第28話 オレと隣の美少女と借り物競争①

「さあ、次はいよいよ借り物競争です! 参加する方は位置についてくださーい!」


 お、次の種目は借り物競争か。

 我が学園伝統の競技の一つであり、借り物といっても単純な物などではなく、特定の人を指名する場合があるのが特徴だ。

 去年なんて『恋人』なんて札を手にした学生が、隠していた恋人を連れてきて周り中から冷やかし混じりの祝福を受けたり、あるものは借り物競走の審査員に「いません」と告げた後、悲しい一位を取ったなど色々と曰くつきの競技でもある。

 しかし、そんな競技に迷うことなく出場する学園のアイドルが一人。

 無論、言うまでもない華流院怜奈である。


「では、位置について、よーい……スタート!」


 審判の発砲と共に選手達が勢いよく飛び出す。

 中でも真っ先に先頭に立ったのは華流院さん。

 さすがはスポーツ万能の肩書きは伊達ではない。彼女はそのまま地面に落ちている借り物競争の借り物が書かれた紙を手に取る。

 そこに書かれた内容に一瞬息を呑む華流院さん。


 なんだ、一体どんな内容の紙を引いたんだ?

 オレがそう思うと同時に彼女は即座に周囲を見渡し、その後観客席にいるオレと目が合うと顔をパァっと輝かせてこちらに駆け寄る。

 え、な、なに!?


「誠一君! お願い、私と一緒に来て!」


「えっ!?」


 突然の華流院さんのその宣言にオレだけでなく周囲にいた生徒達も全員驚きに声をあげる。

 どういうことだ? オレが必要な借り物……? もしかして恋人とか……?

 そんなアホな事を考えている内に華流院さんは「いいから急いで!」とオレを立たせるとそのまま審判が立つゴール手前へと向かう。


「生徒会長! これ!」


 と、そう言ってゴール手前に立つメガネをかけた美男子に華流院さんは手に持った紙を見せる。

 この人は確か……我が学園の生徒会長・綾小路(あやのこうじ)清彦(きよひこ)さんだったか?

 ちなみに華流院さんはこう見えて実は生徒会副会長をやっており、美男子の生徒会長綾小路と、それを支える学園のアイドル華流院怜奈と結構話題になっている。

 まあ、それはさておき華流院さんから紙を受け取った綾小路生徒会長殿は目の前にいるオレと紙に書かれた内容とを何度か見比べる。


「……華流院君。本当に彼がそうなのか?」


「ええ、間違いないわ」


 ハッキリと断言する華流院さん。

 え、一体なにが書かれているの。マジで気になるんだけど……。

 一方の生徒会長はその答えに納得がいっていないのか不満げな表情でオレを見つめる。


「……この学園一のアイドルにして人気者の君にそんな人物がいるとはとても思えないが……」


「なら、生徒会長。例の質問を彼にやってみてよ」


 疑惑の感情を浮かべる生徒会長に華流院さんが何やら謎めいたワードを告げる。

 例の質問? なんのことだ?

 と、そんなことを思っていると生徒会長から思いもよらぬ質問が繰り出された。


「ふむ。では、君、一つ聞かせてくれ。『異世オレハーレム』のことをどう思ってる?」


「大嫌いです」


 即答。

 そんなもの考えるまでもないわ。

 ほぼ条件反射で答えたオレであったが、生徒会長はその答えを聞くや否や納得したように頷く。


「どうやら本当のようだな。では通ってよし」


 その後、なぜか通してくれた。

 なんで?

 疑問に思うオレだが後ろから他の選手が迫っていたため、華流院さんはオレの手を握ったまま、そのままゴールへと駆け込む。

 うおお、はええぇ。さすがスポーツ万能。オレみたいなお荷物があっても問題なく華流院さんは一着を取る。


「やったー! 一着よー! ありがとう、誠一君! これもあなたのおかげよ!」


「いえいえ、それよりも気になったのですが、その紙に書かれた内容ってなんだったんですか?」


「これよ!」


 と、華流院さんはドヤ顔で紙を突きつける。

 そこに書かれた内容は――『アンチ』。


「…………」


 ……いや、あの。

 オレ別に華流院さんのアンチじゃないんですけど?

 特に嫌ってませんよ。ええ、マジで。最近はちょっと変な人だなーって思ってきたけどさ。

 なんでさっきの生徒会長はあんな質問と答えで通してくれたの? ねえ?

 そんな疑問が頭をよぎるが、当の華流院さんはこれまでにない晴れやかなドヤ顔をオレに向けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る