第43話 お昼時
新しくダイイングライトとゴーストリコンというゲームを買ってやってたら、いつの間にか時間泥棒の被害に遭ってしまいました……用心せねば。
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知識的にも天才であるという話がクラス内で広がる中、昼休みを迎えた俺は、昨日の教訓を活かして授業が終わり次第、食堂にすぐに移動し、通常の牛丼を頼んだ。
「アンタにはサービスだよ!」
そんなことを言いながらおばちゃんが牛丼を大盛りにしてくれたのは、昨日あの名状しがたき牛丼を、ずるを使ったとはいえ食い切ったからだろうか。
そのうち在庫処分とか任されそうだ。食える人居ないだろうし。
まぁ、味は美味しいから量さえ間違えなければいいんだが、特盛と通常とで使っている肉が違うのはなんなのだろうか。今食べている牛肉は普通の脂っぽさで普通に美味しいが、昨日のは有り得んほどの脂だったし。
牛丼と言うからには、アレも牛系統の肉なんだろうが……謎だな。
ちなみに拓磨達と食うかも迷ったが、結局遅くなってしまったら食べるのが大変そうなので、イブとしての立場も考えて、やめておいた。
そうして一番乗りに食堂に入り、一番で食い切った俺は、まだ授業終わってから2分ほどなのに既に空きがなくなってきている食堂を後にし、さてどうするかと校内を当てもなく歩く。
この学校、俺達が元々通っていた高校の数倍は敷地が広い。だから普通に回ろうとしたら、廊下だけ通ったとしても一時間単位でかかる。
それに加えて、縦もとにかく高い。階段は通常の2倍以上あるし、天井が高いから声も反響する。そこがまたファンタジーな感じでいいのだが。
研究棟というところもあって、簡単に言えば研究所のような場所か。研究室がいくつもあって、魔法に熱心な教師や生徒が利用しているらしい。
室外に魔力が漏れないような処理が施してあり、魔力の供給もされやすいため、魔法の実験にうってつけなのだとか。他にも魔法の記録ができる魔道具があるらしいが、そういうのを聞くと、最早地球の現代技術並みではないかと思う。
異世界の技術水準はもう少し下を維持するべき。あくまでテンプレを守るならという話で、技術的には高くても何らおかしくは無いと思う。
魔道具が機械の代わりを務めてもおかしくは無いもんな。ただ複雑な回路という回路が無いから、そのせいで技術進展が少ないだけで。
それを考えると、やはり日本の技術者は頭いいよな。歴史に残るような人物と自分を比べてみると、やはり格が違うと思う。
ただ、才能に関しては俺だって行くところまで行けば、地球でも大成していたかもしれない。才能あってこその今の俺だと思うし。
取り留めのない思考をしていると、中庭のような場所につく。どうも、校舎と校舎の間に設置されているその場所は、綺麗なのだが、人はほとんど居なかった。
ほとんど、というのは、1人は居たからだ。
「こんにちは」
「……」
弁当を膝の上に乗せて、水色のような不思議な色合いをした植木の下のベンチに座ったリーゼロッテ。
やぁやぁと声をかけながら近づくと、優雅に食事をしていたのに一転、それに似合わぬムスッとした顔を向けてきた。
昨日のお礼を言ってきた時の態度はどこへ消えてしまったのか。あれはあれで終わり、ということか。
しかし、明確に拒絶されない限りは平気だろうと見積もって、俺は近づいていく。
「この学校にこんなスポットがあったんだね。知らなかった」
「………」
「って、まぁまだ入ってきて2日目だし、当たり前といえば当たり前か」
「………」
うん、なんか悲しい。
リーゼロッテは隣に俺が座ると、ベンチの端に移動して距離を取ってくる。そのままこちらを見ずに黙々と箸を動かすだけだ。
一人で喋っていると、独り言ではないから余計に虚しい。無視される気持ちを俺はあまり味わったことがないため、余計に刺さる。
うーん、どうするか……。
「その弁当、リーゼロッテが自分で作ったの?」
「………」
……肯定か。悪いけど、喋ってくれないなら表情から思考を読み取るだけなのだ。
それでもほとんど表情は変わらないが、分かるものはある。最早超能力の域に達しそうなほどの読心技術は、リーゼロッテの思考を詳細に俺に伝えてきた。
「確か台所は寮の上位クラスしかないって聞いたんだけど、リーゼロッテはその上位クラスっていう部屋に住んでるのか」
「………」
何だか自分で話してることがストーカーじみてるような気がしてきたが、仕方ない。今思いついた話題がそれしかないのだ。
しかし、思考は読み取れるものの、相変わらず明確な反応は示さない。これでは結局俺が一人で喋っているだけだ。
こんなところを誰かに見られたら恥ずかしいな。
「それにしても、弁当もってくるのはカップルが多い中、良く食べようと思えるね。いや、だからこそのこの場所なのか」
「……別に。そんなの全然気にならない」
うん? 今の会話がリーゼロッテの琴線に触れたのか、控えめに返事が返ってきた。
「というか、そもそもカップルとか意味わかんない。一緒にご飯食べてイチャイチャしてウザイしまじ有り得ない。ホント死ねよカップルとかリア充とか。見せつけてんじゃねーよ」
……うん、いやほんと、控えめなんかじゃないね。
どうも琴線というか、触れたのは地雷だったようで、むしろ踏み抜いてしまったようだ。
突然俺の隣でドス黒いオーラを放ちながらブツブツと怖いことを呟き出したリーゼロッテは、言葉だけでは足りないのか、弁当の底を箸で何度もガツガツと叩いていた。
こら、お行事が悪い、とはとても言えない雰囲気だ。
「あのー、リーゼロッテさん?」
「大体友達とかもよく分かんないし一緒に話して何が楽しいの。そんなことするぐらいな一人で剣とか魔法の練習してる方がよっぽど有意義だし相手に付き合って時間とられることも無いし一人サイコーホントサイコー」
「ちょ、リーゼロッテさん、戻ってきて? おーい!」
なんだなんだ一種のヤバイ系なのかこの子。息継ぎをしろ、酸欠で死ぬぞ。
思考がトリップしているリーゼロッテに俺が言うと、そこでリーゼロッテは『はっ!?』と我を取り戻したように口が止まった。
そして、ぎこちない動きで俺の方を見る。
「……………………それじゃ」
「うん、ちょっと待って」
わなわなと震え、大きく間が空いた後、さり気ない動きでその場を立ったリーゼロッテの腕を、俺はサッと掴んだ。
「…………」
「…………」
一瞬、時間が止まった。リーゼロッテの僅かに見える頬を冷や汗のようなものが伝い、掴んだ腕もどこか震えを伝えてきている。
しかし、これは話題を広げる絶好のチャンス。逃すわけには行かない!
悪いがもう少し付き合ってもらうぞ!
恐る恐る振り返ったリーゼロッテに、俺はそんな意味を込めた笑みを向けた。
リーゼロッテの目が若干涙目だったのは、気のせいじゃないだろう。
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