夏の海旅行4



 海水浴も三時ごろには終わりにし、俺たちはまた旅館に戻って来ていた。

 途中横浜の中華街にも寄ったため少々時間は経ち、現在は5時。


 部屋に入るなり、また金光はくつろぎ始める。


 「ふぃ~、疲れたぁ~」

 「姉さんだらしない。あとパンツ見えてるよ」

 「見せてるの……刀哉にぃに」

 「おい、もし本当にそうなら痴女として通報するぞ」


 スカートから白いパンツを丸出しにしている金光に言うと、にやっと少し頬を持ち上げる。


 「いやいや、本当は見たいんでしょ? 美少女妹のパンツ」

 「見たいも何も、お前俺にブラもパンツも散々見せてるだろ、試着のときに。それで今更どうしろと?」

 「刀哉にぃ、私が試着してる時そんな目で見てたんだね……エッチ」

 「そんな目ってなんだよ。というかそもそも連れてくなよ」


 前に樹に話したら引かれたぞ。

 やっぱり異常なんだろう、気づいてはいたが。下着売り場に行った時の周囲からの視線の痛さは敢えて無視してきたが、次からは止めよう。


 うん、どこの世界に妹の下着を一緒に買いに行く……というか、そもそも下着を男女で一緒に買うこと自体おかしい。今までの俺、毒されていたことに気づけ。


 眉間を揉みながら、俺も腰を落ち着ける。


 「兄さんこれ食べる?」

 「うん?」

 「置いてあった和菓子」


 すると、クーファがスッと何かを差し出す。それはテーブルの上に置かれていた和菓子だった。

 よく和風の旅館の部屋にはこうやって置いてあるが、割と美味しいことが多い。


 ということで、竹輪を縦に半分に切ったような形をしたそれを食べてみる………。


 「美味いな」

 「うん」


 何の味に似ているかは分からないが、素朴な味で美味かった。残念ながら数は三人分しかないが。


 「あぁっ!? 刀哉にぃとクーファちゃんがイチャイチャしてるー! 私を差し置いて!」

 「お前は疲れたんだったら落ち着けよ」


 和菓子を渡すついでに俺の傍にピトッとくっついたクーファを見て、金光が声を上げた。


 あとこれはイチャイチャではなく家族のスキンシップだ。多分。


 「刀哉にぃはクーファちゃんと私で扱いが違うよね。何で、何で?」

 「クーファは素直で可愛い。お前は可愛いがイタズラするし何なりだからな、扱いがぞんざいになるというか、相手が面倒になるというか……」

 「酷いっ!? 刀哉にぃ大好きオーラをちゃんと出してるはずなのに……パンチラも胸チラもしてるのに……」

 「なんだ俺大好きオーラって、あとパンチラじゃなくてお前はパンモロだし、胸はチラってないぞ」

 「それはほら、よくお風呂出た後に……」

 「もしこっちで風呂出たあとに洗面所の扉を開けっぱなしにしてるのがそれ目的なら、もう俺ん家の風呂は使わせん」

 「暑いから、暑いから開けてるだけですはい!」


 というかそれも胸チラどころじゃなくて全モロだ。お前は俺をどうしたいんだ、そういう目で見て欲しいのか?

 そんなことしてると将来彼氏が出来た時に彼氏が俺に嫉妬するぞ……ちなみに彼氏関係の話は金光とクーファには持ち出さないお約束。


 「……まぁ、クーファとお前で扱いを変えてるのは事実だが、どっちの方をより可愛がってるとか、そういうことは無いぞ。一応言っておく」

 「じゃあ兄さんは、姉さんと私を同じぐらい好きってこと?」

 「妹に順位をつけられるかって話だ……どうした金光、ニヤニヤして」

 「いや、刀哉にぃがデレたから」


 俺は金光にチョップをかました。


 「いったぁ……デレのあとはツンだね刀哉にぃ」

 「男のツンデレに需要はないから止めてくれ」

 「じゃあ耳元で『アイラブユー』って小声で言って?」

 「じゃあってなんだじゃあって。しかもその感じだと家族愛というよりは恋人や夫婦間でやる愛の囁きじゃないか?」

 「だから、恋人にするみたいに『金光、結婚しよう』って言って欲しいの!」

 「実の兄になんてお願いをしてるんだお前は……」


 しかもさり気なくアイラブユーから難易度上がってるし。愛の囁きから愛の誓いになりそうだ。兄妹での結婚は犯罪だぞ妹よ。


 すると、何かが琴線に触れたのか、隣でクーファが『はっ』と思いついたような顔をする。

 そのまま胡座をかく俺の膝に手をついてきて、もう片方の手を俺の耳につける。

 ついで耳元に口を近づけてきて───。



 

