第108話 人外には人外の理由がある

東の空は既に明るくなって来ている筈だが、厚い黒雲に覆われている王都は闇夜

のようだった。


緊急通路を通って王城内へと向かっていた冒険者の二人が、オスカー団長のもとに

到着した。


「オスカーさん」


「二人共済まないが、少しの間こいつの相手を頼む」


ブラックランクの冒険者二人が、オスカー団長に代わってグールとの戦闘を

開始した。


グールとの戦闘を二人に任せたオスカー団長は戦線から一時離脱した。


「騎士団・団員は全員集まれ‼

お前たちは城内に戻って敵襲に備えろ。 いいな!」


「はい、了解しました」


騎士団の団員達は、オスカー団長の指示に従いその場を離れていく。



「おい、これで良いだろう。 二人共思う存分やってくれ」


オスカー団長が、戦闘中の二人へと声を掛けた。


「有り難い。 人が居るとやっぱり邪魔でしょうがないからな」


「さぁて、思い切りいきますか」


ブラックランクの冒険者の二人は、周りの状況を気にしなくて良くなった分、

グールに集中出来るようになり全力で立ち向かった。



王都内、中央広場では......。


ギルド長を中心に、ブラックランクの冒険者二人を加えて大鬼と対峙していた。


「こいつは、前回よりも5倍位強化されていないか。 全く刃が通らないぞ」


「ちょっと想定していた基準を見直さなければいけないようだな」


「それに、この体格で俊敏に動きやがる。 参るぜ」


生まれたてのグールよりも強化を繰り返した大鬼の方がそれなりに厄介なよう

だった。



闇の商人の屋敷、その屋上では......。


ジョーカーが、天候を操る為に用意した巨大な魔石に魔力を流して魔法陣を

起動させていた。


ふぅ~、この魔法陣は燃費が悪いですね。


私の総魔力の6割を持って行かれてしまいました。


グールや大鬼達は戦闘に突入したようですし、私もそろそろ限界に近づいて

来ましたから、魔力の注入を一旦止めましょうかね。


その時、ジョーカーは背後にジェロニモが立っている事に気付いていなかった。


「少しやり過ぎたようだな、初代の魔導師の弟子の息子よ。

生命までは取らないが、魔力は生命維持に必要な分以外は供給出来ないように

させて貰うぞ」


「はっ、えっ」


ジョーカーは、その場で意識を無くしてしまった。


そしてジェロニモは、そこにあった巨大な魔石を破壊すると魔法陣を消し去った。


それと同時に、王都を覆っていた厚い黒雲は全て霧散して、太陽の陽射しが王都を

照らし始めた。



「なんだ。 嵐が止み一気に晴れ渡ったぞ」

と、商店主が叫び。


「でも、お母さんまだ剣がぶつかり合う音が聞こえているよ」

と、子供が母親に問いかけていた。



強化された大鬼3体との戦闘を繰り拡げているギルド長達の元に......。


突然、源一郎が現れた。


「儂が、加勢をしてやろう。 ふんっ」


気合と共に鞘から刀を抜くと、一閃する。


すると、同時に大鬼達3体の首が胴体から滑り落ちた。


「お主達、後は任せたぞ」


そう言った途端、源一郎の姿が消え失せた。



その頃、王城内の地下牢の入口では、オスカー団長と冒険者二人が力を合わせて

グールと戦闘を繰り広げていた。


しかし、戦況は思わしく無かった。


「まだ、持ちそうか」


「いや、厳しいな」


「こいつ、戦闘中に強くなってやがるぜ」



そこへ......。


「貴方達では厳しそうね。 手伝ってあげるわ」


突然現れたヴィーナに驚く三人。


そんな三人を気にも留めずにヴィーナはグールに向かって右手を翳すとフリーズの

魔法を浴びせた。


瞬時に凍り付くグール。


ヴィーナは、凍り付いたグールに近付くとグールの頭上から踵落としを決めた。


それと同時に砕け散るグールだった氷の欠片がそこら中に飛散した。


そして、その場に残った黒い魔石を見つけたヴィーナは、それを足で踏み砕いた。



一連のヴィーナの行動を惚けた顔で見ていた三人は、ヴィーナが居なくなるまで

そのままの状態だった。

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