!」


「あ、ああ、そうだな」


「ってこらー!! 誠一君まで軽々しく約束しないのー!!」


 和気あいあいとオレを中心にヒートアップする晴香さんと樹里。

 やがて、別のクラスから亮がやってきて、それに付随するように勤太もオレの周りに集まり、ラノベ話で盛り上がる。

 見ればオレの周りもすっかり賑やかなになったものだ。

 最初はそれこそ、オレの隣にいる華流院さんとの言い合い――いや、彼女からの絡み合いから始まったはずなのに。


「――誠一君」


 そして、そんな賑やかなオレ達の輪に、それまで隣で涼しい顔をして読書をしていた華流院さんが声をかけてくる。


「今日も賑やかな」


「あ、ああ、そうだね。隣うるさくないですか? 華流院さん」


「別に今更慣れっこよ」


「ははっ、そうですか」


 そう言いながらも彼女の視線はオレが手に持つ異世オレハーレムの最新刊に移る。


「……その本、修学旅行の時のやつと違うわね」


「え、わかるんですか?」


「わかるわよ。それもボロボロだけど、修学旅行の時のやつはもっとボロボロだった。それに貼ってあるラベルの数も違う。新しく買ったの?」


「まあ、そういうことですね。修学旅行の時のやつは読み込みすぎて痛みすぎましたから、今は本棚に保管してます」


「そう」


 そう言って視線を外し、華流院さんは読んでいた読書を再開する。

 しばしの沈黙が流れるが、それを打ち消すように彼女はいつもの質問をする。


「で、改めて再読して異世オレハーレムはどう?」


「うん、やっぱり何度読んでもクソですね」


「そう、ちなみにどのあたりがダメだった?」


「そりゃやっぱり冒頭の展開でしょう。あと再読することで気づきましたがせっかくの最新刊の伏線がこれまでの展開のせいで生かされていません。どうせ、ここを活用するなら前巻のうちにこれをやっていれば……」


 彼女からのその問いにはオレは変わらず答える。

 いつものディスり合い、ダメ出し、異世オレハーレムへの批判。

 最初の頃は、それを言い合うたびに華流院さんに絡まれたりもしたが、今の彼女はオレからのそんな批判も笑顔で受け止め、心なしかそれを喜んでいるようにも見えた。


「というわけで、ここらへんがダメですね。作者がいるなら、ぜひこのあたりを修正して欲しいですよ」


「そう」


 オレがそう語り終えると彼女はオレを見ながら微笑む。


「相変わらず、よく読んでいるのね。誠一君は」


 窓から流れる風が彼女の髪を揺らし、その姿は幻想的であり美しさを秘めていた。


 変わらない日常。

 言い合う批判と感想。

 それを取り巻くオレの様々な人間関係。

 それらは少しずつ変化しながらも成長を遂げる。


 それはライトノベルも同じであり、前巻が面白くなかったからといって今巻もつまらないという押しつけはしてはいけない。

 それと同時に前巻が面白かったからと限って、今巻もその面白さのままというわけでもない。

 それら全て自分の目で見て判断して、そうして続けていくべきこと。

 だが、少なくともオレは最後まで付き合うだろう。それがどのような結末、終わり方、真実を迎えようとも。


 そうだ。そうした全部をひっくるめてオレはラノベが好きだし、それを書き続けてくれる作者を尊敬し愛している。これからもずっと。


 そうしてオレは今日もラノベを読む。

 オレの隣にいる美少女に絡まれながらも――

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