 ───兄さん、大好き……。




 「……兄さんが言わないなら、私が言ってみた……どう?」

 「あぁ、俺も大好きだ」


 ……どうしよう、シスコン度が高まった気がする。

 耳元で囁かれた言葉につい同意してしまう俺。いや、もちろん家族として好きという意味なのだが、それにしては過剰なものを感じる。

 同意した俺が言えたことではないが。


 そしてクーファの恥ずかしげに目を伏せる感じも、明らかに兄に見せるものでは無い。


 「むぅ、やっぱりクーファちゃんと圧倒的に扱いが違う」

 「今回は完全に不意打ちだったからな。もし金光が同じようにやってたら……」

 「やってたら、私にも大好きって言ってくれた?」

 「『実の兄に何言ってるんだ』って言ってた」

 「やっぱり扱いが違う!」


 やっぱあるよな、人によって。とは言え、本当に金光に不意打ちをされていた場合、俺も素直に返していたか、それとも常識的な回答をしていたか、正直なところ分からない。


 「ま、クーファの方がアドバンテージはあるな」

 「刀哉にぃのいけず! でも大好き!」

 「おうそうか、俺も好きだぞー」

 「雑!! 雑すぎるよ、刀哉にぃ……あ、撫でて誤魔化そうとしてるでしょ」


 雑ではない。俺の本心であるということをわかって欲しいな。

 不満を述べる金光の頭をごく自然に撫でると、それだけで大人しくなる。

 それでもなお不満はあるようだが、それ以上の言葉は出てこなかった。


 困った時は撫でる。金光やクーファ相手の時は結構重要だ。忘れないようにしよう。

 たとえそれが更なるシスコンに繋がるとしても。




 ◆◇◆




 「おーい刀哉、温泉行こうぜー」

 「ちょっと待て、準備してくから」


 少しすると外から樹の声がかかる。温泉か、そう言えばここにはあったな。


 「お前らも行くか?」

 「え、男湯に? や、流石に行くなら刀哉にぃだけじゃないと……」

 「女湯だよアホか」

 「刀哉にぃが女湯に?」

 「入るわけないだろ」


 何故必ず俺がセットなんだ。


 「今拓磨が叶恵さん達の所に聞きに行ってるぞ」

 「なら、そこに混ぜてもらえ」

 「俺が?」

 「今のは妹達に言ったんだアホか」


 女子の面々に混ざりたければ勝手に混ざってこい。それが許されるのならな。

 ただし金光達の裸を見るのは絶対に許さん。


 そんなことを話しつつ、俺は着替えの準備を終える。ちなみに浴衣があったので、それを持っていく所存だ。

 

 「ねぇ刀哉にぃ、私のパンツどこだっけ?」

 「俺の着替えの下」

 「あ、あった。ありがと」

 

 うん、別に聞くのはいいんだが恥じらいは持って欲しい。

 クーファの方は自分でちゃんと用意している。自立するのはクーファの方が早そうだ。


 中3にもなってこれだからな。金光はやはり子供っぽいのだろう。


 「準備完了っ! よし、刀哉にぃ行こう!」

 「お前は叶恵達と一緒に行くんだよ、あっちまだ準備終わってないみたいだから」

 「え、だって待ってくれてたじゃん」

 「部屋の鍵があるからな」


 明らかに男の方が出るの早いだろうし、俺が持っていた方が都合がいい。

 

 「迷惑かけるなよ、美咲も居るんだから」

 「うん、大丈夫」

 「クーファは心配してない。ただ……」

 「やっぱ温泉で女子会だよね!」

 「こいつが心配なんだ」


 はっちゃけ過ぎないようにして欲しい。

 

 


