第54話 武器化……できない?
多分そろそろソティがメインヒロインかと勘違いしてくる頃ですね()
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「…………」
「ん、どうした?」
戦闘の度に変わる雰囲気に少しの不安感を抱きつつ、数度目の戦闘を終え、ソティがこちらまで近づいてくると、さっきまでのように倒れ込んでくるのではなく、ぎゅっぎゅっと袖を引いてきた。
そのまま俺の手を握ると、その後、じっと俺を見つめてくる。
何を訴えているのか。終わりにするという雰囲気ではないが……俺が首を傾げていると、ソティは片方の手に、魔剣を召喚した。
そしてその魔剣を、俺に手渡してくる。しかし、魔剣はソティの手から離れた瞬間、虚空に消滅してしまう。
再度、今度は両手で俺の手を掴む。
「……もしかして、俺に使って欲しいのか?」
「……………」コクコク
ふむ、元々そのつもりで来ていたが、ソティはどうやら俺に魔剣を使って欲しいらしい。
ソティが出す魔剣はあくまでソティのもので、それ以外の人物には渡せないらしい。だからこそ、ソティ自体が魔剣になる必要があるのだが。
「じゃあソティ、魔剣になれるか?」
「……………」
俺の言葉に、少し考え込むような仕草をした後、コテンと首を傾げた。
その後手を握るような動作をしたり、目を閉じてなにか考え事をしたりしたが、目を開いたソティは、フルフルと。
「お前自身、分からないのか?」
「……………」コクリ
控えめに頷く。参ったな、武器に戻れないのか。
「どうするか……武器に戻れないのはな………」
「…………!?」
俺がどうしたものかと少し難しい顔をすると、その途端のことだ。ソティは慌てたような仕草と共に、俺に抱きついてきた……いや、しがみついてきた。
そして、俺が弱点としている上目遣い……うっ。
「なんだなんだ、一体どうした?」
「……………」
まさかこれが武器に戻る方法? いや、それにしてはソティの表情、というより雰囲気がやけに必死というか。
一応ソティはロリとは言ってもルナ達とは違い、身長も150はある。抱きつかれると、クロエちゃんに抱きつかれている時のような、いたたまれなさを味わうのだ。
言葉が話せない分動作による意思表示が必要になるのだが、これは一体なんだ? さっきも言ったが、唐突な甘えなんかにしては必死すぎる。
俺の問いかけに、ソティは何も答えない。僅かな不安を瞳に浮かべて、俺を離さない。
本当にどうしたのか。まだ会って数時間の俺に一体何を求めている。
────会って数時間?
それはつまり、あまり信頼関係を築けていないということだ。しかし、ソティは初めての所有者である俺を、長らく人と接しなかったからか、無条件で信用している節がある。
だからこそ、有り得るのは俺への期待ではなく、信頼から来る
「なんだ、もしかして、俺がお前を見捨てるとでも思ったのか?」
「……………」
頷くことこそなかったが、ソティは更にギュッと自身の体を寄せてきた。
恐らく正解なのだろう。少しだけ揺れる眼は、俺が見限って捨てることへの不安を語っていた。
そんなソティが、俺にしがみつき、震えるソティがつい可愛くて、俺は無意識に笑いながら、その頭に手を伸ばす。
「……もう少しは自分の主を信用してくれないか? まぁ会ったばかり……いや会ったばかりじゃないが、所有者になったばかりの相手を信用するのは難しいかもしれないが、別にソティに武器だけの価値を求めてるわけじゃない」
「……………?」
コテン、とソティはまた首を傾げる。ちょっと、難しかったか?
「要は、武器に戻れないからって捨てたりしなければ嫌いになったりもしないってことだ。ソティはソティで、まずはゆっくり、その体に慣れていってくれればそれでいい」
確かに魔剣を使えないのは残念な話だが、それとこれとは話が別だ。ソティは擬人化という力を得て、意志を持ってこうして行動することが出来る。
ならばそれだけで十分な価値ではないか。戦力増強なんて、それに比べたらおまけ程度にしかとらえていない。
……こうもソティに優しくしているのは、見た目が少女であるとか、俺がこの子の過去を覗いたとか、そういうこと以外にも、理由がある気がする。
なんだろうな、本当に……他人とは思えない、とまでは言わないが……。
しなだれかかるようなソティ。こんな甘える仕草をされたら俺もなんというか保護欲を刺激されるわけで、ついつい兄面をしてしまう。
トントンと肩を叩き、「今日は帰ろう。また今度、試しに来ような」と俺は一言。
こそばゆそうに目を細めていたソティは、先程の俺の言葉を信じてくれたのか、コクンと頷いた。
「……………」
……こちらを見上げるソティの目が、今までよりキラキラしていて、熱っぽく見えたのは、きっと気の所為だろう。
俺がまさかの『ナデポ』と『ニコポ』をしてしまったなどとは考えるまい……既にクロエちゃんやルナ達にしてるような気がするが、それも気の所為だ!