 その後拓磨と合流し、代わりに金光達を置いて行って、温泉へと向かう。

 向こうには桃華さんも居るし、問題は起こらないだろう。


 「ん? あぁ、ここ混浴があるのか」

 「え? ホントだ、何気初めて見たな」

 「言っとくが今は入らんぞ」

 「特に入る予定もない」


 ただ混浴は混浴で気になるのは確かだ。中がどうなっているのか、とか。

 人が居ない時間帯に行ってみるのも一つの手だろう。この宿、少なくとも沢山人がいる、という訳でもなさそうだし。


 青色の暖簾を潜り、脱衣所へと移動。置いてある籠には誰の服も入ってない。


 「これは貸切かもな」

 「思う存分堪能出来るというわけだ」


 サササっと服を脱ぎ、いち早く俺は扉を開ける。


 「おぉー、広い」

 「どうだ?」

 「良さそうな感じだ。お前らも早く来い」


 大理石のような黒い光沢のある素材で出来た浴室。中央に温泉があり、その周囲を囲むようにシャワーが。

 そして右奥には上の方に筒状の何かが取り付けられている少し小さめの湯船に、左奥は特に何も無いが恐らく水風呂。

 一番奥には露天風呂でもあるのだろうか、外へと続く扉があった。


 「ほぉ~、確かにこりゃいい」

 「温泉は久しぶりだな……あれは打たせ湯か?」


 あぁ、あの筒状のやつは打たせ湯か。壁にはボタンが設置されており、多分それで上から流れてくるのだろう。


 俺は体をテキパキと洗っていく。早いところ温泉に浸かりたい。


 どうやら日焼けはあまりしなかったようで、俺は普通に体を洗えていたが、隣では。


 「いってぇ~、めっちゃヒリヒリする!」


 と日焼けした樹が悶えていた。


 頭を洗う時もジャリジャリと、どうやら砂がくっついていたようで、それは少し痛かった。

 潮で感触が変な髪の毛も含め、しっかりと洗い流す。


 「お先~」

 「っ~、なぁ刀哉、後ろ洗ってくんね? 優しめに」


 先に行こうとした俺に樹がそんなことを言ってくる。


 仕方ないなぁ、と俺は樹のタオルを受け取り、それで背中を一気にゴシっ!!


 「痛っ!? ちょ、痛い痛い痛い!!」

 「フハハハハ! 容易にお願いなどしない方がいいぞ樹よ!」


 出鼻をくじきやがったお前にはこれぐらいが丁度いいだろう。背中を押さえて悶える樹に俺は爽やかな笑みを浮かべて。


 「いい仕事だった」

 「ふざっけんな!」


 樹の声が響き渡る。


 「お前ら、もう少しは静かにせんか。ゆっくりと温泉に入ることもできん」

 「そういうお前はさり気なく一番風呂かよ」


 いつの間にか拓磨は何食わぬ顔で風呂へと入っていた。

 俺も入ると、おぉ熱い。ゆっくりと慣らしながら入る。


 「ふぅ~……良いなこれは」

 「刀哉、そこにボタンがあるだろう、押してみろ」


 ふと、拓磨に言われる。湯船の中央には柱があり、その柱に確かにボタンが付けてあった。

 言われた通り、俺はそれを押すと………おぉっ!?


 「すごっ、ジャグジーか!」

 「おぉ、何かと思ったがこれはとてもいいぞ」


 拓磨も言った割には知らなかったらしく、湯船の横に空いていた穴からお湯が噴出する。俺もそこに座ると、勢いよく噴出するその刺激が丁度いい。


 「あぁ~癖になる」

 「お前らズリぃよ俺もやりてぇ!」

 「さっさと入ってこいよ」

 「まだ終わってないんだよ!」


 樹は未だ日焼けと格闘中らしい。


 「どれ、俺はあの打たせ湯のようなものでもやってくるとしよう」

 「あ、なら俺も」


 拓磨が移動するのに合わせて俺も移動。2人して筒の下に移動し、ボタンを押す。


 すると、結構な量のお湯が一気に頭上から降り注いできた。


 「お、おぉ! 勢いが強いな!」

 「だが何となく体に良さそうな感じはする!」


 ここに来て幼稚な考え。いやほんとに体に良さそうな感じがするんだ。こう、鍛えてますって感じ? 滝行みたいな。

 しばらく……とは言っても三分程度か。お湯は一度止まり、それと同時に押さえ付けられていた体がフッと軽くなる。


 「やっぱ負荷ってのは体を鍛えるのかもな」

 「体がさっきより軽くなった気はするぞ。確かに」


 なお、『気がする』以上の効果はない。


 一度湯船から上がり、再度中央へと戻ってくる。その頃には樹も、顔を歪めながらではあるが、洗い終わったようだ。


 「うへ~ヒリヒリする……お前らはいいなぁ」

 「拓磨は元々日焼けしてる方だし、俺は日焼けしないからな……ま、男らしくなった思え。俺なんかこんな白いんだぞ」

 「確かに刀哉は肌が白いな。日焼け止めでも塗っていたのか?」

 「いや、生まれつきの体質だと思う。どうも色素が少ないだかなんだかで」

 「あぁ、色素欠乏症とは違うのか?」

 「残念だが、そっちの知識は皆無でな。アルビノのことか?」

 「そんなところだ」

 「わからん、としか」


 とはいっても別に異常なほど白いわけではない。白い方ではあるが、病気や疾患と言えるほどじゃないだろう。

 日焼けしないのはよくわからんが、まぁそういう人もいるだろう。


 「ところで刀哉、実は朝からずっと聞きたいことがあったのだが」

 「うん?」


 改めてジェットバスを樹も加えた三人で堪能していると、ふと拓磨が呟いた。

 お湯の音が反響して声が聞こえにくいここでは、呟くというには結構な声量ではあったが。


 「───お前、あの妹達とどこまでやっている?」

 「おまっ、バカ野郎それは聞いちゃいかんだろ!?」

 

 拓磨の言葉に真っ先に樹が反応した。

 どういう意図で拓磨が聞いてきたのかはわからないが、少なくとも樹は失礼な想像をしているだろう。


 「……それはデリケートな話だな」

 「え、マジなの?」

 「ほう、面白い」

 

 あぁ、単純な男子会的ノリだったか。ならそこまで考える必要はないな。

 拓磨の笑みを、俺はそう解釈した。


 「そうだな……お前らも見ての通りうちの妹達はとにかく可愛い。正直あいつらより可愛いと思う相手を俺は見たことがない。というかぶっちゃけ俺の妹は超がつく美少女だしな」

 「(おい、こいつ言い切ったぞ)」

 「(シスコンの名は伊達じゃなかったか)」


 俺は無視をした。


 「そんな妹だ。俺も必然的に優しくなるわけだが……その実俺は教育というものを失敗してしまった」

 「(妹を教育……卑猥に聞こえるのは何故だ?)」

 「(刀哉が少し変なテンションだからだろう)」

 「俺は優しくしすぎた。あいつらの望みを全て叶えてしまい、最大限の愛情を注げた結果、あいつらは悲しいことに世界でも類まれな超絶ブラコンとなった……」

 「真実なのか作り話なのか判断に困るな」

 「本来なら鼻で笑い飛ばすが、あの姉妹をみてるとな……」

 「信じるか信じないかはお前ら次第だ」

 「あ、そういうオチか」


 オチっていうなよ。場が白ける。


 俺が語った内容にリアクションが取りにくそうな2人。


 「俺としては、過去の話もそうだが今現在の話をして欲しいところだったのだが」

 「と言うと?」

 「部屋で何をしていた」

 

 尋問されている気分だ。一度ジェットバスが切れたので、俺は中央までボタンを押しに行き、戻ってくる。

 そして噴出する湯に身を任せつつ、一息付きむしろ問い返した。


 「仮にもし何か良からぬことをしていたとして、お前らはどうする?」

 「通報する」

 「学校中に吹聴する」

 「聞いた俺が馬鹿だったな、お前ら最低だ」

 「いや、兄妹が出先で良からぬことをしていたら通報してもいいのでは?」

 「一応聞いておくが、その良からぬこととやらはどれだけ過激なことだ?」

 「ラブのつくホテルで男女がすることぐらい過激なことではないか?」

 「俺的にはぶっちゃけドロドロの淫らな生活すら有り得そうだと思ったり?」

 「分かったお前ら殺すから表出ろ」


 俺と金光達をどんな目で見てるんだこいつらは。


 「んで、実際のところどうなんだ?」

 「誤解〃〃を裏切るようで悪いが、お前らが考えているようなことは何も無い」

 「本当か?」

 「本当だ」

 「本当にそうなんだな? 俺としては友人が妹に手を出すような輩だとは思っていないが、それでもあの美少女妹達だ」

 「逆に考えろ。美少女でも妹だ」

 「ま、ウェスターマーク効果もあるしな。いくら刀哉でも、妹に手を出す可能性は無いだろう」

 「まて、いくら俺でもってどういうことだ?」


 俺は誰にも手を出したことは無いぞ。


 ちなみにウェスターマーク効果とは、ようは幼い頃から一緒に暮らしている異性とは、血が繋がっていようがいまいが、そういう関係になるのを拒む傾向があるという心理のことらしい。