変な称号をつけられる前に帰ることにしよう。
◆◇◆
多分手遅れだろうな。
何がとは言わないが、そんなことを思った俺は、迷宮から出ると丁度夕方辺りだったことに気づいた。
「割と長いこといたのか……レベルでもあがったか?」
「…………」コクリ
うん、それは良かった。そして自分のレベルがわかるのだろうか、ソティは。
確認してみれば、レベルは3に上がっていた……レベルの上がりが遅くないか? いや、武器にレベルがあること自体おかしいし、比べることは出来ないか。
というか、俺のレベルの上昇速度がおかしいのだろう。レベル300を超えた俺だが、今日ので1レベルだけだが上がったぞ。俺が倒したわけじゃないのに、しかも10階層辺りの弱い魔物だったのに。
たまたまレベルが上がるところだったのだろうか。だがもうレベルが上がってもある意味恩恵が少ないというか………。
ハルマン商会への道すがら、気持ち密着度が増したソティと共に周囲からの、男性からの怨嗟とそれ以外からのなんとも言えぬ視線(こんな往来でこれでもかと言うほどくっついているのは中々居ない、しかも相手は美少女)を受けながらというのは、俺も心にくるものがあった。
ソティ、もしやこれは新手の嫌がらせなのか? その人形のように綺麗な顔の下に、実は俺に対する不満を隠しているのか? それをこんな形で解消しようと言うのか?
なりたての所有者なのだから不満が溜まるのも有り得るだろうけども。
そんなこんなで微妙な気持ちの中ハルマン商会に辿り着くと、色々と用を済ませたらしいハルマンさんが、俺達を見て苦笑いをした。
「とても仲睦まじいですね」
「からかわないでください。そんなことになれば、俺が刺されてしまいます」
「彼女達のことですか?」
「えぇ、ルナとミレディです」
「あの子達とは、上手くやっていますか?」
「少なくとも、自分的には上手くやっていると思います」
「それは、大変良かったです」
膝枕をしてもらえる程度には心を許してもらっているずだ。
すると、ソティが俺の服の裾を、握る。
「…………」ぎゅっ
「おや………ハハハ、どうやらトウヤ様、貴方はとてもその子に懐かれているようですね。昼にお会いした時はそうでもなかったのに、今は貴方と数言話しただけで、睨まれてしまいました」
「いや、その……すいません」
気を引くように裾を引き、上目遣い。
その後ハルマンさんに視線を向けた。特に表情は変わっていないのに、睨んでいるとわかるぐらいには雰囲気が尖る。
いや、迷宮での『見捨てない』宣言がそんなに効いたのだろうか。
俺は取り敢えずハルマンさんに謝るしかない。これは嫉妬と捉えていいんですかねソティさん。
「いえいえ構いませんよ。むしろ、とても良いものを見させていただいて感謝すらしています。今やトウヤ君の幸せは、私の幸せのようなものですからね」
「は、はぁ……たまにハルマンさんの言葉が重く感じられるのですが」
「それはもう、私からしてみれば貴方は命の恩人だけでなく、大変恐れ入りながら、面白いことを見せてくれる友人のような存在でもありますから。私はそんなトウヤ君のためであれば、命を投げ捨てることすら出来るでしょう」
いやいや止めてくださいよ! 重いって、ハルマンさんの言葉重いですから!
でも友人と言ってくれて少し嬉しい俺がいる。どう頑張っても歳の差的に友人になるのは難しい相手なのだが。
「……友人と言うのであれば、そう簡単に命を投げ捨てるなんて言わないでください。というか、助けられた命と言うなら大事にしてください」
「相変わらず、お優しいですね」
俺はただ苦笑いをするだけに留めた。
そろそろソティがまた俺の気を引き出す頃だろう。そうなる前に、ソティの頭の上に手を置き。
「それでは、アールレイン王国に戻りましょうか。ハルマンさんも、良いですね?」
「えぇ、私の代わりの者にはしっかりと言っておいたので、大丈夫です」
「じゃあ、また目を瞑ってください」
俺が言うと、ハルマンさんはその場で目を瞑った。それから俺も、ソティを引き寄せる。
「…………ぁ」
少しだけ、ソティが声を漏らした。本当に、微かに音が出ただけだが、驚いたように。
だがそれは、すぐに転移してしまったため、確認出来なかった。まぁ、きっとどこかでまた、聞けることもあるだろう。
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