 一方で、生き別れの兄妹姉弟の場合、そういう関係になる可能性はむしろ普通より高いらしいが……自身を不利にするような発言をするつもりは無い。


 「そうだな。ところで念の為に聞くが、お前妹の下着を見た事はあるか?」

 「拓磨、お前今日やたら突っ込んだ話を聞いてくるな……下着ぐらいは見るだろ」

 「あれ、そう言えばお前この前下着売場に一緒に行ってる的な話を……」

 「そんな話をした覚えはない」


 一度樹の言葉を遮る。


 「変な目で見てないだろうな?」

 「見るわけないだろ。たかが妹の下着で……」

 「ちなみに裸は?」

 「お前もう今日なんなんだ。裸も見慣れたわ」

 「裸を見慣れたってどういうことだよお前!」


 樹が突っかかってくる。いやほんと、うちの妹(特に片方)は貞操観念がゆるゆるというか、やたらと家の中だと肌を露出したがるんだよ。風呂上がりとか。

 さっきもその話が上がったがな。


 「全くどうしてこうお前らは俺を変態に仕立て上げたがるんだ」

 「いや、今回に関しては全く根も葉もないという訳でもないだろう」

 「ありもしない話だぞ」

 「でも下着は見たんだよな?」

 「まぁな」

 「裸も見慣れてるんだろ?」

 「……まぁなって、美少女でも妹! 裸を見ても何も感じなければ、ましてやそういう感情なんて起きるはずもないってーの。それが、俺達が同じ部屋でも問題ない理由だ!」

 

 全く、拓磨今日はグイグイ聞いてくるな。そんな俺達の関係が気になったのか。拓磨なりに、どこか疑問に思ったところがあるのだろうか。


 兎にも角にも、もちろんそんな事実など一切ない俺としては、いくら話題のネタとはいえ、辟易とするものがある。


 「ふむ……まぁ、刀哉が手を出してもいなければ、妹君をそんな目で見ていないこともわかった。疑って悪かった」

 「全くだ。確かに俺達は普通の兄妹にしては仲が良すぎるかもしれんが、健全な関係だ」

 「なぁんだ、少しは真実があっても面白かったんだがなぁ」

 「いや俺が言うのもなんだかあったら問題だからな……ただ、まぁ将来は不安だな」

 「なんだ、自分から掘り下げるような内容があるのか?」

 「いや、妹離れ出来るかが不安だ」

 「ぶっちゃけたなお前……」


 正直金光やクーファがもし彼氏などを連れてきたら、俺はどうするだろうか?

 十中八九殴り飛ばす。俺の妹は何処の馬の骨ともしれぬ輩にやるつもりはないってな。


 「そして金光達は兄離れ出来るのだろうか……」

 「あぁ、さっき言ってた優しくしすぎた問題が出てくるんだな」

 「ちなみに妹の下着は家族兼用のトランクの中に一緒に入ってる。しかも入れたのは俺だ。自分の下着を兄に任せるという妹もなかなか居ないぞ」

 「妹居た事が無いから分からんが、確かに無さそうだ」

 「そして何かある度に全身を密着させる妹をどう思う? さっきなんか紆余曲折あってクーファに耳元で『兄さん大好き』って言われたぞ。思わず俺も好きだって返したが」

 「おまっ、それはもちろん作り話だよな!? 嘘だよな!? あのクールな美少女妹に大好きとか言われて好きと返すとか、恋人のやり取りだぞ!」


 だからそれは俺も思ったって。


 狂乱気味の樹の隣で、思案顔の拓磨。


 「……すまない、先程の疑って悪かったという発言は撤回してもいいか?」

 「おいこら、それはつまり俺が妹にそういう目を向けてるかもしれないという疑惑が再び上がってきたことになるんだがどういうことだこら。さっきのやり取りはあくまで家族のスキンシップだ。少し過剰なだけの」

 「恋人同士だとしても甘々すぎて吐き出すわっ!」


 でもなにが一番困るって、それを心地よいと感じる俺がいることだ。その甘々で、妹を甘やかし、妹に好かれるこの関係が、手放しがたいと感じてしまうことなんだ。


 妹離れできる気がしない……。


 「……あーダメだな。少し外で頭を冷やすわ。ちょっと胸焼けしそう」

 「俺も、刀哉の疑惑に関しては一度保留にして、冷静になるとしよう」

 

 2人はそう言って露天風呂の方へと向かった。どうやら俺の提供した話題は盛り上がりはしたが、疲れを残したらしい。

 風呂で疲れるというのも変な話だが、なんだか妹に関して色々と友人に話したことで、俺はスッキリしていた。もちろん何もかも赤裸々という訳では無いが、少なくとも拓磨達の反応を見て『あ、やっぱりおかしいんだな』という再認識と、『やっぱ俺は愛されてるのか』という金光達への少しの感謝、に似たようなものは感じた。


 まぁ、あれだけやって好かれてないと考える方が無理か。これは流石に自意識過剰ではなく、客観的な事実だと思う。


 「……俺も露天風呂行くかな」


 ザバッと体を持ち上げ、露天風呂へと続く扉を開ける。途端吹き付ける風に少し鳥肌がたちそうになりつつ、既に湯に浸かる2人の元へ。


 さて、今度は程々の話にするとしよう。また妹関連の話を出したら、長いだろうし。


 

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